二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 【粉雪はらり。】-01*巻雲もくり  ( No.175 )
日時: 2011/04/12 20:27
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: byaeXgri)




 白恋中サッカー部の要である二人が、長い旅路から凱旋したのは、つい先日の話だ。

 サッカーで、人の大切なものを奪ってきたエイリア学園を、雷門イレブンはついに倒した。遠い場所で行われる試合風景はいつも、古びたブラウン管を通して放送されていて。そこに映っているのは、ついこの間まで隣に居た、大切な人達。二人とも、厳しい現実に直面しながらもキャラバンに同乗していたらしい。詳しくは話してくれなかったけど、確かに二人の笑顔からは、薄暗い影が取り除かれていた。吹雪くんに至っては、首元が随分と涼しげになっていて。なんだ見慣れないものだから、再会した時は、その変化を指摘するのに躊躇してしまった。

「珠香ちゃん、ここにいたの?」

 校舎の下駄箱にいたあたしは、聞きなれた声に名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げた。そこにいたのは、大切なお友達で。きゅっと結ばれた唇から、心配そうな様子が見て取れた。
 春崎桃花ちゃん。白恋中サッカー部のマネージャーで、実は帰国子女だったりする、女の子らしい女の子。ちょっと抜けてて、たまに面白い伝説を残してくれる。そんな一風変わったところも含めて、あたしは桃花ちゃんが大好きだ。多分相手も、同じ気持ちでいてくれているはず。そんなこんなであたしたちは、共に過ごした時間は短いものの、良き大親友なのだ。勿論、紺子もそうだけどね。

「部活、始まってるのに来ないから……皆、心配してるよ? 具合悪いの? 保健室、行く?」
「大丈夫だよ! ちょっと、ぼーっとしちゃってただけだから!」

 作った笑みを貼り付けると、わざと元気そうに振舞った。そう? と今も尚、あたしを心配してくれる桃花ちゃん。ゴメン、本当にゴメンね。何故かわからず、あたしは桃花ちゃんに謝りそうになる。が、実際に言ってしまうともっと心配されちゃうから、飲み込んでしまった。理由もわからない罪悪感。それは、桃花ちゃんの瞳を見つめる度に沸き起こる感情だ。どうしてなんだろう。あたし、何かしちゃったっけ?

「……そう、なの?」
「うん! 全然、大丈夫! ね、先に行っちゃうよー」

 桃花ちゃんの横をすり抜けて、あたしは思い切り駆け出した。
 どうしてなのかわからなかったけど、何故かあたしは、今の表情を見られたくないと、本能的に感じたのである。

( 別におかしなことじゃないよね……? )

 心のなかで、こっそりと自問する。答えは返ってこなかったけど、その後あたしのなかで、微笑む桃花ちゃんの姿が、浮かんでは消えた。