二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN】 皓々と照る月 【標的35更新しましたよー】 ( No.100 )
日時: 2012/10/18 20:02
名前: 苗字(元なゆ汰 ◆UpTya9wNVc (ID: gwrG8cb2)

 クナイが剣によって軌道を逸れて、近くの地面に刺さる。弾き返すことは、できなかった。クナイは確かに剣に接触したが、それは“ただ掠っただけ”に過ぎなかったのだ。「う゛お゛ぉぉい! アウトだぁ! 弾き返すことができなければ意味がねぇ! 今日は運がよかったが、ほんの少しずれてたらてめぇは死んでたぞぉ」スクアーロさんが低く唸るような声で言った。

 「生憎、野球は得意じゃないもので」苦笑を浮かべる。

 ——そう、これは言うならば“野球”なのだ。バットの代わりに剣を振り、ボールの代わりにクナイを打つ。山本あたりならすんなりとできたかもしれないが、自慢じゃないのだけれど私は運動神経はそれほどよくないのだ。唯一できるのは、昔一ヶ月ほど習った護身術くらいだ。といってもかなり前のことなので、今出来るかは定かではない。もし出来たとしても、それはきっと何の役にも立たないただの“お遊び”にしか過ぎないのだろう。


「筋はいい。けどなぁ、硬ぇ」
「硬い?」
「そうだぁ。剣に柔軟性がねぇ。それがてめぇの一番の課題かもしれねぇなぁ」


 剣に、柔軟性。どういうことなのだろうか。スクアーロさんに聞こうと思ったけれど、もうすでにスクアーロさんはクナイを投げる準備をしていたので私は剣を構えた。答えは自分で見つけろ。そういうことなのだろうか。スクアーロさんがクナイを投げる。それと同時に私は剣を振った。




 ***




「197、198、…っ199、……200っと!」


 スクアーロさんが次々とクナイを投げ、それを私は剣で弾くという動作を始めて5時間。200回は超えたが、未だに私は綺麗に弾き返すことができないでいた。スクアーロさんの手も200回目で止まって、気がつけばクナイが地面いっぱいに刺さっている。「「はあ、」」スクアーロさんと、私の溜息が重なった。


「まあ、最初はこんなもんだぁ! 休憩するぞぉ! 丁度コックたちが料理を作り終えたくらいの時間だろうからなぁ!」
「す、すみません」


 スクアーロさんが、残りのクナイを私に手渡す。私は受け取ったクナイを布で包むと、ヴァリアーに来たとき持ってきていた袋に入れた。かちゃり、甲高い音が鳴った。スクアーロさんのあとをついていって、エントランスに入る。歩くたびにコツンコツンとスクアーロさんと私のブーツが音を出す。「野望を捨てろぉ」ふいに、スクアーロさんが言った。


「——……はい?」
「野望を捨てろといってるんだ。てめぇが復讐しようとしてるのはレヴィから聞いた。それは結構。けどなぁ、今は、野望を捨てろ。忘れるんだぁ」


 スクアーロさんが、重い声色で言う。


「てめぇは復讐に必死になるあまり、周りが見えてねぇ。てめぇは、剣を振るのに一番大事なことがわかるかぁ?」
「……いいえ」
「——雑念を、取り払うことだ。剣を振るうのに、余計な感情はいらねぇ。喜びや悲しみは勿論、憎しみもなぁ。てめぇは雑念が多すぎる。だから、忘れるんだ。一度、復讐を捨てろぉ。殺しに私情を持ち込むな。そうじゃねぇと——」




「おまえ、死ぬぞ」




 一番簡単で、一番残酷な言葉を、スクアーロさんは容易く口にする。復讐を、捨てる。そうしなければ、死ぬ。柔軟性とは、きっと、このことだ。“憎しみ”という鎧を背負ってるから、動作が鈍くなる。硬くなる。だから、その鎧をすべて取り払い、柔ある剣を作り出すのだ。そうすることで、動作は幾分か柔らかくなる。「はい、」私が小さく返事をすると、スクアーロさんは満足気に微笑んだ。


 私に一番足りないのは、“無”であることにやっと気づく。無心になろう。無心になって、剣を振るおう。

 復讐するにもなんにしても、一番大切なのは自らの命なのだから。