二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 バッドエンドの塗り替え方+そのいち ( No.173 )
日時: 2011/04/10 20:54
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: QiznQFqE)
参照: 短編の予定だったんだけど中編化しますお!




 今の状況を例えるならば。それは、夜更かしをした翌日のベッドの中のような、はっきりとしない浮遊感。得体の知れない感覚は、言う事を聞かない身体に執拗に纏わりついた。気分が悪い。いっそ、自分の中に溜め込んだ戯言を吐き出してしまえたらどんなに楽なのだろうか。現実逃避ができないように。つきつけられた事実を受け入れられるように。
 全て全て、追い払えてしまったら。その代償は大きくとも、今以上傷つくことは無いのだろう。
 ああ、こんなことを思いつくほど、俺は弱い人間だったか。あいつ等と出会って成長してきたはずなのに。あれほどの時間は、意味が無かったのか? ……いや、それは違う。少なくとも、自分の道を見失っていたあの頃よりは、大きくなれたに違いない。
 それでも所詮、人は弱い。
 これほど大切な記憶を捨ててまでも、今の状況から脱したいと思う自分がいる。やり場の無い情けなさは、残念な事に、自虐的な笑みよりも小さく、脆いものだった。悔しいときに流れる水滴が零れ落ちるよりも先に、強張った顔がぎこちない笑いを浮かべた。時に瞳とは、真の感情と反映せずに笑みを映し出すことがある。



 ———もういっそ、消えてしまいたい。

 悲劇の主人公ぶるわけではないが、こんな自分を受け入れたくはなかった。我が道を突き進む、そんな人物になりたかった。もう戻れないなんてわかっていても、俺は、俺を許すことができない。自分の意思を貫き通すことが容易ではないことは知っている。それでも尚、あんな方法を選択してしまった自分が、不甲斐なくて仕方が無い。

 ———ああ、でも。その前に、一つだけ。


 こうなってしまう前に、あどけないアイツの声が聞きたかった。ふざけ気味に、悪戯っぽい瞳で俺を覗き込む、アイツの声を。最初こそ最悪な出会いだったが、今ではもうお前の存在は、代わりがたてられないほど大きく膨らんでいたんだよ。いつだっただろうか。嬉々とした笑顔が、歪んだ俺に最後に向けられた日は。もう、思い出せなくて。
 傍で見ていたあの声も、笑みも、涙も。今ではもう、遠すぎて。手を伸ばしても届かないことはわかっていた。けれど、それでも。汚れてしまった手を伸ばさずには、いられなかった。



   ( 遠い遠いこの場所で、 )