二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第17話 捧げる祈り ( No.79 )
- 日時: 2013/04/05 12:14
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
倉間「バッカじゃねえの」
沈黙を守ろうとしていた倉間だが、堪え切れずに言葉を吐き出した。
倉間「その怪我で出て何になんだ? 居たって恥かくだけだぜ」
天馬「倉間先輩っ」
倉間「大体フィフスセクターに逆らってる奴が、何で命令に従おうとするんだよ? 今更ビビってんのか?」
月乃『フィフスセクターじゃないです』
倉間「……は?」
きょとん、と目を丸くしたのは、倉間だけでは無かった。
ベンチにいる雷門イレブン全員が、円堂でさえも、驚きを隠せない。
——ただ1人、剣城を除いて。
剣城(……やはり、そうだったのか)
フィフスセクターにとって、月乃の欠場は都合が良い。
反乱因子が減れば、望んだ試合結果を出せる確率が上がるのだから。
しかし、あらかじめ出場命令を出しておいての事故は面倒な上に矛盾していると剣城は感じていた。
こんなまわりくどい事をして、フィフスセクターは何を得られるのか。
聖帝の意志ではない、本部で見た事のある支援者Xの仲間が怪しいと踏んでいた。
剣城(そいつは正体の分からない月乃の弱点を知っている……)
だから彼女は、ここに来た。
松葉杖を捨て、気丈な振りをして。
聖帝『月乃杏樹を試合に出場させる。リベンジの良いチャンスだろう?』
聖帝は、そう言って笑った。
知っていた。月乃が、剣城のデスソードを素手で止めた事を。
不思議に思いながらも悔しさを感じ、しかし彼女が出られない状況になった事に安堵している自分もいる。
そして、そんな自分に嫌悪感を抱く自分も。
円堂「なんにせよ、お前は試合に出さないからな!」
月乃「……!?」
円堂「怪我人なんだから当たり前だろ?」
円堂は苦笑して、雷門イレブンに休憩を促した。
どくん、と月乃は心臓が跳ねた音を聞いた——息苦しい。
月乃は抗議しようと顔を上げ——目の前にいた神童はそれに驚いて一歩下がった。
ちらりと後ろにいる円堂を見やり、口を開く。
神童「月乃、俺も監督に賛成だ」
月乃「!」
神童「今日の月乃は、らしくない行動ばかりだと思う。もう少し冷静になれ」
霧野「……脚、大丈夫なのか?」
美咲「バリバリ歩いてたからきっとだいじょぶですよ! ほら、応援ガンバろ!」
霧野「試合前までと随分態度が違うな……」
美咲「えーっと——」
息苦しさが増す。ここからの、彼らの会話が耳に入らない。
月乃(声が出ないのにどうやって応援すればいいの?)
心臓の鼓動が速まるのを抑えようと、左胸の上で両手を重ねた。
頭がぐらぐらして、最早考える事が面倒だと感じられる。
神童は、もしかして、と右手で月乃の額に触れた。
その肌は、熱かった。
神童「っ、だからちゃんと休めと昨日っ……」
霧野「!? もしかして、熱があるのか!?」
原因は睡眠不足が大きいと、月乃は理解している。
やっぱり、あの家じゃないと寝られない。
それが、月乃にはとても悲しく感じられた。
いつまでもあの家にいるわけにはいかないのに。
どうして、どうして——。
キオクヲトリモドシタイ。
その想いが、ひたすら強く訴えてくる。
“命令”に従えば、もっとあの組織に近付けると思った。月乃の“本当”を知っている気がした。
?『命令はお守り下さいね、月乃杏樹様。』
従うだけじゃ、ダメなのだろうか。
霞む視界。ゆらゆらと体を揺られ、月乃はぼんやりと霧野を目に映す。
気付けばベンチに座らされ、後半が始まる直前だった。
少し離れたところで、美咲が覇気のある声で剣城に話しかけていた。
美咲「剣城君っ、ちゃんとドリンク飲んだ!?」
剣城「……」
美咲「剣城君なら勝てるよぉっ!」
無反応。
ぷう、と頬を膨らませた美咲も、ベンチを振り返ると機嫌よさそうに救急箱を手に取った。
葵がドリンクを月乃に渡す、その横に美咲が立った。
美咲「冷えピタの急襲だよ〜☆」
月乃「……」
美咲「つきのん、顔しかめるなんて今日は表情豊かだね」
熱のおかげかぁ、と呟いて、何の予告も無しに冷たいそれを額に張り付ける。
月乃がわずかに肩に力を入れたのを見て、けらけらと笑った。
葵「美咲……」
美咲「何かさ、つきのんやっと仲間になれたって気がする」
月乃「?」
美咲「つらいのに、雷門のために来てくれてありがとう」
——違う。
その言葉が、月乃の口から出る事はなかった。
雷門のためじゃない、個人的な事だ、と。それでも美咲は無邪気に笑っている。
——人間、腹の中では何を考えているか分からない。
ドラマで見たセリフを月乃は思い出しながら、それでも、と病院で見せた美咲の涙を思い出す。
美咲「でも出たら怪我が酷くなるでしょ、だからつきのんは——」
両手を胸の前でそっと組んだ月乃。
美咲はありがとうの意味を込めて微笑み、葵にトイレに行ってくる、と告げてベンチを離れた。
響く、試合再開のホイッスル。
フィフスセクターに従う考えの雷門の選手は、サイドラインに沿うように立って不参加の意思を表している。
彼らはベンチを何となく見て、月乃の様子に気付くと驚いたように、しかし一瞬で目を逸らしていた。
角間「さあ、雷門のキックオフで試合再開!」
ベンチの緊張感が、一気に高まる。
月乃は天馬にパスを出す神童を視界に収めてから、そっと目を閉じた。
水鳥(……コイツ、)
*
風香「どうしてこうなった」
蓮「何このあからさまなフォーメーション……」
里愛「仲間割れ? イライラするなぁ」
龍羽「甘いもの食べて機嫌を直して下さいませ里愛お譲」
奏太「そんなに斧が怖いのか?」
シュークリームを差し出す龍羽に、奏太が苦笑する。
しかし、里愛がシュークリームに手を出そうとした瞬間、それを引っ込めて龍羽は自分で食べてしまった。
ニヤリと笑う龍羽、笑顔のまま顔をひきつらせる里愛。
近くにいた迷や風香が、そそくさと移動する。
玲央「またやったのか」
里愛「りゅ〜う? あんたはいつになっても……」
里愛はニコッと微笑んだ。黒い。
病室で騒ぐなよ、と思いつつ、鈴音は何食わぬ顔でテレビを眺めていた。
鈴音(何か、1人突っ走ってる奴がいるなぁ……)
鈴音「ま、円堂先輩がいれば大丈夫か」
*
オラージュ「今回、悪魔は恐らく来ない」
アルモニ「気配ないんだね?」
クローチェ「念入りに調べたけど、全く」
良かった、とアルモニは胸を撫で下ろす。
アルモニ「2人がいれば来たって安心だよ!」
オラージュ「だから来ないって」
アルモニ「もしもの話だよ、オラちゃん」
オラージュ「やめろ。だったらクローチェにも付けて平等に」
クローチェ「オラージュの裏切り者」
フェアじゃない、と澄まし顔のオラージュに、クローチェはトイレットペーパーの芯を投げつけた。
思いついた、とアルモニは顔を輝かせる。
アルモニ「クロちゃん!」
クローチェ「……何の捻りも無いよ」
アルモニ「クロちゃんとオラちゃん!」
オラージュ「アルモニ、何年生きてる?」
実年齢が気になるオラージュ。
と、会場の歓声が突然大きくなった。点が入ったのだと、アルモニは表情を引き締める。
アルモニ「じゃ、2人共、試合終わるまで見張りよろしく」
クローチェ「……こういう時はしっかりしてるんだね」
ぼそりと呟いた言葉は、響く事無く消えて行った。
***
剣城君は頭良いと思う。