二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 東方魔戒録
- 日時: 2010/12/08 05:14
- 名前: ミカギ (ID: jvWBucyN)
- 参照: http://story.awalker.jp/evihurai/
幻想郷。非常識こそが常識的で、非現実こそが最高のリアルな世界。妖怪、妖精、はたまた神様までもが住まう悠久の常代に、全人類に復讐を誓う悪霊がいた。
死してなお、憎しみに生きる魔女。彼女が復讐者として生まれたのは、遠い昔の記憶。
愛した人間だからこそ、許せない。
愛した人間だからこそ、殺さずにはいられない。
愛した人間だからこそ、まだ愛したままでいたい。
霧雨魔理沙。
願い、嘆く彼女の前に、その少女は唐突に現れた——
さあ、ぐだぐたな小説を書いてくよ!
- Re: 東方魔戒録 ( No.6 )
- 日時: 2010/11/30 18:03
- 名前: ミカギ (ID: j24nS2D/)
「魔女って、何か怖い感じがするよ」
時間を刻み、男は怪我も治り、近くの村に移住した。それ以来、魔女の森に唯一踏み込める人間として、魔女の心に唯一立ち入れる人間として、彼は日課のように魅魔の前に姿を見せた。恩返しというわけでもなく、ただ少量の食料を持ち込み、彼女と共に食べる。その程度の日常。いつしか、友人という関係を気持ちが先んじて、好意を抱き始めていた。
「魔法使いなんてどう? ほら、怖くなくなった」
「……魔法使い。うん、魔法使い。こっちの方が、素敵だね」
逢魔が時。村の人間達の目を盗める時間帯。同時に妖怪の活動時間ということもあって、長くは続かない幸せ。それでも、魅魔にとっては大切な時間。平穏でゆったりとした時間に待ち遠しい時間が来たことが、なによりも大きなことだった。
「最近思うんだけど、魅魔っていつからこの森にいるの?」
「覚えてない。ずっと前から、ここにいた。どれくらい独りだったのかも、どれくらい経ったのかも、もう覚えちゃいないよ」
「……魅魔っていくつなの」
「それ、女に訊くの?」
「いや。魔法使いの寿命って人間と違うのかなって」
「違いはあるよ。大まかにしか覚えてないけど、どっちにしても言いたくない」
「……おばさんだな?」
刹那、後頭部に鋭い手刀が振り落とされ、男は軽く呻いた。
「お姉さんと呼びなさい。まったく……」
何度も執拗に叩かれながらも「ごめんごめん」と、尚も笑みを絶やさない男に、思わず魅魔も笑顔を誘われ、微笑んだ。
「それより、考えてくれた?」
「……村に住むこと?」途端、彼女の表情から笑顔が消える。
「やっぱり、ダメかな?」
男の住む村は、魔女の森とは離れている。ずっと見つめてきた森を出るのは、何よりも魅魔に躊躇を与えた。
「……今まで誰だってここには近づかなかった。それって、魔女が怖いからじゃない?」
「僕がいるから」
「信用、してる。だから、迷惑をかけたくないんだ」
不安。恐怖。その先には、当然のように目の前の人間の姿がちらつく。釣り合わない力。釣り合わない、種族。それでも一緒にいたいという願い。愛しているからこそ、突き放すこともある。
「魅魔より弱いけど、守ってみせる。守ってみせるから……」
手を優しく包む、彼の優しい温もり。まるで陽光のような温かさは不安やそれらを強くする反面、期待感を生み出す。
彼と、ずっと一緒にいられたなら。
どれだけ、楽しいだろう。
どれだけ、幸せだろう。
「一緒に、いてくれる?」
「え……?」
「村に住むんだったら、さ。あんたと、住みたい」
「……それって」
頬を染めながら俯き、温もりを自ら切り離し、そっぽ向いた。
「ほ、ほら。夜は危ないんだから、早く帰りな」
「……うん。じゃあ、今日は帰るよ。また、さっきの言葉を聞かせてくれ」
「早く行け!」
楽しげに手を振り、消えていく人間。
まだ、余韻が冷めない。幸せが思考を包み、気が付けば不安など微塵も残ってはいなかった。
「魅魔、いなくなっちゃうの?」
不意に、木陰から声がした。
ぼんやりと、森に差し込む月光に浮かぶ、親友の妖精。他の妖精はとっくに就寝時間だというのに、尚も時間をゆっくりと刻む彼女の瞳は、憎しみに満ちていた。
「……まだ、ドキドキしてるんだ。こんな幸せでいいのかなって。あたし、幸せで堪らないよ」
妖精は泣き出しそうな顔で憤慨し、魅魔を睨みつける。
「……魅魔は、知らないんだ。人間がどんな存在なのか。この森にいた魅魔には、分からないんだ。あいつらは、奪う。容赦なく、無作為に奪う。全部、全部だ! 友達さえも——!」
ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、妖精は必死に訴える。彼女の周りは急激に温度が下がり、パキパキと音を立てながら大樹が根方から凍りつく。
怒っているとき。悲しみに沈んでいるとき。まるで感情を表現するように、彼女の映す世界は凍りつく。生まれた土地の違いなのか、他の妖精にはない現象だった。
魔女の森に現れた、一匹の妖精。母なる土地を離れ、養母となる土地で、魅魔に介護され、一命を取り留めた。
それだけ。彼女は何も語らないし、魅魔も知ろうとしなかった。ただ、人間を異常に憎む。その憎しみは、本物だということを、冷たく凍てついた氷が語っていた。
「約束する。あたしは、あんたの親友だ。いなくならないよ」
脚を屈し、魅魔は穏やかに微笑み、冷たくなった妖精の身体を抱く。男が行った行為。温もりという、幸せのお裾分けだ。
「……絶対、だからね」
ギュッと、妖精は魅魔の身体に強くしがみつき、涙を止めた。大樹を蝕んだ冷気は止み、穏やかな風が森を再び埋め尽くす。
全てが幸せになればいい。全てが繋がり、種族で隔たれずに愛し合える幻想郷が生まれることを願いながら、魅魔の表情が凍りついた。
「……なんだ、この気配」
じめじめと湿った空気。森の穏やかな鼓動は激しく脈打ち、木の葉がざわざわとけたたましく唸りを上げる。
「森の生物が、怯えてる……?」
森の異常に気づいたのか、妖精も鋭利な瞳で辺りを見回し、羽で大気を叩き、空へと浮上した。
「魅魔! あっちの方で火事が!」
彼女の指差した方角に、魅魔は思考を停止させた。
指の先には、最愛の人が住んでいる村があった。
- Re: 東方魔戒録 ( No.7 )
- 日時: 2010/11/30 19:31
- 名前: えいきっき☆ (ID: JrQ720Id)
おお!?なんかやばくないですか!?
魔「大丈夫か師匠!?私が今助けにいk(あなたは無理です
自分は文学のセンスないんでそんけーです!
がんばってください!
- Re: 東方魔戒録 ( No.8 )
- 日時: 2010/11/30 22:46
- 名前: ミカギ (ID: j24nS2D/)
焼けるは木製の建物。
響くは、阿鼻叫喚。
太陽の沈んだ世界を白昼のように照りつける紅蓮の焔。村人は悲鳴を奏で、凄惨なキャンプ・ファイヤーが行われていた。
「酷い……」
唐突に襲われた村。仕事も終え、それぞれが家路につき、一日の疲れを癒す。そんな時間に現れた、悪夢。
足元には何人もの人間が肉の塊となって転がっている。潰された蛙のように骨ごとプレスされ、拉げた塊。身体の一部を引き千切られ、内臓を無残に食い散らかされた塊。どれも凄惨で、嗅いだことのない肉の焼けた臭いと、刺激臭を含んだ死の臭いが嗅覚を刺激し、少しでも気を抜けば吐瀉物を吐き散らしてしまうような気持ち悪さに襲われた。
だが、大切な人の死体はない。まだどこかで生きているのだとしたら、急ぐ必要がある。彼女は妖精を尻目に、紅蓮の焔へ顎をしゃくった。
「妖精さん。あんたは火事をなんとかして」
「な、なんでわたしが人間なんかの!」
「お願い。人間を、あの人と同じ人間を守りたいんだ」
妖精は憎しみを孕んだ眼光で魅魔を睨むと、ややあって、火の海へと飛翔した。
「後悔したって知らないから!」
彼女の周りは一気に気温が下がり、踊り狂っていた焔が、急激に萎縮する。その様子に、村人の一部は愕然とし、寒風に身を震わせた。氷を操る彼女は実に心強く、明るい世界を闇へと塗り潰す。
「どこ、どこにいるの……!?」
小さな村だ。大切な人間を見つけるまでに、さほど時間はかからなかった。
視界に入り込んだ、男。尻餅をつき、少女を背に竹槍を構えたその人に、魅魔は喜びと同時に、恐怖を覚えた。
構えている先にいるのは、大の大人の何倍も巨躯な獣。全身を黒く染め、まるで闇が命を持ったような生命体。そいつのスピネルの眼光は男を捉え、刀剣のような牙を剥き出していた。
「吹き飛べ!」
巨木のような豪腕が振り落とされようとする刹那、腹部に突き刺さった突風は化物を猛火に盛る家へと吹き飛ばした!
「み、魅魔……?」
「歩ける?」
唐突の出来事の正体を理解した男は、安心したような笑みを浮かべ、差し出された彼女の手を掴み、立ち上がった。
「すぐに逃げて。あいつは、あたしが何とかするから」
「けど、魅魔」
「あたしは、魔法使いだから。守ってみせる」
「……避難させたら、すぐに駆けつけるから」
軽く頷き、少女を連れて遠退いていく彼の背を見つめ、ややあって、化物へと視線を戻した。
ガラガラと、焔を纏った木材を掻き分け、化物はおもむろに這い、殺意を孕んだ眼光で魅魔を高く見下ろした。
「こいつ……」
闇を纏った化物。通常の妖怪とは異なり、彼の憎しみを肌で感じ取れる。
何に憎しみ、村を襲ったのか。そんなもの、決まっている。
「人間を、恨んでいたのか……」
生きることに楽しさを知らない瞳。
生きることを、無上の苦しみとした、瞳。
闇。まるで、闇だった。
「……っ!」
ドォンッ!——と、重く振り下ろされた豪腕。乾いた地面を砕き、化物はゆっくりと拳を上げる。
そこに、魅魔はいない。化物の頭上に高々と跳躍し、上空を舞いながら、指先に淡い光を集中させた。
「貫け!」
旋回して飛び道具のように放った光が鋭く化物の胸を貫いた!
(やったか——!?)
部位からして、黒ずんだ肉壁を掻き分け、心の臓を貫いた。どろりと、漆黒の血液が流れ、たと思うと、化物の瞳が魅魔を捉えた!
貫いた穴から、突如大量の漆黒が噴出し、鞭のようにしなりながら魅魔へと飛翔し、先端の鋭利な牙を有した獣を模した闇が彼女の肩に食らいついた!
「っあ——!」
ぎりぎりと、肉を抉り、骨を削る牙。体験したことのない激痛に表情を苦痛に歪め、闇に手を添えた。
「……弾けろ!」
掌に宿った光が獣へと移り、縮小、消失。
刹那、急速に膨張した闇は花火のように破裂し、黒い物質を四散させた!
「貫け!」
自由になった身体を地に下ろし、両手で幾度も鋭利な光の刃を放つ!
貫き、貫く。穿たれた身体からは黒い体液が流れ、一つの生命体が生み出される。
打開策もなく、肩から逃げていく血液に、視界が滲む。
戦いを知らない魅魔の前に現れた、殺すことを目的とした化物。
孤独を愛する瞳。魅魔の思考など、一片も理解に及ばないというような、悲しい瞳。
「あんたにも、分けてやりたいね。幸せって奴をさ」
まあ、無理か。生命としての機能を失いかけている哀れな化物見据え、両手を重ね、伸ばした。
「我慢比べだ」
化物の傷口から生まれた獣が一斉に魅魔へと猛進する!
腕に、脚に。至る所に牙を立てられ、魅魔の思考に痛感の波が怒涛の如く押し寄せる。
それでも、彼女は集中する。それ以外に、最善の方法を知らなかったからだ。
「……?」
ふと、獣は魅魔の身体から離れ、身を翻した。
竹槍で化物の横腹を貫く、男。息を切らし、震えた身体で深く、深く竹槍を突き刺し、化物の動きを止めた。
「魅魔に、触るな……!」
「あのバカ……!」
化物は男へと振り返り、標的を彼へと変え、低く唸った。
「——人間のくせに、やるじゃん」
甲高い声と共に、振り上げた化物の肩が、氷に覆われた。
化物の金切り声。その頭上に飛び交う、氷の妖精。
「よ、妖精さん……」
「今回だけ! 人間を救うのは、今回だけなんだからね!」
頬を紅く染め、無粋に鼻を鳴らした妖精は男の傍に下り、唐突の事態に膠着している彼を化物から引き離した。
「早くぶっ放しちゃえ!」
「……後でキスしてあげる」
時間を刻み、全身を包むほどに膨れ上がった光を両腕に一点集中させ、魅魔は妖艶な笑みを浮かべた。
「——魂ごと消し飛べ」
放たれた巨大な光の柱が化物の身体を包み込み勢い良く放出された!
「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
轟音を遠くまで響かせながら、大地を抉り、家を消し飛ばし、森を消し飛ばす。
それでも止めない光の柱は、化物の存在をも消し飛ばし、災害のような光は長い時間をかけ、止んだ。
- Re: 東方魔戒録 ( No.9 )
- 日時: 2010/11/30 22:46
- 名前: ミカギ (ID: j24nS2D/)
「…………」
バチバチと放電する手を払い、魅魔は煤で汚れた顔で、無情に正面を見つめた。
正面には、何もない。明るければ地平線をお目にかかれるのではないかという、殺風景な大地がそこにはあった。
「ちょ、魅魔。やりすぎ……」
「……だって。あんだけ集中させたことなかったんだもん」
化物は、消滅。ある意味では、化物よりも性質の悪い行為を行ったかもしれない。
それでも、村を救えた。大切な人の居場所を、守れた。
「あ、あ……」
鎮火された家の陰から魅魔を見ていた、少女。男が命を賭してまで守った彼女に優しい笑みを浮かべた。
「もう、大丈夫だよ」
「い、いやぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
少女は、泣き叫んだ。泣いて、その場から逃げ出してしまった。
なぜ、逃げるのだろうか。魅魔には、分からなかった。
確か、村を救った。人間を、守ったはずなのに。
「ぁっ……!」
突如、即頭部に鋭い痛みが走り、彼女はその場で膝を折り、崩れた。
部分的に痺れが広がり、焼け付くような感覚。鼓動と共に刺激が襲い、地面に深紅の液体が零れ落ち、魅魔はようやく石を投げられたことを知った。
「出て行け! 化物め!」
気が付けば、周りには人間が彼女を取り囲むように、手に小石を持ち、威嚇した。
痛みは、人間の仕業。
守ろうとしていた、人間の仕業だった。
「そ、そうだ! 出て行け!」
「出て行け!」
次々と、同調するように村人は魅魔を敵視して、投擲の石を拾い上げる。
「何で! 魅魔は村を守ったのに……!」
「そいつだって化物だ! あんな化物を変な力で殺したじゃないか!」
男の言葉など耳も貸さず、彼らは魅魔を責め立てる。
怯える。心底怯えている、彼らの瞳。自分に叶わない敵よりも、更に強い力を持った存在に怯える、か弱き存在。
「これが、人間……」
魅魔は、知った。
村人は、怖れている。自分達よりも強い存在を忌み嫌うこと。
魅魔は知った。
自分達が上に立たなくては、許せない強欲な存在であること。
利己的。欺瞞に満ち溢れた世間の姿。所詮は、決定的に構造の異なった他種同士は、理解できない存在なのだ。
彼らの瞳は淀み、濁っていた。
まるで、魅魔が倒した、化物のように。
「あんたら、いい加減に」
「いいんだよ! いいから……」
「魅魔……!?」
彼女は額から流れる血を拭い起立すると、村人に深く頭を下げた。
「勝手に村に入って、ごめんなさい。すぐに出て行きます」
途端、村人の攻撃は止んだ。魅魔は石を手にした人間に笑みを浮かべ、踵を返す。
「行こう、妖精さん」
「あ、うん……」
「お前も出てけ!」
「うっさい! 土下座されたってこんなとこにいてやるもんか! ばーかばーか!」
負けん気に妖精は強く吐き捨て、弱々しい魅魔の背中を追った。
村を出ても、拭えない悲しみ。期待は全て淡く消え、歩く。ただ、闊歩していた。
「魅魔。その、あの……」
傷口を冷たい氷壁で閉ざされ、止血された身体の具合を確かめながら、魅魔はよそよそしい妖精を尻目に、鼻で笑った。
「……なにしけた面してんのさ」
「ふえ? きゃうっ!」
不意に、彼女は妖精の尻を叩き、からからと笑った。
「ありがとう。あの人を、救ってくれただろ?」
「う、うん。でも、あの人は……」
「いいんだ。これで、いいのさ」
全ては、夢現の幻。
それで、いいのだ。村の人間は、誰も認めてくれないことに、確信を持ったから。
「魅魔!」
頑なな決意を揺るがす、親しみ深い声。
男が、追ってきてくれた。嬉しい反面、息苦しい気持ちで、止まった足を再び酷使した。
「所詮は、夢だったのさ。化物は、人間と一緒にはいられないんだ」
「そんなことない! 魅魔は、化物なんかじゃない!」
そう。彼なら、否定してくれる。魅魔を、大事にしてくれる。
だからこそ、終わらせる。幸せを、彼との繋がりを。
「もう、私に会いに来ないで」
「——いやだ」
刹那、早歩きだった魅魔の身体は引き寄せられ、男に抱かれる。
温かい、体温。優しい、温もり。孤独では味わえない感情が彼女を染め上げ、決意を歪ませる。
「一緒に、暮らそう」
「え……」
「僕達だけで、静かに暮らそう。僕が、君の夢の続きになるから……」
決して曲がらぬ、強い決意を秘めた瞳。
永遠を、望んでいた。
良き死を得る為の生の旅路に拾った、幸せ。その幸せが永遠に続くことを切に願い、魅魔は子供のように声を上げ、彼の胸で涙した。
- Re: 東方魔戒録 ( No.10 )
- 日時: 2010/12/01 17:08
- 名前: ミカギ (ID: j24nS2D/)
幸せ。
一日、一時間、一分、一秒。水や食料を調達するために最愛の人から離れる時間を惜しみながらも、再開に心を躍らせる日々。
調達は、魅魔。調理などは、男が担当する。森の妖怪に襲われる危険性に加え、不器用な彼女の腕よりも、彼のほうが家事に向いていた。そういう理由。
「上機嫌だね」魚の入った桶を抱えながら、妖精はジト目で笑った。
「わかる〜?」
「そりゃ、ね。だって、ずっと笑ってるんだもん。正直キモい」
「高い高いしてもらって顔真っ赤になってたあんたよりマシだと思うけど?」
「なっ、あれは違う! 唐突にあんなことされたから……!」
「はいはい。そういうことにしてこうか」
「ち、違うってばぁ!」
村の一件から間もなく、妖精は男の前にも現すようになり、三人で過ごす時間も多くなっていた。人間を異常なまでに嫌っていた彼女も彼は例外と認め、ぎこちなくとも、悪くない関係を築き上げていた。
「こういうの、幸せっていうのかな」
「幸せか。相手は、人間なのに」
「まだ言うのか。もう高い高いしてもらえなくなるよ?」
「え、あ、べ、別に、してもらわなくても……」
「ああん? きこえんなぁ?」
「あーっ! もう! わかったよ! あの人はいい人! 人間だけどいい人だよ!」
「そうさ。あたしが愛した男だよ? そして、あんたも家族だ。なあ?」
「う、うん……」
紅潮し、嬉しそうにはみかむ妖精の頭を優しく撫で、魅魔は穏やかな笑みを浮かべた。
「あとは、あの人との子供が欲しいな」
「子供?」
「そうさ。名前もね、もうあの人と決めてるんだ」
「え、なになに!?」
「——魔理沙。女の子なら、魔理沙って名前にしようと思ってる。やっぱあたしの娘だから、『魔』は欠かせないじゃない?」
「男の子なら?」
「ピエール」
「……『魔』は?」
「ピエールだ」
あくまで女の子だけを望んでいるのか、冗談なのか。妖精は苦笑いを浮かべ、ややあって、嬉しそうに夢の続きを問うた。
「それ、わたしがお姉ちゃんになるの?」
「そうだけど、凍らすなよ」
「ちょ、わたしを何だと思ってるの」
いつものように談話していると、彼女らの家が視界へと映った。
帰りを待つ最愛の人。彼が得意とし、魅魔が好物とするエビフライと呼ばれた料理の為に、無駄に大量の海老を密集させた妖精とは別の桶を抱え、楽しげに鼻歌を歌う。
「たっだいま〜。見て見て、こんなにたくさんの…、海老を……」
勢い良く扉を開け、魅魔は、一瞬でその異常に気づいた。
「……変だな。いつもならここでいっぱいキスしてるのに」
「わたしが毎回変な感じになるから止めてよね」
「なに。あんたもキスしてほしかったの?」
「違うよ!」
不安をかき消そうと、他愛のない会話を続け、憶測を拭う。
なぜ、いないのか。隠れているというわけでもない。留守にするなど、ありえない。魅魔は桶を投げ捨てた。
「ねえ、冗談やめてよ。やだ、冗談でも、そういうことしないでよ!」
返事は、ない。まるで、男など最初からいなかったような、静寂が魅魔の不安を募らせ、
「……人間臭い」
妖精の一言で、不安が絶頂に達した。
男が魔女の森に住み始めて、大分時間が経過している。三人で同じ家に住み、暮らしていた。
彼から放たれる人間の臭いなど、今更指摘するはずがないのだ。
彼から、放たれた臭いならば。
「貴方!」
「ちょっと、魅魔!」
家から飛び出した彼女の視界に飛び込んだのは、数人の男。魅魔が化物から救った村の、人間。どいつも鍬や竹槍などを所持し、陰湿な瞳には、殺意の憎しみが灯っていた。
「……あんた達が、あの人を」
「妖怪は、村から離れたオレ達を食う。魔女の森の主を倒しちまえば、きっと妖怪もオレ達を襲わなくなる」
「何言ってるの! 妖怪は自由奔放が基本で、わたし達は関係——!」
妖精の口を塞ぎ、魅魔は神妙に頭を垂らし、数歩闊歩し、彼らの前で正座した。
死活問題。彼らが問題に行き当たったとしたら、そんなところだろう。光明を探して躍起になっていた彼らにとって、些細な可能性が希望に満ち溢れていたのだろう。たとえ叶わなくても、魅魔の力を恐れているだけに、不利益などない。和解は無駄と観念し、魅魔は身体を震わせ、強く拳を作った。
「抵抗しなければ、あの人は解放してくれるんですね?」
「——ああ」
男達は得物を構え、おもむろに魅魔へと近づいた。
「やだ、いやだよ。こんな奴らやっつければいいじゃない!」
「どこにいるのか分からないんだ。あの人の安全を考えると、これが正しい」
正しい。それが、正しい。言い聞かせながら死への恐怖。全てを失う恐怖と戦いながら、妖精に笑みを浮かべた。
「あの人のこと、頼むよ」
刹那、視界が闇に染まる。
何度も、何度も。耐え難い痛みが魅魔を襲い、聞いたこともないような音が耳朶に触れる。
「魅魔ぁっ!!!!!」
大切な家族の切ない言葉を最後に。
魅魔という生は、全ての繋がりを断ち切られた。
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