二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 欲望Vortex【イナイレ、ボカロ短編集】 ( No.22 )
日時: 2011/07/30 11:20
名前: 藍蝶 (ID: UgVNLVY0)
参照: 会話文があんまりありません←

「家出少年と迷子少女」後編


一日の終わりが近づいてきた。町の大きな時計台の針は午後9時を指している。
朝からずっと歩いてりゃ、体力は限界。近くの公園のブランコに座って少し揺らす。
キィ、キィ、という唸ってる様な音が静かな公園に響く。
雲が晴れて月が出てきた。影が伸びる。私のだけ。孤独なのをとても感じる。
君がいない日なんて考えられない。
小さな頃にいじめられてた私をかばってくれて、一日一回必ず遊んで、それが9年は続いて……。
だからその記録が途絶えてしまうとか嫌だ。この日を忘れたい。ていうか朝の事はもう忘れました。
私の記憶をずっと探っていたら「家出」という単語が出てきたんだ。
だから家出した弥紅探してここまで来たけど……記憶は、捏造?
私が勝手に創り出した記憶の幻影?君は確かに家出したんだよね?
きっとそうだと思う。例えそれが真実じゃなくてもいいけど……
本当の真実を、思い出してはいけない気がしたんだ。


その時、一日の終わりではなく”私の”終わりを示す砂時計が、ゆっくりと反対に向けられたんだ。
街は過保護なくらいに私の願いに忠実だった。思いだしてはいけない気がしたけど、心の奥底では
何があったのか知りたい、という欲望じみたものが渦巻いてて。
その街が叶えてくれたものが、本当の幸せをもたらしたかは分からないけど。


ばらばらと剥がれ落ちた記憶を拾い集める為に、限界の足を頑張って動かす。そしたら色んなものが見えてきた。
ホントは三日程寝ていた事。
君とは11月5日、ここを一緒に歩いて雑貨屋巡りしていた事。
私に声をかけてくれた双子ちゃんは、以前会った事があるという事。
とある教会でずっと一緒にいようねって、誓った事。

私は催眠治療を施された事。
きっと全部思いだすまで時間がかかる。
でも一度背を向けた真実を知ろうと思う。捏造された記憶なんて要らない。
立ち並ぶビルの隙間通って行き止まりを繋ぎとめる。
君探しの散歩。終点はもうすぐそこ。
分かっていた。ただ、拒絶していた。君の真実を知る事を。
催眠治療を施されたって、覚えていた。本当はもう、弥紅は……

目の前にある踏切。そこで記憶の全てを思い出す。
私は生まれ付き耳が聞こえなくて、あの時補聴器を1にしてて……


「弥紅、次どこの雑貨屋行く?」
「ん〜、あ、踏切の向こうにね、新しいのが出来たんだって。そこ行こうよ」
「行く行く!」
その時、偶然鞄に付けていたキーホルダーが外れて踏切のど真ん中まで転がっていってしまった。
そのキーホルダーは小3の時お揃いで弥紅と一緒に買った物。宝物だった。
「あっ……待てっ!!」
慌てて踏切に飛び出してキーホルダーをすくい取る。傷が無い事を確認して戻ろうとしたけど、
「めぐっ!!!危n」
カンカンカンカンカン……
電車の音と一緒に、反対側に思いっきり押し飛ばされた。
何かが頭にぶつかって、後ろを振り向いてみると電車が通る時に道を封鎖するポールみたいな棒。
目を見開いて前を向くと、粉々に砕かれた誰かが。
見知った制服。見知った鞄。見知ったキーホルダー。見知った緑のツインテール……————————
「弥、紅……?弥紅、弥紅?み……弥紅ーーーーーー!!!」


聞こえなかった電車の音。気付かなかった。私が入った直後にあれが降りてきてたなんて。
その日から消えてく意識の中、もういないキミを探し迷子になった。
「キミの元へ行きたい……」
かたかた震えながらそう呟いた。おかしいな、今日はどちらかと言うと暑い日だよ。
そのまま、弥紅を最後に見たあの場所にもう一度立った。
もう、二度と戻る事はないだろう。優しいお母さんや意地悪なクラスメイトとも。
でもそれで良いと決めた。人生の決断は自分でしなくちゃ。
まぁ、ふらふらと弥紅を探した挙句迷子になったとかかっこ悪くて。
赤色に光る二つの点滅に照らされた私は、泣いていた。
でもこの涙は安堵の涙。きっと、弥紅に会える筈だし。
「君のいない世界の方が



                          間違いだから」



やっとここに帰ってこれた。
君もきっと見つかるし、ハッピーエンd......


カンカンカンカンカン……———————