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二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 序章 —「旅人」— ( No.1 )
- 日時: 2011/03/16 15:39
- 名前: 朱音 (ID: JYHezvC8)
序章 —「旅人」—
「…………ここもか。人間って分かりやすいなぁ。どこの奴も、いつの奴も、変わってへん」
赤茶けて乾燥した大地。空には赤黒く雲が渦巻き、不穏な音が時たま聞こえる。地には、背中に何かが刺さった人間が倒れていた。
一人、ではなかった。
何人も何人も、うつぶせに倒れている者がいれば仰向けに倒れている者もいる。目をかっと見開いた者もいれば、恐怖からかぎゅっと目をつぶっている者もいる。
戦争。誰が見ても一目で分かる。死んでいった者たちの顔には、闇よりも黒い絶望が貼り付いていた。
青年はそれらを見下ろし、悲しそうに笑う。その茶色の目からひとすじ、涙が頬をつたった。
「……もう、俺、行くわ。お前らと一緒におんのは楽しかった。でもな、でも………」
ぐっ、と青年は涙をこらえる。それに反してパタパタと落ちた涙は大地に吸い込まれていく。
「ごめん…………ホンマにごめん………誰もこんなことしたないのにな………誰も、誰も戦争なんか…………」
ずずっと青年は鼻水をすすり、右手のそででぐしぐしと目を拭う。涙で腫れたその目には、強い決意の色が映っていた。
青年は目を閉じ、胸の前で十字を切った。それから手を合わせて一礼し、マントを翻してその場を立ち去った。
生ぬるい風が、地面に突き立てられた旗を揺らした。
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