二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Chapter—1 ( No.4 )
日時: 2010/05/05 14:31
名前: 花森千風 ◆O6d6xo.9Cg (ID: OnRzE.oe)


 どれくらいの間そうしていたでしょうか。

 川の向こうを何気なく眺めていたアリスは、突然聞こえてきた悲鳴に飛び上がりました。

 急いで声のした方を振り返ってみると、向こうから白い色をした何かが走ってきます。多分、あれが悲鳴の正体なのでしょう。それが何なのかはよくわかりませんでしたが、生き物であることには違いありません。悲鳴が人間のようでしたから、喋ることもできるかもしれません。アリスはボートから岸辺へ飛び移ると、迫ってくるその何かに顔を向けました。

「うさぎだわ!」

 アリスは言いました。確かに、その白い生き物はうさぎでした。ぴんと立った耳、丸みをおびた体のどこを見てもうさぎそのものです。ただちょっとおかしなことには、そのうさぎの毛並みは薄いすみれのような色をしていて、目は驚くほど赤く、二つの後ろ足で人間のような走り方をしているのでした。

 何はともあれ話しかけないことには何も始まりません。アリスはちょっと大きめの声でうさぎを呼ぶことにしました。

「うさぎさん」

 ところがアリスが声をかけた途端、うさぎは先ほどと同じような鋭い悲鳴を上げてその場に座り込んでしまいました。前足で頭を抱えて震える姿は、まるで何かを恐れているようでした。アリスは思わず「ごめんなさい」と口走りました。きっとこのうさぎはとても臆病で、話しかけただけでも驚いてしまうんだと思ったからです。

「ごめんなさい」

 アリスは何も言わずに震え続けるうさぎに、もう一度謝りました。

「あなたがそんなに臆病だったなんてしらなかったの。でも」

 そこまで言って、アリスは息を飲みました。うさぎが“臆病”という単語に反応してビクッと身体を震わせ、真っ赤な瞳でアリスを見たからです。