二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 欲望Vortex【イナイレ、ボカロ短編集】 ( No.21 )
日時: 2011/07/28 21:14
名前: 藍蝶 (ID: UgVNLVY0)
参照: 《短編》暇なのでふ。(少年が少女になってるよ)

「家出少年と迷子少女」前篇


カンカンカンカン……———————————

忘れたい、事があるんだ。
ここで今見た事、表情を失った君、残った物、もう全て。
気がつけば君はここにはいなかったんだ。
消し去ってしまいたいものがあるんだ。
夕闇の中、わずかに残る光が照らす、
私を。




「……?」
気がつけば、自分のベッドで朝を迎えていた。不思議な事に昨日の事を全く覚えていない。
某ゲーム機の電源入れて何日か確認してみると《11/09 4:59》と表示されていた。あれ……?昨日は、11月の5日じゃなかった?だから時間をいじって、
《11/06》に直しておいた。誰だろ、私のゲームいじったのは。
ていうか早く起きすぎた。いつもは7時半に起きるのに。

まぁ、たまには早く起きるのもいいよね。
トントンと明るい茶色の階段を下りるとリビングに椅子に座ってジッとしてるお母さんを発見した。
「お母さん、おはよう……?」
いつもなら元気にキッチンに向かって料理をしている筈なので、この様子に戸惑う。思わず疑問形になってしまった。
私がそう言うと、お母さんはハッとして振り向いた。顔一面驚きで溢れている。そんなに早く起きすぎたかな。
「恵未(めぐみ)……!?貴方、やっと起きたの……!?心配、したのよ?」
驚いた。”やっと”起きただと?いつもより2時間くらい早く起きたんだぞ?
お母さんはゆっくり私に近寄り、抱きしめた。
「良かった……良かった……弥紅(みく)ちゃんの事で、もうあのまま病院行きになるかと……」
何か、物騒な事を言い始めたね。肩が微妙に暖かい。涙まで流し始めたらしい。
「……?よく分からないんだけど……弥紅がどうしたの?」
すると、お母さんがえ?という顔で言った。
「もしかして、覚えてないの……?」
よく分からない。知らない。覚えてない。なにも……
頭の中にしまい込んでる記憶を漁る。何処にも弥紅が特別変な事をしたっていう記憶なんて無かった。
大体、言っちゃ悪いけど弥紅は元から少し変わり者なんだ。

その後、弥紅の家を訪ねてみた。インターホンを押しても誰も出なかった。
庭に入ってみると、しゃがみ込んだままジッとしてる弥紅の優しいお母さんがいた。
——————話しかける気には、どうしてもなれなかった。

学校へ行くと
「お前何も覚えてねーのかよ!」
「ありえねー」
「親友親友言ってたくせに」
「ま、弥紅も弥紅か。ま〜た何かやらかそうとしたからああなったんだぜ」
私を責め立てる言葉がいつの間にか、「弥紅が悪い」という風に変わっていった。
いつもそうだった。弥紅はよく陰口(と言っても本人の前で堂々と言ってたけど)を言われていた。
でも、明るい子なんだ。優しい子なんだ。何一つ言い返さず、無視無視。おかげでいつもこいつ等は私にとっても空気だった。
でも違う。今、よく分かんないけど弥紅がいない。だから、悪口がぽんぽんと耳の中に入ってくる。
補聴器、一にすればよかったよ。
耐えきれなくてそのまま教室飛び出した。

嫌いになっちゃうよ?急にいなくなっちゃって。
勝手にいなくなるとか、私が許さないから。

君を探して歩く高架橋の下。学校からはかなり離れているので、走ってきた私は座り込んでしまいたい程の疲労に追いかけられていた。
視界に入る落書き秩序は最悪。
君を見つけたらね?頬を叩いて「心配したんだからね、バカ!」とか言ってツン全開にしてやる。
でも、涙ぐんじゃう可能性大。世間はこれをツンデレと表す。

ペタペタ歩く。全く知らない町を。君を探して。
迷子の子供みたいに泣きそうな顔でいるのは自分でも知ってる。あぁカッコ悪い。これでも私は高一だよ。
でもね、弥紅の事を頭の中で浮かべると、目に感情の想い全てが溜まって、それを止めていた糸はぷつん、と途切れちゃった。
ぽろぽろと流れる涙。駆け寄ってくる小さなカップル。
「お姉ちゃん、大丈夫?どうしたの?どこか痛いの?」
小さな金髪の女の子が話しかけてくれた。横のよく似た男の子も心配そうな顔をしている。
それなのに私は逃げ出した。制服のセーターで涙を拭い、ヘトヘトの足で精一杯走った。
ごめんね、小さなカップル。あ、今思えば凄くよく似ていたから双子とか?
でもね、今私が求めているのは小さな双子ちゃんの優しい声じゃないんだ。
いつも笑って可笑しな事をやらかすたった一人の友人なんだ。
……弥紅。早く、アイタイヨ……