二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 薄桜鬼 浅葱色の風と放浪鬼 ( No.10 )
日時: 2012/11/29 21:20
名前: 流夢 (ID: O72/xQMk)

7話「出会イノ唄」


「す、すみません。歌声が聞こえて…つい!」

はっとして、その「少女」はぺこりと頭を下げた。
真琴は固まったまま微動だにしない。
そして、喉の奥から「…あー、と…」と声を出すと

「うっわ!何この小さい娘!!取り敢えず可愛いんだけど!?凄い抱き締めたい!」

等と大声で言い出した。
その少女は何が何だか分からず、困り顔をしていた。
言いたい言葉だけを言い尽くした真琴は、そんな彼女を見て淡く笑った。

「ああ、御免!いや〜君すっごい小動物みたいで可愛いから、つい」
「そ、そうですか…?」

真琴は満面の笑みで返す。
少女は困り顔で疑問符で返した。

「俺は宵明真琴。んーと…ちょっと色々あって暫く此処で世話になることになったんだ。君は?」
「私は雪村千鶴と申します。私もちょっと此処で世話になっている身で…」
「…雪村?………どっかで聞いたことあるな…」

難しい顔をして、顎に手をやった。
ぶつぶつと何か呟いているが、聞き取れない。
今度は千鶴が心配した顔で真琴を覗き込んだ。

「 ?如何かしましたか?」

考えごとに夢中になっていたのか、真琴はびくっと一歩後ろに後退りした。
そして手をぶんぶん振って、

「何でも無かった!気のせい気のせい」
「そうですか。難しい顔されてるので、お腹でも痛くなってしまったのかと思いました」

真琴は気を取り直して三味線を構える。
そして千鶴を見下ろして言った。

「まぁ、出会いの一曲ってことで…如何?聞いていかない?」
「わあ!良いんですか!?先程の歌声素敵でした!是非!」

三味線をひと掻きすると、廊下から外を見る様に座る。
千鶴も真琴の隣に正座する。
真琴が歌い始めの息を吸った。

「温かい日差しの中で、君は何を思っているんだろう…君と僕が、離れてしまってから…途方もなく歩いてきたこの道には、笑顔と涙が幾つもありました……♪」

真琴は何時もにまして調子が良いのか、今日の青空のように澄んだ声で唄う。
千鶴も眼を閉じて、気持ち良さそうに真琴の歌を聴いていた。

「これは…君との別れではなく、束の間の旅路…君との思い出を振り返る時…君の笑顔と被る貴方の笑顔が、僕の心に呼びかけてくる…また何時か此処で会おうと約束した言葉を…僕は、忘れてないから、また何時か思い出の場所で…桜散る、あの大樹の下で……♪」

気持ちよく唄い終わった真琴の横で、千鶴が小さく拍手した。

「良い曲ですね…。凄く、素晴らしい唄だと思います。歌詞は元々あったものですか?」
「いや、即興だよ。俺の作った唄は殆どって言って良い程即興」
「でしたら尚更凄いですね。ちょっと感動しちゃいました」

千鶴はにっこりと笑って見せた。
その笑顔に、真琴は満足そうに笑った。