二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 欲望Vortex【イナイレ、ボカロ短編集】 ( No.33 )
- 日時: 2011/08/02 20:24
- 名前: 藍蝶 (ID: UgVNLVY0)
- 参照: 蟻様リク.「No Logic」後編
今日はテストの後の授業、サボる事にした。
いつも通りに暖かい睡魔が襲うから、屋上で寝ます。
カッカッカッと靴音を鳴らしてめんどくさい階段登りを開始する。
「あれ?」
屋上までもう少し、という所に誰かの車椅子が置いてあった。
緑色の車椅子……名城?そういえば名城って昼休みずっとここの窓の外見てたってけ。
でも、肝心の座ってるのがいない。周りを見渡しても、いない……?
もしかして、と思い屋上までの階段を急いで駆け上がる。
ドアの前で立ち止まり、開けようと思った。
でも、そのドアの先から綺麗な……美しい歌声が聴こえてきた。
「神様、この歌が聞こえるかい あなたが望んでいなくても
僕は笑っていたいんです 泣きたい時は泣きたいんです 」
懐かしい。何故だろう。この歌を私は聞いた事があるような気がする。
「いつだって自然体でいたいんです
誰もが二度と戻れぬ今を きっといつか後悔するから 」
懐かしいその歌を歌うのは、自分の足で立っていた名城だった。
彼女の横顔はとても誇らしげで。
いつの間にか私はその歌を小さく、口ずさんでいたようだった。
「今はまだこんな気持ちで気ままに歩いていたって、良いよね」
「今はまだこんな気持ちで気ままに歩いていたって、良いよね」
気付いたのか、名城が振り向いた。
バレたと思って急いで重いドアを閉めた。
何でだろう。何で名城は立っていたんだろう。
いつも車椅子で、移動も困難で、ずっと苦悩していた筈。歩けるんなら、歩けばいいのに。
人は完璧な生き方なんてしない。出来ない。
完璧な生き方を求めようともしない。
それはきっと、誰かに頼って休止時間を得たいからだと思うんだ……。
屋上が無理となると行ける場所がない。仕方なく戻ると数学教師の説教が待っていた。
名城はどうした、と言われたが知らない、と答えた。私が立っている名城を見た事はしばらくの秘密だ。
大体それで良いんじゃないの。私の口癖だ。
でも、言った事も考えた事もない言葉が、ふと口をついた。
「無理、しなくて良いんじゃないの」
体育の見学に行こうとしてた私は一生懸命に車椅子を動かす名城の前に立って、言った。
「無理なんてしてないですよ」
ほらまたこの笑顔。いい加減分かってきた。彼女の微笑みは全部”嘘”だ。作り笑いだ。
本当はちっとも楽しくないくせに。体力が無くなるだけでしょう。
「そういえば、答え出た?」
「何の」
「何をしたいの、って奴」
「あ……」
頭がゴチャゴチャにかき混ざって、見失っていた言葉だ。
名城はまた薄く作り笑いを浮かべ、
「また聞きに来るよ。きっと、考えなくても答えは手の届く所にある。今の聖原さんなら」
「100点満点は出せない」
「気にしないの。95でも、90でも、たとえ40とかでも……正解は、ある筈。さ、行こ」
キィッと車輪を回し始めた名城。しばらく見ていただけだったが、次の体育教師が凄く短期である事を思い出し、慌てて後を追いかけた。
完璧な生き方が出来ない。当然の事だと思う。”したくない”んだから。
それでも人は”やろう”と必死にもがいているんだね。
私は走りだした。逆方向に。
「えっ、ちょっと!聖原さん!?」
<バンッ!!>
勢いよく、屋上の扉を開けた。
吹きわたる風が心地よい。
端まで歩いて、景色を見渡した。何の偽りもない空は、優しげに微笑んでいた。
今なら出来る。続きが歌える。そんな気がして、息を精一杯吸った。
あの歌の続きを、私はきっと知っている。
「神様、この歌が聞こえるかい あなたが望んでいなくても
僕は笑っていたいんです そして今叫びたいんです
いつだって最後は No Logic
僕らのこの一度きりの夢 どうせいつか終わりが来るなら
生きることをやめたい時だけ立ち止まって考えるくらいで、良いよね 」
歌いきった。そうだ、この歌は、今は亡き母親がよく歌っていた歌なんだ。
後ろからパチパチと拍手の音が近づいてきた。
振り向くとコチラに向かって歩いてくる名城の姿が。
「名城、歩けるようになってたんだね」
「勿論。……最初から歩けるわ。今の歌とても綺麗だった。私が答えを急かすまでもなかったね」
ニコッと笑う名城。大丈夫、きっと本当の笑顔だ。
すると、名城の体が黄金の光に包まれ、消え始めた。
「名城……!?どうしたの、それ!何これ……!?」
私は何をすればいいか分からなくて、ずっと慌てていた。
その間にも名城の体は消え続ける。
慌てる私の手を、名城はそっと優しく包みこんだ。
「大丈夫。大丈夫よ。聖原さん。貴方はきっと、本当に生きられる。悲しむ事も慌てる事もないわ」
「でも……」
それでも心を決められない私に、名城は小さい子供に言い聞かせるような口調で私に言った。
「いい?聖原さん。人それぞれ決断までの時間は違う。でも、聖原さんみたいにいつまでも決められないなんて、駄目なの」
「……」
「私は貴方にヒントを与えた。それだけだったの、私の存在理由は。だからもう十分」
黙って頷いた。涙が滲む。可笑しいな、涙なんてもうとっくに枯れたんだって、思ってた。
ついに名城の体が首元まで消えた。
支えを失った私の手は力なくボトン、と落ちる。
「さよなら。——————————————————————瑠香」
フッと、名城の体全てが消えた。もう、名城はこの世に存在しない……。
あぁ、そうか。名城はきっと、私の……————————————
あれから私はかたくなに拒んでいた友達を作り始めた。
慣れない友達。裏切られたりするかもしれないけど、いくつか気分はラクになった。
「瑠香(るか)ー、次移動教室だよ。一緒に行こっ!」
「えぇ、行くわ」
"やりたいことだけ選んで、要らないもの切り捨てて"
誰もが皆そんな風に歩けるわけ……無いんだよね 。
私、頑張るから。精一杯生きるから。
どこかで見守っていてください。
————n。