二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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少年陰陽師*燈織開伝
日時: 2011/06/03 18:20
名前: 翡翠 (ID: pVjF2fst)

此処で書くのは三つめですね。

と言うわけで、今回も少年陰陽師の小説を書こうと思います。
今回の話の主人公は昌浩が女の子だったら、という事で昌浩は登場しません。

彰子など、その他何名かのキャラも性別が逆転するかと思われますが、ご了承ください。

※この話しは原作沿いに進んでいきます。

*注意*

・キャラの性別逆転有り
・主人公の女の子は立場は昌浩と同じですが考えかたは…。
・原作沿い+オリジナル(恋愛要素なども…

この三つが無理な方は引き返してください。

#主人公紹介#
>>1
+序章+
>>2 >>3 >>4 >>5
〜第一幕〜



*読者の方々*

Page:1 2



Re: 少年陰陽師*燈織開伝 ( No.1 )
日時: 2011/06/02 14:59
名前: 翡翠 (ID: RL/GZM5J)

#主人公紹介#

名前:安倍燈織・あべひおり
性別:女
年齢:13
容姿:黒髪で腰の近くまであり、それをまとめて後ろで一つに結んでいる。
身長があまり高くないのを気にしている。
瞳は水面を移したような綺麗な藍。
性格:負けづ嫌いでまだまだ半人前の陰陽師。
素直で真っ直ぐな性格のため、曲がったことが嫌い。
純粋、無垢といった言葉が似合うとも言える。


Re: 少年陰陽師*燈織開伝 ( No.2 )
日時: 2011/06/02 21:11
名前: 翡翠 (ID: a2Kit7un)

「…狭い」

ぼそりと呟くと、暗闇の中からこそこそと返答があった。

「しかたないだろう。これでも精一杯はしに寄ってるんだ、文句言うな」
「私のほうが大きいから窮屈なの。もうちょっと詰めてってば」
「だから、これ以上は寄れないっての」

ぼそぼそと、だが少しずつ会話は刺々しくなっていく。
漆黒の闇に、大仰なため息の音が響いた。

「まったく、もうちょっと考えようがあるだろう? なんだってこんな地味でかつおそろしく気の長いしかもあまり有効じゃなさそうな手しか出てこないんだよ」
「だったらもっくんは何かいい手でもあるんだ?」

明らかに気分を害したらしい声が、不満たらたらで言い募ると、もう片方はすぱんと切り返した。

「そういうのを考えるのはお前の仕事。人に頼ってどうするよ」
「……」

黙り込んでしまった相手に、「もっくん」と呼ばれたほうが更にたたみかけた。

「あーあ、今夜も収穫なしか。これでまた朝になったらすごすごと肩を落として帰るわけだろう? 張り込み始めてはや四日、俺はそろそろ邸でのんびり休みたいね。夜ってのは眠るためにあるんだからさ」

一瞬の沈黙の後、返ってきたのは不機嫌率八割突破の低い声。

「…だぁったら、付き合ってないでさっさと帰ればいいじゃないっ!
第一、物の怪のもっくの分際でのんびり休むだの夜は眠るためにあるだの、いけしゃぁしゃぁと言わないでっ!」
「おっ、そんなこと言っていいのか? 俺がいなかったら心配でしょうがないじゃんか。お前まだまだ半人前のくせに。あーあ、あの小さくて可愛い燈織はもういないんだな、ほろほろ」

わざとらしくさめざめと泣くそぶりを見せる相手のほうをじっとにらみ、燈織は冷たく返した。

「…もっくんと初めて会ったのは確か数ヶ月前で、私はすでに十三歳だったはずなんだが、どうして『小さくて可愛い』なんて台詞が出るの」

いくら目を凝らしても暗いばかりの空間に、かすかに笑う気配がする。

「……あ、ばれた?」

燈織は怒りと呆れのないまぜになった息を吐き出すと、ふと眉をひそめた。
ざわざわと、冷たい何かが接近してくる。
それは、常人には感じ取ることの出来ない特異な存在。
だが、多少勘の良い者ならば、気配くらいは分かる。
更にその上をいくものには、おぼろに、あるいははっきりと、見えるだろう。
 じっとりと、燈織の額に汗がにじんだ。

「……来た」

奴はこちらが姿をさらしていると現れない。
三日待っても駄目だったので、今夜は姿を隠してみた。
自分の判断は正しかったようだ。
 さて、これからどうする。やはり一気に片をつけるために、ぎりぎりまで近寄ってきてから飛び出すのが得策か。
 こそりと、緊張した硬い声が燈織の耳に届いた。

「ぬかるなよ、晴明の孫」

ぶちっ。
頭のどこかで何かが切れた音がする。
反射的に燈織は怒鳴り返した。

「孫、言わないでっ!」

がたがったんという派手な音が、彼女の声に重なった。
思わず立ち上がった拍子に、身を潜めていたからびつのふたが勢いよく飛んでいってしまったのだ。
ぱあっと開けた視界。
ときは夜半をかなりすぎた頃。
ところは今にも崩れ落ちそうなあばら家で、穴のあいた屋根から月明かりが差している。
真っ暗で窮屈だった、からびつとはうってかわった明るさと開放感の中、燈織は足元をぎっとにらんだ。

「なんども言うけど孫言わないでっ! わかったかなっ、物の怪のもっくんっ!」
「そういうお前ももっくん言うな」

四足の生き物が、燈織の足元で偉そうに目をすがめた。
それは、大きな猫のような体躯をしている。
だが、猫でも犬でもない。ましてや他のどんな動物とも違う。
こんな生き物は、誰も見た事が無いだろう。
額には紅い模様があって、それが花のように見える。
耳は長く後ろに流れて、首周りを、まるで勾玉の首飾りのような形の突起が一巡している。目は丸く、透き通った夕焼けの色。
 随分可愛げのある姿かたちをしているが、これは紛れもなく化け物なのだ。化け物、妖、異形、妖怪、化生の物、物の怪。
色々な呼び方があるが、燈織はとりあえず物の怪のもっくんと愛称で呼んでいる。
だが、当の物の怪はそれがあまりお気に召さないらしい。
そもそも物の怪というのは恨みつらみを持って死んだ人間の霊であって、自分のような異形の妖とはまったく別物なのだ、というのがもっくんの言い分だ。
 対する燈織は、「いいじゃん別に、たいした違いじゃない」と取り合わないので、物の怪は不本意ながらも「もっくん」と呼ばれている。
 細い尾をぴしりと揺らして、燈織をじっと見据えていた物の怪は、その目をついと動かしふてぶてしい表情を作った。

「おい」
「なによ」
「前」
「あぁ!?」

半分喧嘩腰になりながら視線を向けて、燈織はひくっと息を呑んだ。
目と鼻の先にいる、大髑髏。
すっぱりきっぱり忘れていたが、そういえば本来の目的はこいつだったのだ。とっさに動けない燈織の前で、大髑髏はその巨大なあぎとをくわっと開いた。

*     *      *


長岡京より平安京に、遷都が行われてから、およそ二百年ばかりすぎた頃。都には、無数の妖が跳梁跋扈して、人々の日々の安寧を妨げていた。いま、燈織と対峙している大髑髏も、そういった妖怪のひとつだ。
燈織は、その氏を「安倍」という。
今年で十三歳になったが、元服はまだだ。
近いうちに執り行われることになっているのだが、まだ吉日が判明していないので確定はしていない。
 元服の日取りを決めるための卜占は、祖父が行う事になっている。
燈織の生まれた安倍家は、代々陰陽師を生業としているのだ。
 さて、安倍燈織は、非常に有名な祖父を持っている。
その名は安倍晴明。希代の大陰陽師、「あの」晴明である。
もはや語る必要もないほど有名な祖父を持つ燈織、それゆえに彼女はよく、こう呼ばれるのだ。
 あの晴明の孫、と。
本人的に、非常に不愉快であるのだが。

Re: 少年陰陽師*燈織開伝 ( No.3 )
日時: 2011/06/02 23:17
名前: 翡翠 (ID: a2Kit7un)

「燈織っ!」

叫び声で、燈織ははっと我に返った。
眼前に迫る大きなあぎと。
ずらりと並んだ歯は、ひつひとつが人間の頭ほどの大きさがあって、それが目の前で上下に大きく開いた。
 燈織は眼を剥いて叫んだ。

「歯————っっっ!」

冗談じゃない、あんな歯でがっちん、などと勢いよくかぶりつかれたら、自分の胴体なんて簡単に真っ二つ、ついでにそのままあの世行きになってしまうのではないか。
 燈織は反射的に下がろうと右足を引き、からびつのふちに邪魔をされてあおむけに勢いよく倒れた。と、すぐ真上を大髑髏が飛び越える。
がちがちと歯を鳴らす音が不気味に響いた。
 もしかしなくても、転ばなかったらあの歯にかじられていたのではなかろうか。万歳の体勢でそれを目撃した燈織は、冷や汗を額ににじませた。怪我の功名というのは、きっとこれを言うのだろう。
したたかぶつけた背中と頭が少し、いやけっこうかなり痛いが、忘れよう。

「燈織、立てっ!」

物の怪が燈織の狩衣の袖をくわえてぐいと引っ張る。
慌てて跳ね起きると、突然物の怪が体当たりしてきた。

「わっ」

横に吹っ飛ばされて、ごろごろと転がってからがばりと上体を起こし、燈織は文句を言おうと口を開いた。

「なにす…っ!」

すると、それまで燈織がいた場所に、大髑髏が突っ込んできたではないか。すさまじい音を立てて、漆のはげた古いからびつが、木っ端微塵に砕け散る。衝撃であばら家が振動し、ほこりがぱらぱらと舞い落ちてきた。

「———…わぁい」

さすがに頬を引き攣らせる燈織の傍らに駆け寄ってきた物の怪は、大髑髏をにらみつけた。

「やっとお出ましか、よくも四日も待たせてくれたな。ここで会ったが百年目」
「そうよそうよ、言っちゃえもっくん!」

拳をぐっと握り締める燈織の声援を受け、物の怪は更に続けた。

「いいか、都を騒がす大髑髏、お前なんかこの、半人前でどじで抜けててかなり頼りないけど一応見習いの将来多分きっと立派な陰陽師が、ぱぱっとやっつけることになってるから観念しろ」

燈織は思わず床に突っ伏した。
物の怪の、少し高めのよく通る声。
しかし、その内容は。
彼女は何とか立ち直って肘で身体を支えながら、不機嫌丸出しで眉を寄せた。

「ちょっと待ってもっくん、その言い草かなりひどくない」
「間違ってないだろう。俺は的確に評したつもりだ。それから、もっくん言うな」

燈織の講義にしれっと返し、物の怪は顎で大髑髏を示した。

「ほら、来るぞ」


*      *      *


都はずれのあばら家に、夜な夜な化け物が出没し、通りかかった動物やら人間やらを引きずり込んで食っているのでなんとかしてくれ。
 そんな相談が祖父のもとに持ち込まれたのは、十日ほど前のことだった。そのとき安倍邸は、近いうちに行われる予定の、末っ子の元服に向けてのこまごまとした準備に追われていた。
 そろえなければならない調度品や衣類の注文、後の後見役にもなる加冠役や理髪役の依頼、お披露目の宴の準備などなど、詳細を取り決めなければならないことが山積みで、あわただしいことこの上ない。
その上、当事者である燈織自身にも、修行という重要事項がのしかかり、万丈の山のようにそびえたっていたのである。
 安倍邸の一角に構えられた自室で、燈織は山のような書物に囲まれながら、それを一心不乱に読み漁っていた。
 陰陽道の関係書物は、祖父の晴明を筆頭に、父の吉昌も、長兄の成親も次兄の昌親も大量に所有している。
それらを片っ端から広げていた燈織の後ろで、もはや同居人といっても過言ではない物の怪のもっくんが、読み終えた書をぱたぱたと重ね、巻物を巻き戻していた。
 そこに、晴明が姿を現した。

「おお、感心感心。励んでおるのぅ」
「……どーしたんですか、わざわざ」

突然やってきて好好爺然と笑う晴明に、燈織は書面から目を離して顔を上げると、うろんげに眉をひそめて見せた。
 燈織にはひとつの確信がある。
彼女の祖父であり希代の大陰陽師安倍晴明は、人間ではない。
晴明の母は狐だの、幼い頃には悪食の癖があっただの、鳥が会話している内容を理解しただの、おおよそ尋常ではない風聞を持つこの老人に対し、少女の見解はただひとつ。
 たぬき。これだ。
しかも、ただのたぬきではない。何十年も生き延びて妖力を身につけた、化けだぬきに違いないのだ。燈織幼少時に晴明がしでかしてくれたひどい仕打ちや悪行の数々が、それを裏付け、深くしわの刻まれた顔をほころばせて、晴明は書物や巻物をどけると、よいしょと大儀そうに腰を下ろした。円座も使わず冷たい木の床に。
 燈織はちっと舌打ちして、しかたなく立ち上がると、自分が使っていた円座を晴明に譲る。

「優しいなぁ、燈織や」
「……用件は何ですか」

素っ気ない燈織の態度に気分を害した風もなく、晴明は扇をぽんとたたいた。

「そうそう、燈織」
「はい?」

床にじかに腰を下ろしながら首をかしげる燈織に、晴明はほけほけと笑いながらこう言った。

「化け物が出ているとのことだ。お前、ちょっと行って祓ってこい」


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