二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第18話 現れる悪魔-美咲side ( No.84 )
日時: 2013/04/13 00:16
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)

焦ってパスワードを間違えたので、投稿し直します。



あたしがベンチに戻ると、一番外側に座ってる霧野先輩が険しい顔をしてフィールドを見てた。
葵たちマネージャーの顔も暗い。

美咲「うわぁ、剣城君……」

突っ走る剣城君は、ドリブルで攻め上がろうとしても途中で囲まれて、ボールを奪われちゃう。
それに万能坂のラフプレーの矛先は、フィフスセクターを裏切って試合に勝とうとしてる彼にも向いていた。
わぁ、倉間先輩、顔が笑ってるよー。
そーだよね、前半ラフプレーされた相手と、尊敬してる先輩がやめる切欠作ったシードだもんねー。

葵「み、美咲ちゃん、笑顔がひきつってるよ……」
美咲「っ、荒れ果てた荒野に恵みの雨を……!!」
霧野「どうした橘!!」
音無「どこを見ているの!?」

なーんて言って、恵みの雨が降ったら試合キツイよね。更に倉間先輩の心が荒れるかもしれない……!
……そうやってあたしが必死に“癒し”について考えて頭が爆発しそうになった頃。
剣城君に、ボールの波状攻撃。からの——万能坂のキャプテン・磯崎っていう人の、鋭い一撃シュート
え、これ大丈夫なの!? 審判何してんの!?

天馬「っ、剣城!!」

切羽詰まった声で、6月が叫ぶ。
そして剣城君は——ボールを足で受け止め……ってか1回転した!
すごっ!!

剣城「……っ」
美咲「?」

何か、ちょっと嫌な予感が……気のせいだよね、悪魔は来ないんだし。
そのまま剣城君は上がっていく。そして。
体力的に苦しい部分を狙って、彼の意識の中にいた“それ”が徐々に現れる。

オラージュ『今回、悪魔は恐らく来ない』

うん、そりゃあ来ないよね。
……もともと、剣城君の心の“スキマ”に、隠れてたんだから。

天馬「つる……ぎ?」
月乃「ッ!」

戸惑う6月。
その呟きに、剣城君——否、目を赤く充血させた“悪魔”が6月を振り返った。
ニヤリ、と黒い笑みを浮かべて。



ソフィア『アルモニ、貴女ちゃんと授業受けてる?』
アルモニ『当たり前でしょ! あたし、体術で1番とったんだから!』
ソフィア『過去襲撃した、理性型悪魔の共通点は?』

私の質問に、アルモニはフリーズ。
人間界での『好きな教科は?』『体育!』と同じ状況。聞きたいのはそこでは無い。
まず理性、という単語に首を傾げるアルモニに、溜息をつかざるを得ない。

ソフィア『天使の役割は、悪魔を倒すって事じゃないのよ』
アルモニ『え?』
ソフィア『“人間を守る”のが第一。そう習ってるはずよ』

そういう授業は、体を動かす事が好きなアルモニの不得意分野なのだろう。
けれど、将来A級入りが有力視される彼女に、忘れてほしくない大切な事が教科書には沢山載っている。

ソフィア『潜伏型悪魔が取り付かれやすいタイプは?』
アルモニ『……潜伏型って、危ない奴だよね』

表情が陰った。
反省してるなんて、珍しい。

ソフィア『怒りと悲しみ。この2つが心に隙を作った時、悪魔はそこにつけ込む。人間が感情をコントロールできなくなった、その時を狙うのよ』
アルモニ『それって、退治しようとしても体は人間のってコト?』

当たり前じゃない。
答える前に、私の表情を見たアルモニがさっと目を逸らした。

ソフィア『簡単よ。人間として近付いて、気絶させて、体力回復させて、マイナスの感情を取り除く。隠れ場所が無くなった悪魔を退治してジ・エンド』
アルモニ『……疲れてるの?』
ソフィア『誰かさんのせいでね』

兎に角。
話を終わらせるために、立ち上がって簡潔に結論を告げる。

ソフィア『人間を守りたい、って思う貴女がちゃんと知識を身につけてくれれば、私の仕事が軽くなるの』
アルモニ『それってあたしが怒られるチャンスが減るってこと!?』
ソフィア『ええそうね良い事尽くしね。せいぜい頑張りなさい』

ツッコミは入れてあげないわ。
けれど知識をあまり身に付けられないまま、彼女がA級天使長となるのはこれから余り先ではないけれど。
それはまた、別の話よ。



美咲(そーだ、気絶……って、あたしベンチだよ、手出せないよ!!)

これが人間なら、顔から血の気が引いてくんだろう。
黒い笑顔の剣城君、何か違う雰囲気を感じ取った6月。2人の目が合ってる今、あたしは混乱中。
剣城君のマイナス感情の出所も気になるけど、今はそれどころじゃない。
あの悪魔が具現化して化身として暴れたら……こんな人の多い所で、天使と悪魔のバトルなんて!
バトルって、人間からしたらすごい不自然なんだよね。
姿の見えない天使に、具現化して暴れてる悪魔がダメージを受けてくの。
それは絶対避けたい。

神童「剣城!」

囲まれた剣城君に、まだ変化に気付いてないキャプテンが走りながら声をかけた。

神童「万能坂を倒したいという思いは同じ! だったら俺達と連携しろ!」

無表情の悪魔が、キャプテンをちらりと見て眉を寄せた。
うああ……ここでパスと見せかけて超絶すごいシュートが来ちゃったらどうしよう!!

霧野(橘、何でこんなに挙動不審なんだ? あ、いつもの事か……)
剣城(?)「……」

彼は一歩も動かない。
そして——普通のパスが、通った。

美咲「!?」
葵「やった!」

連携……した?
再び前を向いた彼が、微かに笑ったのは見逃さなかった。
狙いは何?
体を乗っ取った今、悪魔は何でもできるはず。それなのに、雷門に都合の良いように動く?
……勉強が苦手なあたしに、答えを見つけられるわけがない!

霧野「月乃っ!」

先輩の声にハッと我に返ったあたしの視界に揺れる——桃色。
横に崩れるつきのんの体を支えて、力の抜けている腕にビックリした。

音無「月乃さん!」
美咲「っ、もう戻った方が良いよ!」
月乃「!」

こんなにフラフラなのに、つきのんは首を横に振って、残りたい、って駄々をこねる。
目は潤んでるし、顔は赤いし、ぐたぐただし……。
だけど、強く言えないのは、つきのんの目が、ひたすらに訴えてくるから。
この状況で、誰よりも諦めてないから。
つきのんを寄りかからせながらドリンクを渡すと、葵から制止の声が上がった。

葵「月乃さん、病院に……」
美咲「戻りそうにないから、仕方ないね」
葵「え、でも」
美咲「その代り! そのドリンクちゃんと飲んで、苦しかったらあたしに言うコト! いーね!?」

一口ドリンクを飲んで、つきのんはコクリと頷いた。
それから膝の上にドリンクを転がして、またぎゅ、っと目をつむって指を絡める。
一生懸命、祈りを捧げてる。
シスターかと思っちゃうほど、真剣な表情で。

フィールドでは、三国先輩が必死にゴールを守っている。
キャプテン達が助けに入ろうにも、マークがきつくて上手くいかない。
剣城君(in悪魔)はそれを前線で見てるだけ。
さらにフィフスに従う先輩達も、我関せず、と一歩も動かない。

——つきのんは、何を祈ってるんだろう。

何も変わらないよ、と言いたくなるほどに、真摯な少女の願いは届いてない。
そして三国先輩が怪我目的のシュートを受け止めよろけた所で、霧野先輩が怪我を忘れて立ち上がった。
それを止めると怒りをぶつけられてしまった。
……倉間先輩級に心が荒みそうだよ。

月乃「……っ」

つきのんがさらに強く強く祈った——刹那、ピリ、と空気が震えた。
傍観していた悪魔が、顔をしかめて膝をついた。
あたしはというと、言葉を失くしてた。何で、何でつきのんが“こんな事”できるの……!?

その時。
カッコよく無言で立ち上がったのは、我らが番長・水鳥先輩でした。

***
本文下から5行目→イナイレでも使ってた表現。懐かしい。