二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ハリー・ポッター】白と黒の鎮魂歌<1.5話UP!> ( No.8 )
日時: 2010/12/21 17:10
名前: リオ (ID: slitpE5G)

2話 「出会い・前編」

ダーズリー夫妻が目を覚まし、戸口の石段に赤ん坊が居るのを見つけてから、十年近くがたった。プリベット通りは少しも変わっていない。太陽は、昔と同じこぎれいな庭の向こうから昇り、ダーズリー家の玄関の真鍮の「4」の数字を照らした。その光が、はうように今に射し込んでゆく。ダーズリー氏があの運命的なふくろうのニュースを聞いた夜から、居間は全く変わっていなかった。ただ暖炉の上の写真だけが、長い時間の経った事を知らせている。
十年前はぽんぽん飾りのついた色とりどりの帽子をかぶり、ピンクのビーチボールの様な顔をした赤ん坊の写真がたくさんあった……ダドリー・ダーズリーはもう赤ん坊ではない。写真には金髪の大きな男の子の姿が写っている。この部屋のどこにも、もう二人の少年少女が住んでいる気配は無い。

しかし、ハリー・ポッターとミカ・ポッターはそこにいた。今はまだ眠っているが、もう、そう長くは寝ていられないだろう。ペチュニアおばさんが目を覚ました。おばさんの甲高い声で、一日の騒音が始めるのだ。

「さあ、起きて! 早く!」

ハリーとミカは驚いて目を覚ました。おばさんが部屋の戸をドンドン叩いている。
「起きるんだよ!」と金切り声がした。
おばさんがキッチンの方に歩いていく音、それからフライパンをコンロにかける音がした。
仰向けになったままで、ハリーは今まで見ていた夢を思い出そうとしていた。いい夢だったのに……。空飛ぶオートバイが出てきたっけ。ハリーは前にも同じ夢を見たような不思議な心地がした。一方、ミカは二人の女の子の夢を見ていた。
ビャクライの、なんだっけ?クロヤミの、キシ、…わからない。
ミカは混乱しつつも起き上がった。
「まだ起きないのかい?」おばさんが戸の向こうに戻ってきてきつい声を出した。

「もうすぐだよ」
「同じです」
「さあ、支度をおし。ベーコンを具合を見ておくれ。焦がしたら承知しないよ。今日はダドリーちゃんのお誕生日なんだから、間違いのないようにしなくちゃ」
「わっ、私はー…」
「あんたは庭の手入れでもしてな」

ハリーはうめいた。ミカはうめかずとも、苦々しい顔をしていた。

「何か言った?」

おばさんが戸の外からかみつくように言った。

「なんにも言わないよ。なんにも……」

ダドリーの誕生日——なんで忘れられようか。ハリーはのろのろと起き上がり、靴下を探した。ベッドの下で見つけた靴下の片方に張り付いていたクモを引きはがしてから、ハリーは靴下をはいた。クモにはもう慣れっこだ。なにしろ階段下の物置はクモだらけだったそ、そこがハリーとミカの部屋だったからだ。

ミカはすでに行ってしまったし、服を着ると、ハリーは廊下を出てキッチンに向かった。食卓はダドリーの誕生日のプレゼントの山に埋もれてほとんど見えなかった。欲しがっていた新しいコンピュータもあるようだし、二代目のテレビやレース用自転車ももちろんあった。ダドリーが何故レース用自転車を欲しがるのか、ハリーにとっては全くの謎だった。太って運動嫌いなのに——誰かにパンチを食らわせる運動だけは別だが……。

ダドリーがプレゼントが少ないと駄々をこね、さらにその後にはハリーとミカも一緒に動物園に連れて行ってもらえることになり、二人は上機嫌だった。

その日はお天気もよく、土曜日で、動物園は家族連れで混み合っていた。ダーズリー夫妻は入り口でダドリーとピアーズ—ダドリーの子分だ—に大きなチョコレート・アイスクリームを買い与えた。ハリーとミカを急いでアイスクリーム・スタンドから遠ざけようとしたが、間に合わず、愛想の良い売り子のおばさんが坊やとお嬢ちゃんは何がいいのと聞いたので、しかたなしにハリーとミカにも一番安いレモン・アイスを買い与えた。
これだって結構いける、とアイスをなめながら、ハリーとミカは皆と一緒にゴリラのおりを眺めた。—ゴリラがダドリーそっくりで、あれが金髪だったらな……。と考えているとミカに頭を小突かれた。
こんなにすばらしい朝を過ごしたのは、ハリーとミカにとって久しぶりだった。昼近くになると、ダドリーもピアーズ動物に飽きてきたので、かわりにお気に入りのハリー殴りを始めるかもしれないと思い、ハリーは慎重に二人から少し離れて歩いた。ミカは女の子なので殴られることは無いが、悪態を吐かれる。園内のレストランで昼を食べたが、ダドリーはチョコレート・パフェが小さいとかんしゃくを起こし、おじさんがもう一つ買ってやるはめになり、ハリーとミカはパフェのお下がりを食べることが許された。
ミカが手洗いに行く時、ぶつかった女の子にどこか見覚えがあった。黒いショートヘア、瞳はグレー。

「ごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。—君は?」
「大丈夫です」

こんなに優しい人、ハリー以外に会った事が無いとミカは感じた。

後になって思えば、こんなに良いことばかりが続くはずがなかった。