二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- オリバト1
- 日時: 2010/06/24 18:05
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
これからオリバトを書きます。
内容はとても残酷なので注意してください。
- Re: オリバト1 ( No.21 )
- 日時: 2010/06/28 15:23
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
プツッと何かが聞こえた。同時に羽田の声が響く。
「六時になりました。寝てる人は起きましょう。記念すべき第一回の放送です」
何が記念すべきだ。この野郎、と園崎葵(男子13番)は心の中で吐き捨てた。
森の奥に何故かあった洞窟の中に葵が苦手な人物、井山健太(男子2番)の隣に座っている。放送が流れたので二人共地図を広げた。そんなこと本当はやりたくないけど。
「では最初の死亡者を発表します。男子からー。5番、沖田俊介。12番、鈴木悠斗君。女子ー。3番、相田愛さん。14番、穴山琴音さん。以上でーす。では禁止エリアを発表します……」
耳を疑いたくなった。というより聞きたくなかった。もう四人も死んだ。体が脱力感に襲われる。死んだ、だと?もう四人もか?何でだ?銃声も何も聞こえなかった。何があったんだよ?呆然としていると健太も溜息をつき、立ち上がって背伸びする。座って地図の禁止エリアに指定された所に赤いバッテンを記した。それが終わると葵に笑顔を見せた。
「……っと、あおー。此処も近々禁止エリアになるから動こうぜ。なっ——」
「……っ何で平気でいられるんだよ!?」
「おっ?」
「お?じゃねえよ!クラスメイトが死んだんだぞ!それも四人も!なのに何でお前はへらへらと笑ってるんだよ!」
許せなかった。目の前にいるこいつが。何もできない俺が。
許せない。許せなかった。いや、現在進行形で、許さない。俺は何もできない自分が……。
その瞬間、いきなり首を掴まられた。何事かと思い顔を上げると怒ったような顔をした健太の顔があった。正直怖い。
「まあまあ…俺だって、辛いんだ。俺は軽く考えてるけ、普段通りにするしかできねーの。その、さっきのは…いけなかったな。ごめん」
「………っ…」
俺は、こいつが苦手だ。
なのに、何故俺は、こいつを、認めようとする?
「……いや、俺も言いすぎた。…ご、めん…」
「いやいや…。んじゃ移動しようぜ。なっ」
この時、葵は心の何処かで健太を認めようとした。それは表となり、葵の顔に自然と笑みが浮かべられる。
「……おう」
心強いと思った。でも何処かで彼を恐れている。
でも、いこう。
もう、後戻りは、できないのだから。
その時、先ほど穴山琴音(女子14番)の音楽を思い出す。あの詩は何処かで見たことがある。でも思い出せなかった。葵は元々覚えるのが苦手で、あまり印象が強い出来事や、人でないと、覚えられない。現に印象薄かった、立花浩二(男子14番)の存在を忘れかけたことがある。「あお酷いよー、クラスメイトの顔くらい覚えてよっ!」と半泣きで訴えられた。……っとに申し訳ない気分になったな。ごめんなー立花。今、何処で何をしているんだろうか。怖いだろうな。こんなのくそったれだよな。でも現にやる気になってる奴がいるんだもんなー。
……やばいな。
「なあ、井山」
「おう?」
「またそれ…。まあいいや、あのさ、足立見かけなかったか?」
「梢ちゃん?見かけてないけど…どーした?」
「聞いてくれ。女子の一部が、足立を狙っているらしいんだ」
「…何だって?」
健太は何故か先程と違い真剣な表情に変わった。葵は不思議に思ったが気にせず続けた。
「朝露が狙ってた。俺が助けたからいいけどあの様子でいくと朝倉とか藍原が関わって大変になる……」
「一緒には行動しなかったのか?」
「いや、俺は一緒にいよう、としたけどあいつ拒んでた。でもやっぱり一人にはしておけないから今探そうとしたんだけどな…」
これまでのことを健太に話した。苦手な人にこんな貴重なことを話すなんて馬鹿げてるが、自分じゃちょっとは成長した気がする。そう思えた。
「んー…よし、じゃ今は梢ちゃん優先しよう!よしそうしよう。あお、行くぜ!」
「…え、あの、はあ?」
「ほら。それだったら俺の探知機があるし!まー戦うには不利だけどな」
え?ちょい待て待て、井山どっか可笑しいぞ。葵は首を傾げた。
「……井山、どうした?」
「梢ちゃんってさ。もうこれ以上傷つかなくていいと思うだろ?」
「…あ、ああ」
「だろ?女子の問題だからって遠ざけた俺も俺だけど…。梢ちゃん、助けてやりたいなと思った。もう傷つくの見たくないし。んで…守って、やりたいんだけど無理だったんだよ」
「井山、何の話して……」
意味が分からないと思った葵に健太は険しい顔になった。次の瞬間、葵は目を見開いた。健太の発言によって。
「中学校に入学した時から…俺、梢ちゃんのこと好きなんだ。現在進行形、で、さ」
【残り:26人】
- Re: オリバト1 ( No.22 )
- 日時: 2010/06/28 15:35
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
「俺、貴方が、好きなんだ。付き合って下さい」
少年は、勇気を出して想いを抱いている少女に告白した。
「…誰とも付き合うつもりはないの。ごめんなさい」
少女は悲しそうに表情を歪ませ、頭を下げた。
「……何で、だ?」
「まだ、信じられない」
少女は冷たい目で、少年を見た。それっきりだ。それ以来だった。
「小学校の時、見かけて、いいなと思ってたんだ。梢ちゃんをさ。あとで梢ちゃんと同じクラスだった、大輔に名前を教えてもらって…「あの子お前と同じクラスだろ?あの子の名前教えてくれよ」って冗談混じりで訊いたんだ。「足立梢」って教えてもらって、いい名前だなーとか似合うなーとか思ってさ。友達と笑ってる梢ちゃんを見かける度…」
井山健太(男子2番)は左胸を指して、続けた。
「……此処が、キューって、苦しくなったんだよ。自分でも気付かない内に顔赤かったみたいでさ。なんていうのかなーこれってずっと家に帰って自分の部屋にこもって考えてたんだ。でも何なのかまだ分からなくなってさ……大輔と遊んで、漫画読んでさ。ふと気付いたんだ。もしかしたら恋してるかも…ってさ。それを大輔に相談してみた。でもな。大輔は言ったんだ。アイツは、いじめられてるぜ?って。それ聞いて凄く驚いた。俺が見た梢ちゃんは、いつも友達と話して笑っててさ…。また驚いた。今、笑ってない。笑うところを見かけてないとかさ」
園崎葵(男子13番)は黙って健太の話を聞いた。そういえば、去年の入学式に、先生にばれないよう、友達とこっそり話していた足立梢(女子13番)のことを思い出した。その時は、話してて可笑しかったのか、腹を抱えて笑っていた。よく笑う子だなと思ったけど、目立つタイプではなかったのでそのまま気にせずに、先生の話を聞いていた。
「んでさ…俺、梢ちゃんに告ったんだよ。好きなんだ。付き合って下さいって……。でも梢ちゃん、哀しそうな顔して、さ。付き合うつもりはないって。何でだと聞いたら…誰も信じられてないみたいでさ。…っとに助けてやりたいって思った。朝倉達を許せないと思った。好きっていう感情で、こんなにも…苦しいだなんて思わなかったよ。でも、それでもいいと思った。だから、好きな奴は、探して守りたいんだ。…でも無理だよなー…」
健太は軽く笑った。それが何処か切なげで見てて痛々しかった。葵はフッと顔を上げ、首を傾げる。
「……無理、って?」
「安藤、いるだろ?このクラスに」
ああ、と葵は、安藤学(男子1番)の資料を頭から引っ張り出した。知っている範囲でだが。確か時々内田洋介(男子3番)と話していて、たまに天然だった。葵も、また彼とは少々しか関わっていない。「おはよう」「うんおはよう」で終了だった。彼は、いい奴だとわかる。その、安藤学がどうしたというのだ?
「…安藤が、どうしたんだ?」
「あいつ…どうやら、梢ちゃん好きみたいなんだよ」
「…えっ?!」
「そりゃ、驚くよなー。天然のアイツが、梢ちゃん好きだなんてよ……なーんかショックだわさ……」
俺も、びっくりした。
まさか、安藤が足立を好きだなんてさ。
あいつ何も言わなかったし、足立と一緒にいるわけでもなかったんだよな。
つまり、片思い中ってことか?
でも足立は誰も信じてないみたいだし、どうやらどっちの恋も実りそうにないな。
…ご愁傷様。
「…先手必勝じゃないのか?」
葵から話を切り出し、健太もまた首を傾げた。意味がどうやら理解できなかったらしい。葵は苦笑した。
「つまり、さ。安藤より先に足立見つければいいんじゃないか?そうしたら守ってあげるから、怖くないって言えばいいし…あんま、俺こういうの得意じゃないけどな…」
「…っよし!あお、サンキュー!早く見つけようぜ!」
「え、あ、はあ…」
「よっしゃ、よっしゃ、行くぜ!そして待ってろよ、梢ちゃん!」
いきなりの健太の復活に、葵は呆れた。先ほどまでは、真剣モードだったのに、おふざけモードに切り替わっている。やれやれと思いながら葵は地図を広げた。
もうすぐ此処が禁止エリアになる。するとすぐ隣のエリアがいいだろう。
移動しようと思った瞬間、スピーカーを通したような声がよく聞こえた。
「みんな、殺し合いなんてやめてー!此処に来てー!!」
突然の呼びかけに、葵と健太は、驚いた。同時に今はもういない穴山琴音(女子14番)の演奏を思い出した。また死ぬのか?同時に二人共顔を見合わせ、駆け出した。もうこれ以上誰も死なないように。
呼びかけを行ったのは、姉崎美穂(女子15番)だった。
【残り:26人】
- Re: オリバト1 ( No.23 )
- 日時: 2010/06/28 15:59
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
悔しかったんだ。悪く言われることが。
言ってくれたんだ。お前は笑って、ありがとうと一言。
嬉しかったんだ。俺を認めてくれたこと。
悲しかったんだ。友達がいなくなったこと。
津田高貴(男子15番)は、近藤大輔(男子9番)を連れて灯台の前へ歩き出した。放送を聞いて、もう4人がいなくなったことに関して大輔が「ふざけんなよ!」と怒鳴った。比べて高貴はただ悲しむしかなかった。心の中で死んでいった4人に手を合わせ、冥福を祈る。クラスメイトの顔が浮かんでは、消えた。また、思い出す。
鈴木悠斗(男子12番)は本当にいい奴だった。たまに責任転嫁していてムカツいて、それがきっかけでちょっとした喧嘩をして、それっきりだった。
もう少し、自分がしっかりしていれば、悠斗とは喧嘩せずに済んだのだ。そうに違いない。でも、いい奴だった。
沖田俊介(男子5番)は、とにかく不定期で人と関わるらしかった。高貴はあまり、俊介とは話したことがないので、個性的には「無口で、無気力?」みたいなものだった。だが、明石加奈(女子7番)と話している時の俊介は、とても、意外だった。噂の「弟はプログラムで死んだ」というのは出発前の態度からして、本当だったらしいが、自分にはどうでもよかった、事実、親とはあまり仲良くないし、自分がプログラムに巻き込まれたとわかってもどうせ、心配はしてくれないのだろう。何故か、悔しい気持ちになった。
相田愛(女子3番)は、気が強くて、喧嘩腰だった。あとは、責任感が強いと、他人から訊いた。よく笑っていたし、クラスメイトの喧嘩を止めようとして止めたこともあったと思う。でも彼女なりに、悩んでいたんだろう。どうするべきかを。そんなこと今ではもう関係なくなったけれども。
穴山琴音(女子14番)は、よくピアノを弾いていた。それで一時活躍だったこと、高貴は覚えている。彼女の演奏はよかった。世界に行けるんじゃないかと噂もあったが、彼女が落ち込んでいたことにより、そういう話は一時中断されていた。だが、彼女は彼女で夢に近付こうと努力していたのは確かだった。放課後、音楽室のピアノで練習していたこと、内田洋介(男子3番)達と一緒に帰った時、何処からかピアノの音が流れて、音がした方へ近付くと琴音の家で、2階の窓の向こうで一生懸命に音を奏でていた彼女の姿を見つけた。何処か、心地よかったのだ。でももう二度と彼女の演奏は聴けないのだ。そう思うと悲しくなり、同時に泣きたくもあった。
でも、みんな、生きていた。
ちゃんと此処にいて、生きていたんだ。
「……なあ、津田」
「……何」
「聞いて、くれるか?俺…俺には、弟がいるんだ」
「……弟、か」
「ああ。名前は祐輔と言うんだけど…。でも、俺は小学1年生の頃ぐらいに家出をした。福岡の…そう、此処の、親戚の家に。祐輔を置いて逃げたんだよ。親の喧嘩が絶えられなくて、そんで、俺は泣きながら家を出て。祐輔はまだ、小さくて…俺を頼ってて。家出でいなくなるって分かったときの祐輔は、驚いていた。泣きそうな顔してたよ……。あとから聞いたんだけど、アイツは、俺の所為で人間不信になって、友達一人もいないって…」
大輔は泣きそうになりながらも一生懸命話す。それが伝わったのか、高貴は黙って聞いていた。しかし、「祐輔」という名前に驚きを感じていた。そういえば、見たことがある。去年の、プログラムが終了して、TVに参加者名簿があって。ああ、確かあった。
近藤祐輔、と。
優勝者は大輔の弟、祐輔ではなかった。仲間である、篠塚充というあの水色髪の少年だった。優勝者の発表の映像で見たことがある。だが、今までの優勝者は、にやりとカメラに向かって笑っていたが、篠塚充という少年は違ったのだ。虚ろな目をしていて、空を見ているような、そんな感じだった。彼の頬には、涙を流した跡があり、服とか薄汚れていた。多分血だと思った。
小学生対象ということで特集をやる番組の記者が充に訊いた。
「優勝して、どんな気持ちですか?嬉しいですか?」
誰もが生きててよかったと思うだろうだが、あの少年は、首を左右に振って否定した。
『……嬉しく、なんか…ない…沢山の仲間を失った…。なのに、僕は、生きている…。どうして…。どうして、僕が生きているんだろうって思うんだ。』
『でも生きているって素晴らしいでしょう?亡くなった友達になんて言いますか?』
少年は目を見開いて、そして次にしゃがんだ。泣いているのだ。
『……な…い…。ごっめ……ごめんなさ、い……っ!ごめんなさい…智、ごめんね…っ、直樹…、勉…、博、竜平…祐輔…和雄…ごめ…んね……っ助けてあげられなくて…ごめ…!うわああ!良…、英明…ごめん…僕だけが生きてて…ごめんなさい…っ!ああああ!』
酷く、印象に残ったのだ。優勝者で、カメラの前で泣き叫ぶ人は滅多にいなかったのだから。
彼は、好きで、友達を殺したんじゃない。
彼は、嫌々、友達を殺してしまったんだ。
「……な、嫌なこと思い返すだろうけど」
「……?」
「その、祐輔って奴…前にプログラムで……」
高貴が訊いた途端、祐輔は目を見開き、高貴の方を見向いた。だが、下唇を噛み締めて、頷く。
「あ、ああ…」
「…そっか。なあ、篠塚充って、その祐輔って奴と仲が、よかったのか?」
「…前に一緒になって笑ってるのを見かけたこと…あるから多分…」
「そ…か…」
ふと、思い出す。そういえばまだ支給武器を確認していなかった。高貴はしゃがみ、ディパックの中身を漁る。…残念ながらスプーンだった。外れ武器だ。大輔の方に目を向ける。さあ、お前の支給された武器は何だ?
「……ん?何だ、これ…」
大輔は四角いモノを取り出した。携帯だった。しかし、よく分からない。電話も使えないのに、何故携帯なのだ?
「何だよ…携帯意味ないじゃ…」
「待て、取扱説明書あるらしい」
高貴は携帯に挟んであった説明書を読んだ。それは羽田によって書かれたものだった。文字に目を通し、愕然とする。大輔もまた同じだった。
『この携帯のメモリには、今までの優勝者の番号、アドレスが載ってあります。生存者のみの優勝者達ですが、ある意味当たりでしょう。優勝者に作戦を教えてもらったりとか…まあ色々と考えて下さい。この武器を当てた方、運がいいですね』
「…今までの優勝者達…の番号、アドレス…だ、と…?」
大輔が呆然と信じられないまま、ゆっくりと口に出した。高貴はハッと携帯を開いてメモリを見た。TVで見かけた、見覚えのある優勝者の名前がずらりと載ってあった。そして、ちゃんとあった。
篠塚充、という優勝者のメモリが。
【残り:26人】
- Re: オリバト1 ( No.24 )
- 日時: 2010/06/28 16:01
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
「……祐輔という奴のこと、詳しく教えてもらった方がいいんじゃないか」
「………で、も…」
「確かに篠塚はお前の弟を殺したかもしれない。でも真実を知らないよりマシじゃないのか」
「……う…ん、わか……った…」
大輔は高貴の言葉を受け止め、携帯を握った。番号を押して発信させる。呼び出し音が響いた。
さて、その音は、絶望への道か、または希望への道に導いてくれるのか?
答えは、篠塚にある。
しばらくすると、呼び出し音が消えた。相手もまた携帯を握ったのだ。
『……もしもし。篠塚です』
【残り:26人】
- Re: オリバト1 ( No.25 )
- 日時: 2010/06/28 16:15
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
放送が終わった直後、明石加奈(女子7番)は力が抜けたようにへたんと座り込んだ。自分が想いを抱いていた、沖田俊介(男子5番)が死んでしまったのだ。もう彼は此処にはいない。生きていない。死んでいる。此処には存在しないのだ。
俊介君?今、俊介君が呼ばれたよね?何で?どうしてあなたが死ぬのよ?どうしてよ、どうして…。
フラフラと力なく歩いた。そうだ。武器。武器は…。ディパックを漁り、何かに触れた。それは外れだった。紙に「ガンバレ!」と書いてあるだけだ。加奈はショックを受け、また座り込んだ。 どうして?どうして、私を殺してくれないの?何でよ。俊介君がいないと私はダメなの。好きな人がいない世界で生きてくのはいやだ。
俊介君が、いないといやだ。
まだ、伝えてなかったのに。
いやだよ。何処にいるの。
「明石」
声をかけられて加奈は勢いよく振り向いた。そこには呆然と立っていた内田洋介(男子3番)がいた。彼もまた驚いていた。俊介が死んだことと、知らされる放送によって。
明石と俊介は俺から見ても仲が良くてよく気が合うなとか思ってた。
きっと、俊介は明石のこと、好きなんだろうとか何気に思ってた。
プログラムで、俊介が明石に会って、これから守るんだと予測はしてた。
俺は影から見守っていた。二人の恋を。なのに。
俊介は明石を置いていった。これはどういうことなんだよ。
「内田君…」
「大丈夫?」
「ねえ、内田君の武器何なの?」
「俺は料理とかでよく使われている包丁、だけど…」
「!…お願い、それ貸して!」
「…は?」
何だ?何をしようって言うのか?
洋介はまだ理解できない、といった表情を浮かべていたが、それはすぐ驚きの表情に変わった。
まさか、自殺しようっていうのか?
でも、それはそれでいいかもしれない。俊介がいないことによって加奈は、生きることに絶望を感じて苦しむよりはマシかもしれない。もう…もう加奈は生きる意志がないのだった。
「……いい…」
「----おはよう、お二人さん」
洋介の言葉を遮って誰かが言った。一瞬何のことか分からなかった二人は上を見上げた。すると手に日本刀が握られていて、赤い血を滴っていた。阿久津雪奈(女子8番)だった。
「阿久津…?」
「明石ってよく丈夫でいられるね。沖田が死んだってのにさ。ま、アイツは、あたしが罰を与えたけど」
「…与えたって…」
「簡単に言うと、ころした、ってこと」
殺した。
「俊介君を…殺したの?!どうしてよ!」
「だって、このクラスって可笑しいと思わない?何も悪くない足立をすぐ傷つけるし。ま、アンタ達も同罪。見て見ぬフリもまた、いじめと同じに違いないし。だからアンタ達も、死ね」
泣きながら叫ぶ加奈に雪奈は日本刀を振りかざした。洋介は何が何のことか分からなかった。全てがゆっくりと動かされていた。加奈の身体が崩れ落ちて、貫通していた日本刀を抜いた。改めてプログラムという、自分が今置かれている立場をやっとのことで実感できたような気がした。---しかし、とんでもない。加奈が殺されたからには、次はきっと、自分の番なのだ。ぼうっと見ている場合ではない。
逃げろ。
「………っ!」
洋介は走り出した。後ろで雪奈が叫んだが気にしない。それよりも今は自分の身の安全が1番だった。すっと森の中に消えた。
俺は、まだここで死ぬわけにはいかない。
生きてやる。
生きて、政府の奴らを懲らしめるんだ。
ふと、誰かの声がした。呼びかけだとは気付かなかった。
【残り:25人】
女子7番明石加奈 死亡。
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