二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第5話 ( No.39 )
日時: 2012/03/10 14:59
名前: 雷燕 (ID: xbduus1y)

第5話 深くて大きな天然の迷路



 ヒトカゲを抱えてデッキへ出ると、快い風がレイアの髪を撫でた。船が進む先に見えるのは水平線ではなく、カントー地方の港町クチバシティだ。日はだいぶ傾いてきて、オレンジ色の光が海を照らしていた。

「ほら多分お前の故郷、カントー地方だぞー」

 ヒトカゲはレイアの腕の中で嬉しそうな声で鳴いた。こいつも元々はカントーにいたのだろうか。分からないけど、とりあえず元気そうなのでよかった。

 荷物はリュックの中にまとまっているしそもそもまとめる程物を持っていないので、船が止まるまでデッキで過ごす。近づくにつれてだんだんと町の様子が見えてくる。
 まず目に付くのがポケモンジムだ。クチバのジムリーダーは電気タイプ使いのマチス。今挑戦しても当然負けるだろう。あの赤い屋根はポケモンセンターだな。建物が多いのであまり遠くまでは見渡せない。

 ——カントーで何しようかなあ。
 クチバの町を眺めながら思う。考えずに、思う。明確な答えを出す気はないのだ。ただのんびりと地面の上を歩いていたら、それが何よりの幸せだと思う。レイアにその幸せに浸っている暇はなく、早く抜け出す手段を見つけなければならないのだが。

「ねえ、どこ行く?」
 ルイが明るく訊いてきた。カントーに来たのは初めてらしいから、気分も高揚しているんだろう。質問されたので、答を探した。

 行きたい場所というよりは、会いたい人を考える。まず第一はレッドだけど、どこにいるか分からないしな。今は、ポケモンの世界での時系列ではいつ頃なのだろうか。ヒカリとコウキが殿堂入りを果たしていたから、少なくとも初代から3年以上経っているとは思う。つまり、レッドはシロガネ山にいるかもしれない。だとしたら会うのは随分と先になりそうだ。そんなにポケモンバトルが強くなる前に帰りたい。
 グリーンは多分トキワシティのジムリーダーをしているから、ジムに行けば会えるだろう。だがどうせジムに会いに行くなら挑戦してバッジを貰いたい。後は……チャンピオンのワタルとか、ロケット団のボス、サカキとかか。どれも難しそうだな。

「特に行きたい場所はないなあ……」

 結局出てきた言葉はそれだった。元の世界に帰るというはっきりした最終目標はあっても、そこへ繋がる道筋が何も見えないので目の前の目的が思いつかない。バッジ集めはやってみたいがそんなにのんびりしていいものか。

「あはは、カントーに来たいって言ってたのにないんだ? じゃあタウンマップとガイドブックでも買ってから考えようか」
「そうだな」
 ゆっくりと速度を落としつつあった船が、完全に止まった。


 船から降りて、まずはトレーナー向けの店であるフレンドリーショップへ向かう。町では多くの人が行きかっていた。クチバシティは港町ではあるが、漁業をしているといった雰囲気ではなく貿易港、といった感じだ。背の高い建物も多く、結構都会な雰囲気だ。レイアは前の世界で関東地方に行ったことがない。

 口さえあれば京へも上るとはよく言ったもので、フレンドリーショップの位置は全く知らなかったのだが、人に訊いていけば難なく着くことができた。口と喉と度胸さえあればタウンマップなんていらないんじゃないかなんて思う。思うけど買った。同時にカントー地方の名所なんかが載ったガイドマップを買って、二人で覗き込む。

「クチバシティといえばやっぱりポケモン大好きクラブかな?」
「会長の自慢話を聞きに行くのか?」
「あーそれも面倒だね。じゃあどこに行こうか?」
「いっそディグダの穴でも通ってニビシティにでも行くか」

 なんて、冗談で言ってみたつもりだったのに。しかしルイが洞窟の中を通っていくことに妙に興味を持ってしまったようで、「レイア天才! そうしよう!」という具合に乗り気になってしまった。
 クチバシティを東に進み、町を出る。するとすぐ左手に洞窟の入り口が見えてきた。中に入ってみると、トレーナーのためか明かりがつけられていて、懐中電灯も必要なかった。梯子を降りて地下へ行き、ディグダやダグトリオがあちこちで顔を出したり引っ込めたりするのを眺めながら、進んでいく。

 あれを引っこ抜いたらどうなってるのかと思い立ち、ディグダが頭を出した隙に掴んで持ち上げようとした。無理だった。ディグダの頭を掴むのには一応成功したのだが、雷のごときスピードで潜られてしまい、つい手を離してしまった。
 しかもそんな事をしていたらルイに「何してるの!?」なんて言われてしまい、もう一度挑戦することもかなわなくなった。

 そして道中たまにすれ違うトレーナーに勝負を持ちかけるのだが、初めの方はほとんど断られてしまった。つれないなあなどと考えて歩いていると、ある短パン小僧が勝負にのってくれたので、じゃんけんをして勝ったレイアがバトルをした。すると、既に相手は疲れがたまっているのが目に見えた。
 成程そういうことか。この先道が長いんだな。すれ違うトレーナーのみならず、ディグダやダグトリオとの戦いも続いているのだろう。

 つまり、今からの中盤が一番バトルできるってことだよな。
 うずうずしながら、ヒトカゲに指示を出す。