二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Story 『物語』ターン ( No.24 )
- 日時: 2012/05/12 22:51
- 名前: 雪華 (ID: 7G9M03h3)
(5)戯言を吐く異常者
“愛が失くちゃ見えないよ? 君みたいに汚らわしい奴には、到底見えないんだから。”
無表情に扉を閉める刹那、自らが騙した将官の嘆きが聞こえた。
「『玉砕』。なーんてね?」
主君に捧げた可愛らしい笑みとは全く別人の屈託の無い笑顔を見せる沙耶。
意気揚々と進む足は、聖帝の御部屋へと向かっている。
「わたしと優一さんが指揮する部隊があんな連中に敗れるワケがないじゃあないですか。倉間さんではあるまいし。」
少女は誇らしげに、あたかにも其処に客がいるように話し出した。
そして不思議な事はというと、その独り言が暗黙の了解ででもあるかのように廊下を行き違う者が平常であるこの事態。
慌しく小走りに駆けてゆく使い、考え事をしながら赤の他人にぶつかっては謝る同年代の少年、悠然と地を踏みしめる大臣。幾人もの人間の横を通り過ぎたはずなのだが、誰一人として彼女の大きすぎる一人言を咎めはしない。
その様はまるで沙耶の周りだけが異次元であるようなもの。
そう、色あせた別世界———“愛が失い者”には見えない、不確かではあるが精巧な世界が、瞳を尋常なく虚ろにした少女には見えていた。
「優一さんの指揮は完璧だったんです。でもあいつ等は卑怯だった。
彼の弟さんの京介くんは知っていますよね。
京介くんは千宮寺と繋がっている・・・事実、嫌という程に突きつけられた事実、です。
・・・戦のずっと前から———、」
少女は拳を握り締める。
肉が裂かれ血が流れようともお構いなしに。
「優一さんは脅されていました、弟さんを人質にとられて苦しむ優一さんを沙耶は緊張していると言って笑いました。
沙耶が———わたしが———気づいてあげられていたならば!!
誰も死なずにすんだのです、沙耶は悔しい!!
あんな奴らに優一さんを殺されたことが悔しい———!!」
でもね、と理性を取り戻した沙耶は小さく笑みを浮かべた。
「沙耶には全部、夢に思えるんです。ほら其処の角を曲がったら———やあってあたまを撫ででくれる気がして。
今なら・・・素直に撫でられてもいいかもしれません。嫌じゃ、なかったから。
でも夢ではない。
わたしも、死ねばよかったんですね。」
大理石のホールに二人分の足音が響き渡った。
怒りも懺悔も夢見心地もここまで、少女は振り返ると涼やかに挨拶をする。
「沙耶がお連れできるのは此処までです。どうぞ先へお進みください。相原沙耶、貴方の御恩は忘れない。」
見えない客に深く礼をし、再び顔を上げた少女の瞳は明るく晴れていた。
そして先程の奇妙な雰囲気など少しも感じさせず。
「・・・あれ? 沙耶は何で此処にいるんだろ?」
首を傾げると、用を思い出し本館へと来た道を戻り始めた。