二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【デュ.ラ】池袋浪漫【ララ!!】《1章執筆開始》 ( No.12 )
日時: 2010/05/22 23:37
名前: 箕遠 ◆rOs2KSq2QU (ID: yGNKhXgn)

    ♂♀


 同時刻 某マンションの一室にて




 「たっだいまー、あれ、セルティー! 帰ってるのかーい?」

 そこで、カタカタとキーボードの上を滑らかに動く指は、とある青年の歓喜の声によって一時停止された。ばたばたと玄関から聞こえる足音を、パソコンの前に座る、漆黒のライダースーツを着用している女性は、面を上げた。


 「セールティ! ただいまっ!」


 音をたてずに静かに開けられた扉からは、先ほど名を呼んだと思われる、白衣を着、眼鏡をかけた優しそうな風貌の青年が顔を出した。
 20歳半ば頃だろうか、本来知的で冷え切った印象を持たせるその顔が、今では愛すべき人に会えた時の、嬉しくてたまらないという雰囲気を身に纏っている。


 「あ、ごめんね。もしかして、チャット中だったかな?」
 『いや、今終わったところだ。おかえり、新羅』
 

 パソコンに向かっている女性は、慌てたようにキーを打つと、その青年に見せる。青年は文字が打たれたパソコンの画面を覗き込むと、文章を読み、柔和な笑みを浮かべた。


 「うん、ただいま、セルティ」
 

 そうして2人は仲睦まじそうに会話を始めたのだが—————客観的に見ると、それは中々可笑しな光景であった。
 理由1。
 ライダースーツの女性の方は、実際に声を発すこともなく、パソコンにキーを打ち込むことによって相手と意思疎通をしていること。
 理由2は—————
 
 ——————パソコンの前に座る、漆黒のライダースーツを着た女性には、首から上が存在していないということだ。



    ♂♀


 セルティ・ストゥルルソンは人間ではない。俗に世間では、首無し騎士————デュラハン、と呼ばれる化け物である。彼女は、今、恋仲である岸谷新羅と共に同居生活を続けているのだが————そんな、平和な生活を取り戻すまでには、様々なことがあった。
 彼女には、本来ある筈の首がない。元々デュラハンは、自分の首を小脇に抱えて登場するという説が少なくないのだ。しかし、彼女の場合、記憶と共に、いつのまにか失われていたのだ。その為、彼女は微かに残っている首の気配を元に、ここ池袋で夜な夜な、『首無しライダー』という都市伝説として、運び屋を営んでいるのであった——————


    ♂♀



 『……で、今回の仕事はどうだったんだ?』
 「いやさー、行ったのは良いものも、突然門前で追い返されちゃったんだよ! 向こうが私を呼んだくせにね。その上僕が『患者はどこでしょうか』って優しく聞いたら、『その情報をどこから!』とか言って俺に掴みかかってきてさー……ホント、まいったよ」
 『それはまた変な話だな。緑園会社だったっけ? あそこも、矢霧製薬と連携した時に、社長が亡くなったらしいが……何か怪しいことしてるよな』

 
 自分の仕事内容について、肩を竦める新羅に、セルティは呆れたように頬杖をついた。一旦、キーボードを打つ手を休め、隣に立つ新羅に向き直る。

 
 「あぁ、緑鬼丸のことかい? さっき君がやってるチャットに出てたチームのことだろう?」
 『そうだ。あ、もしかして新羅知ってるのか? そいつらのこと』
 「う、うーん…………知ってるといえば知らないし、知らないのかといえば知らない……記憶にないことを知らないと呼ぶのならば、今の私の状況はどうなのだろうかっていふぇふぇふぇふぇ!! セ、ふぇるてぃ痛い、僕のほっぺが伸びるよ」
 『知ってるのか知らないのかはっきりしろ!! ……ったく、ややこしい言い方ばかりして……』


 気まずそうに目を逸らしつつ話す新羅の頬を、セルティは背後から影を蠢かせてびよびよと引っ張った。その間新羅は、特に抵抗もするでなく嬉しいのやら痛いのやらで表情を歪めている。
 と、セルティは呆れたように新羅の頬から影を引かせた。諦めたのだろうか、首元の影もゆらゆらと所在なさげに揺らめいている。


 「あー、うん、ごめんよセルティ! 確かに君の思っている通り、父さん関連で、知ってるのは知ってるんだけど……」
 『森厳が?』

 
 今度はあたふたと慌て始めた新羅は、まるで悪事がバレた子供のような複雑そうな表情で、未だ赤くなっている頬をぽりぽりと掻いた。そんな新羅が呟いた名前に、セルティは首元の影をはてなマークにして首を傾げる。


 『何でだ? あいつ、緑園と何か関係でもあったのか?』
 「いやー……実は、あの会社の社長、父さんとの利害が一致してるらしくて」
 『? というと?』
 「セルティみたいな存在というか、異質なものというか……つまり、“そういうの”を、父さんと一緒に集めてるんだよ……コレクションみたいにね」
 『!!』


 また新たに新羅の口から紡がれた情報に、セルティの影はざわりとざわめいた。その一瞬の間に、セルティの脳内(まぁ彼女には首が無く、脳というものは存在しないのだが)には、昔、森厳にされた数々の実験や手術を想像し—————ひどい寒気と吐き気、また不快な感情を思い出すこととなった。

 
 「……ね? セルティ、あの頃のこと、思い出したくないだろうから黙っておこうと思ってたんだけど……気分、悪くなったかい?」
 『……いや、新羅。新羅のその気遣いだけで楽だよ私は。……その、有難う。嬉しかったぞ』


 先ほどまで不愉快さに肩を落としていたセルティは、体をもじもじとさせながら、そうキーボードで打ち込んで見せる。打ち込まれた文章を最後まで読み、また読み、更に読み————と、新羅はその文章を最低10回は読み直すと、喜色満面の笑みを浮かべた。


 「セ、セルティが有難うって言ってくれた……!! 俺に……!! セルティが頬を赤らめて恥ずかしげに……!! ああ、今の私は狂喜乱舞、いや、歓天喜地か……!? セルティ、僕は君を本当に愛してモガふぁっ」
 『いちいち愛だの変な四字熟語だのを叫ぶな! そして1人称は私か僕か俺、いい加減に統一しろ! 後私に顔は無いんだから頬を赤らめてるなんて言うな!』
 「愛してるよセルティ! この世の誰よりも! さぁこの勢いで寝室まで行こうじゃないかふごごごばっ!?」
 『いい加減にしろ! 嗚呼恥ずかしい!』
 「セ、セルティ……影でヘッドロックと両手打ちひしぎをやるセルティの器用さと機敏さは天下一品だねと思いつつ痛たたたたたた!!」
 『うるさいうるさい! ちょっと黙れええええ!!』



 その後、新羅が完全に意識をなくすまで、セルティは影を動かして、ヘッドロックと両手打ちひしぎをすることとなった。