二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 薄桜鬼 浅葱色の風と放浪鬼 ( No.33 )
日時: 2013/01/17 22:02
名前: 桜舞姫 (ID: O72/xQMk)

20話「風は攫う」

原田が市中で浅葱の髪を持つ少女—杏音に遭遇したその日の夜。真琴は
また寝付けずに、三味線を持って縁側に腰かけていた。
そして、唄が始まる。

「風は何もかも攫って行く〜君との輝く思い出も全て……でも、何も
 かも失うわけじゃないよね…君の声と笑顔はいつも〜心の中で…
 嗚呼、笑ってくれたね…♪」

か細い声で、しかし優しい声が新選組屯所の中庭に響いた。
曇りで星も見えない空の下歌っても、聞く者は誰もいない。しかし真琴はそれでも良かった。

「俺はそれでいい…想いを唄えれば…」

ベン、べベン…。静かに三味線を鳴らしてみる。その音に答える者も、
寝静まった屯所には誰もいない。

「なぁ、何処にいるんだ…?」

心に浮かぶは、一人の少女。その笑顔と声は、今でも心の中にある。

「なぁ…茜音…?」


夜の街を歩き続ける、一人の少女。行く当てのない足は彷徨い、しかし
何かを目指してただ直向きに進み続ける。

「嗚呼、何処に居られるのですか…?」

彼女は悲しみに染まった声音で、一人呟いた。

「ねぇ…兄上…?」

その声すらも攫おうというのだろうか。…風が強くなってきた。