二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.55 )
- 日時: 2010/07/27 13:52
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: KUO6N0SI)
▼die.17 ─────────────
「……10年前に、死んでる、アルか??」
「そう。でも今の土方君に助けられたからあたしは存在するだけ。……解けた靴紐を、急いで結んだみたいに。
ねえ、思い出して見てよ。記憶がね、2つある筈だから。ダブった記憶がある筈だから」
「そんな……!!」
信じられない、信じたくない。
そんな顔をしていた神楽だが、自分に問いかけられた事で、おかしな記憶に気付いたらしい。
そう、確かにおかしいのだ。自分も今、2つの記憶がある。
川で溺れてからぷっつりと、途絶えてしまった記憶。
川で溺れて助けられて、其れからずっと生き続けた記憶。
そんな2つの記憶が混在している。其れでも記憶は曖昧なのだ。
土方が今助け出した事により、自分の未来が変わり生きる事になった。
其れでも、びりびりに破けて散った紙をセロテープで張り付けたように、歪な記憶。
壊れたビデオで撮られたような、ところどころ途切れた映像。
思い起こすと、恐ろしい程に曖昧なものばかりなのだ。
「ねえ神楽、そもそも3Zにあたしっていた?? 神楽の隣に、あたしはいた?? ……本当はね、いないんだよ」
頭を、脳の中をいくら探しても、思い出せない。覚えていない。
そもそも、3Zに廉條日向と言う少女はいなかったような気がする。
神楽の隣で笑っているのは銀八や新八や妙で、其の隣に廉條日向と言う女はいなかったような気がする。
——──存在した記憶と、存在しない記憶が、確かにあった。
無理矢理貼り付けられた記憶は、皆に混乱を生むだけだった。
神楽は、突然膝をガクリと折り地面に手をつけた。土方も苦虫を噛み潰したような顔をしている。
悟ったように、諦めたように穏やかな表情を浮かべるのは自分だけだった。
土に顔をくっつけそうな勢いの神楽の頭をまた撫でる。
屈まなくても、小さな自分には簡単に手が届いた。
「……10年間無理矢理生かされたあたし。其れは其れで良かった。でも問題は、あたしは生まれ変わってたの」
神楽が聞いているか判らない。
聞ける状況では無いのは判っているが、自分に残された時間はもう無かった。
「生まれ変わって、あたしは新しい人生を歩んでた。
でも、死んだ筈の前の自分が生き返った事で、生まれ変わった自分の魂は再び前の自分へと戻されてしまった。
……判る??」
フルフルと、神楽は横に首を振る。
「……此の小さな身体の女の子はね、全くの赤の他人じゃ無いんだ。生まれ変わった、あたしの姿なの」
死んで、生まれ変わって、新たな人生を歩んで。
其れが、死んだ筈なのに生きる事となり、魂は以前の身体に戻された。
此の少女が病院にいたのは病気でも事故でも何でも無い、魂が抜けた為に意識を失っていただけなのだ。
生まれ変わっていたならば、魂が此方に戻らないと思われがちだがそもそも違うらしい。
死後魂は天に召された後、記憶も何もかもが浄化され、真っ白で何もかもリセットされた魂は、また下界に新しくなって戻って行く。
其の魂が新しく宿した人物が、此の少女だったのだ。
以前返して、と呟いた女の子は、生まれ変わった女の子の記憶。魂を今、女の子は欲している。
そろそろ返さなくては、いけなかった。
「……嫌アル!!」
ずっと地面に膝をつけていた彼女が、自分をギュッと抱き締めた。
力強く、ギュッと。
「いなかった記憶なんて、どうでも良いネ!!
記憶が2つあっても、日向がいた記憶だって、ちゃんと残ってるアル!!」
「神楽……」
「今、日向の事を、ちゃんと、判ってれば、其れで十分アル。
一緒に、いた記憶が、あれば良い、ネ。……お願いだか、ら、消えないでヨ、日向……!!」
抱きしめられている其の腕も、声も、震えている。
神楽の言葉が頭で反響し、自然と涙が溢れて来た。
静かな空間に、2人分の嗚咽が聞こえる。嗚咽と言うよりは、泣き叫ぶ声だ。
嬉しかった。本当は自分は存在していなかった。
神様の気紛れか、何が因果かは判らないが、死んだ人間が生きる事となった。
元々其の空間にいなかった。
異物とも言える自分が中に入って行ったと言うのに、神楽は自分を求めてくれた。欲してくれた。
——──消えたく無い、一緒にいたいよ。そう思った時には、涙は神楽の肩の服をビショビショに濡らしていた。
「神楽……其れから、土方、君」
日が段々と上り始めている。
赤黒かった空は、日の光と、白い空へと変化を遂げ始めていた。
「ありがとう、ありがとう。神楽、土方君」
神楽の背中を擦りながらありがとう、と呟いた。
タイムリミットが迫っている。
自分の魂が完全に戻るまで、何度も何度も呟いた。ありがとう、ありがとう、と。
自分の魂がこの世に留まったのはきっと、土方に恋していたとか、青春を謳歌したいとか。
そんな未練では無いと思う。
そして土方を好きになったのは偶然では無く、必然だったんだと思った。
きっとずっと、土方と神楽に、此の言葉を言いたかったんだと思う。
────助けてくれて、ありがとう。
────親友でいてくれて、ありがとう。
多分、其レダケノ事ダ。
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