二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 それは恋慕にも似た、 【珠→吹桃】 ( No.7 )
日時: 2011/07/04 07:23
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: 6B38yoz9)




 *

 彼女がこの学校に転校してきてから、もう二週間が過ぎた。七日間の二倍、たったの十四日間。だけどその娘は、すごい魔法が使えて。この短い期間の間に、彼はだいぶ笑顔でいる時間が増えた気がする。

「……それでね、桃ちゃんが思い切り転んじゃって」
「そ、それは昔の話だよ! 恥ずかしいから言わないって約束したのに……」

 楽しそうに笑いあう二人。まるでじゃれ合う兄妹のようで。
 彼はなかなか、心から笑ってくれなかった。あたしがどれだけ頑張っても薄く儚い笑みを浮かべるだけで名前さえ呼んでくれなかったのに。彼女はたった十四日間で彼の幸せそうな笑顔を呼び戻して。嗚呼、もう、哀しいな。


 あたしの二年間の努力は、彼女と過ごした十四日間に負けたのだ。


 (届かない想い、)


 *

 最近、ふと思う。桃花は僕と——彼のどちらのほうが好きだったのだろうと。
 桃ちゃんは優しいからきっと、こんなくだらないことを訊いても、真面目な顔で二人とも好きだったって、甘い嘘を吐くのだろう。僕は彼女に、そんな嘘まで吐かせて存在意義を見つけようとしているのだ。嗚呼、情けない。情けない、けど。

 ——あに、き。

 僕が彼女からまで見捨てられたら、もう縋るものなんて一つも残らないんだよ。そしたら今度こそ、
 泣いても叫んでも、何も帰ってこないからね。


 (歪んだ愛情、)


 *

 人の体を通して見ても、桃は相変わらずお節介だった。士郎士郎、うるさいし。俺は本物のアツヤじゃないから、名前を呼んでほしいなんて思わない。むしろ、士郎を最後まで見ててくれればそれでいいんだ。だけど、本当に悪いと思ってる。

「あ、つや?」

 俺がもう少し強かったら、士郎のことは俺一人で守れるのに。士郎を桃花のお荷物として預けなくて、済んだのに。

「もし俺がシュートを外しても、桃花は士郎を見捨てないよな?」

 大丈夫だよ、アツヤならすごいシュートが打てるって。
 そう、笑う彼女。なあ、お願いだから、こんな弱音を吐く俺にまで、優しくしないでくれ。俺まで桃花に縋ったら、士郎のこと怒れなくなるからさ。


 (忘れた恋心、)


 *

 いつからだっただろうか、上手に笑えなくなったのは。
 大切な人を励ましたくて、笑っててほしかったからまずは自分が笑おうと思って。それで、彼等を励まし続けているつもりだった。なのに。

「……どうし、て?」

 手を伸ばす頃にはもう、私が求めたそれは既に無い。

 (すり抜けた幸福、)