二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第10話 校舎案内 ( No.44 )
日時: 2013/02/07 18:53
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

〜昼休み・2年教室

霧野「アイツがこの学校に!?」
神童「ああ、とりあえず同じ学校の方が色々都合いいだろうって、警察の方が。」
霧野「そうか……。」

空いた神童の前の席に座った霧野が、考え込む仕草を見せる。

霧野「それで、月乃が試合に出た理由は分かったのか?」
神童「あ……。」

ハッとした神童の表情に、霧野が顔をひきつらせた。
一番肝心なのは神童も理解していたが。

神童「すまない、携帯電話の説明をしている内に忘れて……。」
霧野「……どんだけ長く説明してたんだ?」
神童「ああ、だいたい——」

言い掛けて、ふと神童は違和感を覚える。なぜあんなにも長く?

霧野「まさか携帯電話を知らないなんてことは——」
神童「いや、知らなかったんだ。」

神童は、確信を得ていた。彼女は携帯電話を知らない。
対人関係を築くのに必要であった存在を忘れるなど、考えられるだろうか。
携帯電話のバイブに驚いていた彼女を思い出しながら、神童は考え込んだ。



美咲「じゃあまずは1階から案内するねー!」
歌音「……橘さん、どうして私まで。」
美咲「つきのんと交友を深めよー!」
月乃『つきのんって何ですか。』
美咲「あだ名だよッ☆」

ばっちり決まったウィンクに、月乃は携帯電話をそっと閉じた。
この歌音と月乃相手に、素晴らしいテンションだ。

美咲「つきのんには何が無くとも保健室だね! この前倒れたのはビックリしたよホント!」
歌音「そうね、橘さんはともかく、月乃さんは気をつけて?」
美咲「あたしはともかくって!?」
歌音「ほら、言うでしょう。何とかは風邪引かないって。」
美咲「あー、何とかって置き換えても単語が聞こえるよー。」
月乃『何とかって何ですか』
歌音・美咲「え?」

日本人の常識を知らない中学生が1人。
冗談かと思った2人は、月乃の真っすぐな目を見て本当に知らないのだと悟る。

歌音「……バカよ。」
美咲「ええっ!? そこ普通に言っちゃう!?」
月乃『なるほど』
美咲「つきのーん!」
天馬「……何やってるの?」

大げさな泣き真似をする美咲と、格言を携帯のメモ機能に打つ月乃と、次の案内場所を考える歌音。
傍から見たら泣く子供を無視する2人の姉妹。通りかかった天馬と西園は、迷わず声をかけた。

歌音「6月と西園君?」
月乃『6月とは?』
歌音「6月は松風月とも呼ばれているの。」
月乃『なるほど』
天馬「歌音、良く知ってるよね……。」
歌音「むしろ日本人は無知すぎると思うわ。」

月乃はメモに『松風天馬→6月(松風月)』を追加する。

美咲「歌ちゃんが呼び続けてるから、他のクラスにも6月って広まってるみたいだよ!」
歌音「その歌ちゃんってやめて。」
天馬「広まっても嬉しくないよ!!」

美咲は、あははっ、と笑った。

西園「そう言えば3人、何してたの?」
美咲「つきのんに校舎を案内してたんだよ! 2人も暇そうだし一緒に行かない?」
西園「行く! あ、僕西園信助!」
天馬「俺は松風天馬。よろしく!」
月乃「……。」

無邪気な笑顔で2人は自己紹介をした。試合の時は機会が無かったなぁ、と思いながら。
月乃は携帯電話をしまい、軽く頭を下げて美咲を振り返る。

美咲「あっ、それじゃあ……次どこいこっかな?」
歌音「とりあえず、本校舎を全部見ればいいと思うわ。」
美咲(つきのん、人付き合い苦手そうだなぁ……。)

でもあの2人なら、と美咲は天馬と西園を見る。
2人は反応が薄かった事に戸惑った様子を見せるも、歌音の提案を聞いて階段を跳ねるように上がっていく。

天馬「3人とも、早くしないと昼休み終わっちゃうよー!」
美咲「まだぜんっぜん時間あるよ!」

天馬と西園を追い掛ける美咲を見失わないように、歌音と月乃も階段を駆け上がった。

*(省略)*

美咲「うん、これで本校舎制覇!」
西園「じゃあ次は外だね!」

正面の昇降口から外に出て、5人は賑やかに(主に上の3人)武道館へと向かう。

歌音「武道館は柔道部とかの練習の為に造られたけど、授業でも使う事があるわ。」
美咲「うんっ、あと武道館の前にはテニスコートもあるんだよ!」

生き生きと説明する美咲は、ふと正門付近を見て立ち止まる。

天馬「? どうしたの、みさ——」
美咲「あ、あたし離脱しますっ!」

多分午後の授業には間に合うから、と突然走り出す彼女に月乃は目を見張った。

月乃(色々はやい……!!)
歌音「剣城ね、多分。」
天馬「な、なるほど……。」
月乃(ツルギ?)

意味が分からず首を傾げた月乃に、どう説明したらいいのか分からないのか西園が当たり前のことを言う。

西園「美咲ってちょっと変わってるんだよね!」
歌音「ただのバカよ。」
月乃『そこは知ってます』
歌音「いえ、さっきとはまた別の……それとも延長線上なのかしら?」

訳が分からず首を傾げる月乃に、天馬は苦笑し、それから笑顔で言った。

天馬「サッカー部に来れば分かるよ!」
西園「結構無茶な誘い方だよ!!?」
歌音「月乃さん、こんな誘い文句には乗っちゃだめよ?」
月乃(……でも気になる。)

というかツルギって誰……?



美咲「剣城くーんっ!」
剣城「!」

剣城は、左に一歩ずれて美咲の背後からの急襲を避けた。
かわされてバランスを崩しかけるも、美咲はすぐに立て直す。

美咲「どこ行くの?」

構わず笑顔で質問してくる美咲に、剣城は溜息をついた。

剣城「お前には関係ない。」

強く言い放つと、美咲は一瞬ひるんだ。しかし次の瞬間、笑って。

美咲「——関わりから全てが始まるんだよ。」
剣城「っ、……離れろ。」
美咲「う〜ん、どーしよっかな。剣城君がランスロット見せ——」
剣城「デスソード撃つぞ。」
美咲「えー。」
剣城「見せてくれたら考える、とでも言うつもりだったんだろ。」
美咲「わーテレパシーだー。(棒読み」

そうしている間にも、雷門中からどんどん離れていく。この方向は商店街だと思った瞬間、剣城が足を止めた。
このまま着いちゃえばよかったのに、と心の中で拗ねる。

美咲「思いだした、1つ聞きたかったの。剣城君はどうしてシードやってるの?」
剣城「関係ない。」
美咲「ね、練習おいでよ!」
剣城「……円堂の差し金か?」

美咲は首を横に振って、来てくれないなら質問に答えてよ、と返す。
身勝手だと、美咲自身思う。それでも今、彼の闇を払わなくてはいけないと天使の使命感を感じていた。
彼も、恐らく悪魔に目をつけられている。

美咲「……あたし、剣城君がシードやってる理由が分からないの。だってサッカー上手だし、もっと上手になれるはずなのに管理サッカーで満足するなんて。……何で、剣城君はサッカーやってるの?」

向き合えと、本音の視線は訴える。
剣城は一瞬息をのむも、吐く息に返事をのせて背を向けた。

剣城「……俺はそんな言葉で揺るがない。」
美咲「そっかな、だって今——」

ブブブ。スカートにポケットに入っていた携帯が震えて、美咲は言葉を切る。

『From:天馬
 どこまで行ってるの!?あと3分で授業始まるよ!』

美咲「今それどころじゃっ……っていない!」

天馬からのメールを読んでから顔を上げると、そこに剣城はいない。
長い溜息をついて、美咲は雷門中に全力で戻った。
が間に合わず授業で指されまくれ半泣きになるのは、20分後のこと。