二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: *小さな初恋* 【稲妻/参照2000突破Thanks!】 ( No.251 )
- 日時: 2011/08/05 20:07
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Xgqnh5jE)
- 参照: 合作楽しそうだなぁ……。
どこまでも高く澄んでいる空の中を、一羽の鳥が翔け抜ける。純白の輝く翼は、陽の光を受け一層、きらきらと儚い光を世界に零す。遥か遠くの地面に自らの影を映しながら鳥は、滑るように、泳ぐように、翔けるように、踊るように——果てない空を飛び続ける。
その影は疾風のごとく街を駆け抜け、山々を抜き去り、林道に隠れる。やがてその影は、二人の人間の頭上を飛び抜け、姿を消した。一人が呆然と空を見上げる。栗色の馬の足がぴたり、と止まった。
刹那、きらりと遠くで光を放つ何かが空から降ってくる。
「おい、どうしたんだ?」
荒い口調で一人の青年が尋ねる。一方、立ち止まった傍らの青年の手には、ふわふわとしたその何かがちょこんと載っていた。自然と緩む唇は薄く、肌も少女のように色白い。雪をそのまま映したような、白銀の髪がぴょこんと跳ねていた。藤色のたれ目が、純白の羽を映しこむ。そしてにこっと、愛らしい笑みを浮かべた。
「いやぁ……空から天使の羽をプレゼントされちゃったよ」
穏やかな微笑を浮かべるこの少年こそ——吹雪士郎。北の果てに位置する王国の一人息子なのだった。
*
「吹雪、いつまでその羽持ってるつもりなんだ?」
「いいの! 僕、これ気に入ったんだから」
何もない畦道(あぜみち)を二頭の馬に乗った青年が歩いていた。荒い口調で先を行くのは染岡竜吾。一国の王子である吹雪の護衛だが、普段は同い年ということでお互い気兼ねなく交流している。剣の腕前は王国で一位、二位を争うらしい。
「……羽なんて何処にでも売ってるだろ」
染岡はあくまでも口喧嘩にまで発展させるつもりは無いらしい。はあ、と溜息を吐くと黙りきってしまった。そんな彼を見て、吹雪はくすくすと小さな笑みを漏らす。
「だってさ、もしあの女の子に出会えたら、見せてあげたいんだ」
この世界の一部を、その美しさを、その儚さを。
そう語る藤色の瞳を見て、染岡は「はいはい」と曖昧に言葉を濁す。どうやら、この手の話は聞き飽きているらしい。そんな彼のげんなり加減に気付いているのか、知らんぷりをしているのか、吹雪はゆっくりと目を伏せた。
「あの女の子もさ、きっと怖いと思うんだ。だから、世界を見せてあげようと思って。それで、僕の旅の話をしてあげて、彼女の身の上話も聴いて、」
そこで故意に言葉を切ると、吹雪は瞳をぱちりと開き、
「……あの子を笑顔に変えてみせる」
明確な意思を宿した瞳ほど、凛々しく強いものは無い。今までの吹雪からは想像もつかないほどの堂々とした姿勢に、染岡は少し、嬉しそうに笑み崩れた。まさか、夢で一度会っただけの少女が暗闇で泣いていた少年をここまで勇ましくさせるなんて——自分ではできなかった、その現実は悔しいがその少女に感謝せざるを得ない。
まあ、頑張れよ。そう告げようとし息を吸った染岡は、思わず息を呑んでしまった。指令を出すよりも早く、馬も自然と立ち止まる。本能からか、その黒い瞳には恐怖が映り込んでいた。優しく毛並を撫でる。後ろから続いてきた吹雪もあっと息を呑む。目の前に広がる下り道など——ましてや普通に生きる国の姿など、彼らの瞳には映っていなかった。
「こ、れが……」
「噂の“永久の眠りについた城”ね……」
ぽつりと呟いた二人の前に広がっているのは——深い緑の茨に覆われ、生きる光を失った、かつて芸術と評された城と、呼吸が止まった城の隣で細々と生き続ける王国の姿であった。