二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 見えない症候群-偽愛少女編- ( No.182 )
- 日時: 2011/04/27 15:54
- 名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: ofW4Vptq)
「アンタばっかり、ずるいんだ」
今にも泣きそうな瞳に溢れんばかりの憎悪を映して、目一杯、自分の怒りを私に伝えようとする彼女は、見当違いの恨みをその華奢な身体に抱え込んでいた。サッカーをやっていて私よりも鍛えているはずなのに。ちっとも寒くないこの場所で、小刻みに震えている貴女は私よりも小さく、そして儚く見えた。嗚呼、彼女、消えてしまうんじゃないか。そう、本気で悩んでしまうほどに。
「それは、多分……貴女の勘違いよ」
貴女の幸せは、貴女だけの幸せは、すぐ傍にあるじゃない。そう、何度語りかけたことか。けれど彼女は、幽霊にでもに憑かれたんじゃないかってくらい虚ろな瞳で精一杯私を睨みつけ、私が発する言葉全てを拒絶してきた。そちらが責めてくる癖に、私の言い分はこれっぽっちも聴いてくれないんだもの。
ねえ、塔子さん。私は貴女に、何をしたの? 貴女の幸せを知らず知らず妨害していたのなら謝るわ。でも、私。自分の幸せを守り抜いた、ただそれだけのことしかしていないのよ。何が悪かったのかしら……?
それに、貴女には、
「……アンタが独りの時は、必ずアイツが隣にいたのに」
———あたしのことを気に掛けてくれる人は、誰一人いなかった。
吐き捨てるように、貴女は叫んで。貴女には、見えないのかしら? 貴女を心掛けてくれる、仲間の存在に。円堂くんだって、綱海くんだって、立向居くんだって、女だからと貴女を仲間外れにするようなこともなく、同じフィールドに立って、同じだけ苦しんで、同じだけ"勝利"の喜びを分かち合ったのでしょう? なのにどうして、独りだって言うの?
塔子さんの幸せは、何の事を言っているの? 私が独りになれば、誰からも見放されれば、それでいいの? 他人の不幸を喜ぶような、その程度の人間だったの? 違うわよね、塔子さん。
貴女は、同じ女とは思えないほどたくましくて、かっこよくて。ベンチで見守ることしかできない私とは違って、彼と同じユニホームを着て、雷門のサッカーを共にしていたじゃない。羨ましいのは、私のほうよ。彼は私を、雷門イレブンの一員だと言いきってくれた。でもそんなの、建前だけで。貴女は誰が見ても、真の雷門イレブンだったでしょう? 地上最強のチームの一員だったじゃない。DFの務めを立派に果たしていたじゃない。私に無いもの全て、持っているじゃない……!
「ねえ、塔子さん。貴女は一体、何を望んでいるの……?」
私が何をすれば、貴女は偽の優越感で満たされるの?
「……何をしても、無駄なんだよ。アンタが何をしようと、アイツの想いは変わらないんだから……!」
ほろほろ、ぽたり。
気付けばその瞳から、透明な雫が零れ落ちていた。
「死にそうなくらい、寒いよ」
何処かの彼と、似たような台詞を残して。
———見えない症候群———
( 時に恋する乙女は、自分の幸しか見えなくなるの )