二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]拝啓、大嫌イナ神様ヘ。 |6up ( No.53 )
日時: 2010/08/24 15:33
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: 2cEGTv00)

■7 魔法が使える人魚姫

どんなに赤く紅く染まっても、鈍い光を放つそれは失う事はなく。

星が瞬く。嗚咽が聞こえる。
流れ星が流れる。泣き崩れる。
同じような日々が続いている。
こんなに星は綺麗なのに、目の前の光景はとても凡人が見れたものじゃない。

自分達が居るのは、戦場。
命を奪い、奪われる場所。
心穏やかで過ごした時は、何年前だっただろう。
自分の──自分達の大切な人は奪われた。幕府に、この世界に。
彼の意思を継いで──自分達は此処に立っている。
ううん、正確には自分達四人。

他の人は国を守る為に戦ってる。
勿論自分達だって国を守る為だけれど、少し他の人達とは違う想いも抱いてる。

今日は何人斬ったんだろう。明日は何人斬るんだろう。
血を見るのも駄目だった自分が、今は命を奪う事に何の躊躇いもないなんて、可笑しくて笑えてくる。

  ◆

その日の戦が終ると、銀時と辰馬は屋根に、小太郎と晋助は門の近くに座るのがお決まり。
他の人達は、仲間の死を嘆く。嘆いた所で、帰って来ないのに。
自分だってそうだった。銀時も、小太郎も晋助も。
沢山嘆いたけど、結局何の意味もなかった。
小太郎は自分に泣いていい、我慢は良くないと言うけれど。
我慢してるんじゃない。本当に悲しくないだけ。
人の死に慣れてしまった。
そんな事、言えなくて。

溜息を一つ、地を強く蹴って屋根に登る。
そしたら目の前に丁度辰馬が居て、蒼みがかかった瞳を丸くしたかと思うと、悪戯っぽく笑った。

「おお無兎! どうした? 座るがか?」

彼の土佐弁は、聞いてると落ち着く。
ぽんぽんと催促するように叩いた場所は、銀時と辰馬の間。
自分はお言葉に甘えて、そこにちょこんと腰を下ろした。
辰馬は何時も言う。

戦は只徒に仲間を奪う、みたいな事を。
そして、この戦が終わったら、あの空で漁をするんだって。
大きい船を浮かばせて、辰馬が笑いながら星を獲っている姿が目に浮かんで、ぴったりだなんて思ったり。
銀時も聞いているのかな、と思って見てみると、何処か遠くを見てた。
空の遠く遠く、その視線は自分達を見ていない事だけは解った。
自分は空に手を伸ばしてみる。星に手が届く筈、ないんだけれど。

「……魔法が使えたら、いいね。童話の人魚姫だって、魔法が使えないからバッドエンド。
 自分達に、もし─魔法が使えたら、人魚姫に魔法が使えたら。全ての物語はハッピーエンドで、終われるのに」

あの星の中に、人魚姫は居るのだろうか。
泡になった人魚姫。哀れな人魚姫。
愛が故、王子を殺さなかった。
愛が故、己は消えてしまった。

どうして、筆談でもすればよかったじゃない。
貴方を助けたのは私よ、そう言えばよかったじゃない。
魔法が使えれば……お姫様は悩まない。
あの魔女に頼る事もなければ、声を失う事もない。
大切な人を失う事だって、ない。


    全てはハッピーエンドになる、でしょ?


「じゃが、そりゃあ誠の幸せではないんじゃなかか?」
「……え?」
「それは魔法が作り出した、運命に逆ろうた幸せじゃ。
 運命っちゅーもんを覆すのを魔法に任せちょったら、堕ちていくだけじゃき。
 よう考えてみい。おんしゃが魔法が使えたら、どうじゃ?
 天人を消してやろう、とは考えんか? 全てを奪った奴等を殺そうと、考えんと言い切れるか?」
「……多分、無理」
「じゃろ? 同じじゃき。皆全て懸けて戦うとるんじゃ。
 懸けたもん簡単に消されたら、おんしは嫌じゃろ?


 魔法なんか、なかった方がええんじゃ。
 ハッピーエンドを求めるならば、裏にバッドエンドがある事忘れちゃいかんぜよ」

アッハッハッハッ、と何時も笑う声じゃない。
真剣な眼差し。青い瞳に映る満点の星。
自分も隣に寝転がる。

ああ、人魚姫はこの星の何処かに居るのだろうか。


(魔法が使える人魚姫)
堕ちる姫、堕ちる姫。
魔法を持つと、優しさと己の魂と、そして、心の剣を失うのだと言う。
王子を突き刺せなかった銀色のナイフは、姫の魂。
海の底で、きらりきらり。