二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 0番目の兄弟 ( No.3 )
日時: 2010/02/27 16:33
名前: 囮 ◆CbwloS2khc (ID: lUSIXdeU)

【第一章】


それから千年伯爵は解散許可を出し残ったのは千年伯爵を含め
ロードとシェリル、ティキにジャスデビの二人、ワイズリー


「で、お前は何でそんな恰好してんの?」


ぎこちない雰囲気を抜けだそうと最初に口を開いたのは意外にもロードではなくティキの方だった
椅子の上に片足を立て、早くも緊張感の欠片もなくしているユキナはその言葉を聞いて首を傾げる


「何でいうても…周りの反応がおもろいからに決まっとるやんけ。あ、一応ボクちゃあんと女の子好きやで?」


愚問だと言いたげな冷めた視線をティキに向けながらついでに指までさして、ようはただ遊びだと答える
付け加えるようにロードに顔を向けるとにっこりと微笑んで自分の趣味を誤解されないようにする

その笑顔にロードもニヤリと言った方がいいような笑みを浮かべる
愛する我が子に悪い虫がつくのを警戒するようにシェリルがユキナを見据えたがそんなことも本人達は気づいていないようだった


「僕もユキナのことは大好きだなぁ…だって兄弟だし、お人形みたいだもん」


確かに今のユキナの恰好は人形と称するにふさわしい可憐さだった
ロードと並んで街を歩けば誰でも振り返るだろう
残っている全員が改めてその容姿を見直し、現実を思い出して肩を落とす

そこで、ふと全員が思い至った疑問
実際に口に出したのは双子の片割れ、デビットの方だった


「お前さ…人間に紛れてる時も化けてんのか?」


言葉選びは悪いが確かに化けていると言った方が正しいような気もした
そして質問の核心
普段ノアとして活動していない時はどうなのか、と
きょとんとした表情でその言葉を受け止めたユキナは苦笑を浮かべて手をヒラヒラと振った


「んなわけないやろ…これはノアとしてのボクの顔や。人間の中におるときはまた別……お前ら絶対気づかんわ」


呆れたような表情で自分を指さしながらこの姿はここだけだと明言する
最後には自信ありげに気づかないと言ってニィッと笑ってみせた

その言葉に妙に納得したような、まだ曖昧な反応で頷く一同
ロードだけはそんなことは気にしないというように表情を笑みから動かさなかった


暫くの沈黙の後次に口を開いたのはまだ気難しい険しい顔をしているワイズリー
ユキナを見据えながら口を開いた


「それで…おぬしの持つという『有』のメモリーとは何なのだ」


その言葉に首を傾げてワイズリーの方に顔を向けたのはティキ


「は?お前、他人の頭ん中が読めるんじゃなかったのかよ?」


イラッとしたように眉間にしわを寄せてワイズリーはティキに睨みつけるような視線を向ける


「本来ならばそうなのだがな…じゃがワタシでも何故かコイツの頭は読めぬ、単純なおぬしの頭とは違ってのう」


そう、さっきからワイズリーの顔が険しいのは自分の能力が上手く発動しないから
覗けぬものは滅多にない筈の魔眼がこのノアには効かないのだ
普段と違う違和感から大人げなく八つ当たりをしながらワイズリーはユキナへ視線を戻す

ムッとした表情になるティキ
ケラケラと笑いだすロードとジャスデビ
何とも言えないような表情を浮かべるのは残った千年伯爵とシェリル


全員の反応を面白そうに見てからユキナはニヤリとした笑顔で口を開いた


「ティキ…手ぇ貸してくれへん?」


そう言ってスッと片手を差し出す
一瞬何かを疑うような顔をしてそれでも兄弟だからという妙な親近感から手を差し出す
ユキナはその手を迷いなく握ってティキを見上げた


「ティキの能力使っていっぺんボクの手ぇ放してみ?」


「はぁ?」


「えぇからえぇから、ほれほれ」


訝しげな顔をするティキに無邪気な笑みを向けながらユキナは手を放してみろという
戸惑いながらもティキはスッとユキナの手を通り抜けた

その様子を満足そうに"視て"、"体感して"もう一度ティキに手を差し出す


「もういっぺん掴んでみぃ」


「何がしたいんだお前?」


何とも言えない表情になりながらもう一度ユキナの手を握るティキ
悪戯っ子のような笑みを浮かべてユキナはティキを見た


「ボクの手ぇ放してみぃ」


「————…は?」



ティキの手はユキナから放れることはなかった
通り抜けることも全くできず普通に握られたまま

唖然とするティキを面白そうに見てユキナはワイズリーに顔を向ける


「ワイズリー…ちょお見とってな?」


相手の返事も聞かぬうちにユキナの姿が皆の前から消える
否、彼は床にいた
椅子を通り抜けて、床に座り込んでいた
再び立ち上がってヘラリと笑ってみせる
その笑顔を冷たく見ながらワイズリーは漸く納得したように頷いた


「おぬしの『有』のメモリーとは能力の複成か?」


「そんな簡単なことやないんやけどね。ま、そういうこと……能力の原理が分かればそれを防ぐことも可能っちゅうわけや」


理解した様な言葉を聞いて、しかしそれに苦笑を浮かべながらケチをつけてユキナは自分のメモリーの種明かしをする

最初にワイズリーの視線に晒された瞬間に透視能力に"触れる"
そしてほぼリアルタイムでそれを習得し、読まれないように対策を打つ
その間は完璧に無意識
生存本能ともいえる鉄壁の自己防衛

実はこの能力はその場その場でしか使えず、数時間経てば発動できなくなる類のものなのだがあえて言わないでおく
いくら兄弟とはいえわざわざ弱みを晒すことはない


本来持たない能力をそれに触れただけで我がものにし、応用もきく
ついでに言えば異なる人物の能力の複合も可能
『無』から『有』を生み出す力
新たな力を創造する力

それがこの女装少年『ユキナ』の能力だった