二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.162 )
日時: 2012/05/17 23:00
名前: 雲雀 (ID: Rk/dP/2H)

【瞬間/Short Story】



<携帯電話>



 着信を告げるメロディーが携帯から流れ、画面を確認する。
表示されている名前に、一瞬、携帯を取り落としそうになった。
忘れるはずもない、あなたの名前。
時間は既に午前0時をまわっている。
時計の針の音が、やけに大きく聞こえた。
「どうして」そんな疑念が、胸の中に生まれる。
でも、「声が聞きたい」という思いが、その疑念を打ち消してしまった。
震える指で、通話ボタンを押す。
繋がる瞬間。
思い出にすりかわった淡い記憶と、胸に閉じ込めたはずの想いが疼き出した。



『————久しぶり』



 久しぶりに聞いたその声は、記憶の中に残る彼の声より少し低かった。
笑みと共に、涙がこぼれる。
その涙も一瞬のうちに歓喜にのまれ、携帯を握る指にもうひとつの手を重ねた。
喉は自由とは言い難かったが、小さく酸素をおくって、言葉を紡ぐ。



「久しぶり」



そう告げると、携帯ごしに彼の小さく笑う声が聞こえた。
なんて幸せな、時間。



 用件は小学六年生の頃のクラスでやる、同窓会についてのことだった。
近々それが行われるらしいから、クラス全体に連絡をまわしているらしい。
彼が一番仲良くしていた友人が電話に出ないらしく、それについても愚痴をこぼしていた。



 そして全ての用件を伝え終わった後。
彼が、「じゃあ、そろそろ」と言う。
幸せな時間も、これで終わり。
胸中で渦巻く寂しさを押し込めながら、軽く笑う。
携帯を握る指が震えた。



「うん。またね」



 そして、彼が通話をきるのを待つ。
でも、通話がきれる様子はいっこうにない。
僅かにおとずれる沈黙。
居心地が悪いような、こそばゆいような。
でも心地いい、静寂。



『え、と……』



再び繋がる、声。
涙が、あふれた。



【END】



<改札口>



 あと二十分遅くても、学校には間に合う。
でも、私はいつもこの時間に駅につくようにしている。
リュックからカードケースを取り出して、足早に改札口を通る。
その横を、彼が通り越していく。
今日もまた、あなたの後姿が見えた。
それだけで、今日はもう幸せ。


 
 電車に乗り込み、彼の姿を探す。
顔を右に逸らすと、椅子に腰かけて、頬杖をつきながら本を読んでいる彼を見つけた。
これも、いつもの風景。
中学生のときから変わらない、彼の趣味。



 中学生の頃は同じ学校だったから、いつも彼を見ていれたけど。
高校でばらばらになってしまったから、もうこの時間しか彼を見ることができない。
でも、あなたが笑う未来に、きっと私はいないから。
遠くから、あなたを見つめていられるだけで幸せ。



 アナウンスが行き先を告げる。
もうすぐ降りる駅だ。
リュックを肩にかけ、入口まで歩いていく。
電車が止まり、扉が開いた。
「また明日」と心の中で呟く。
すると、肩に手をおかれた。
振り返ると、



「落としたよ」



そう言って本を差し出す、笑顔のあなた。
一瞬、呼吸をすることさえ忘れた。



【END】



<時計>



 午後十一時五十一分。
あと九分もすれば、今日が終わり、明日がくる。
時計の針を見つめて、小さく息を吐いた。
カチコチカチコチと、止まらずに進んでいく針の音が心地いい。
鼓動が早く、落ち着かない。
今度は、大きく息を吸った。



 十一時五十九分。
あと一分。
携帯を持つ手が震える。
画面に表示されているのは、あなたへのメッセージ。
針が動く。



カチ。



それと同時に、メールを送信した。
胸におこる、形容しがたい感情。



『誕生日、おめでとう』



この世に生まれてきてくれて、ありがとう。



【END】



<身長>



「背、伸びたね」



 それは、何気ない会話。
給食の時間に、たまたま近くに並んだから、話しかけた。
中学一年生の頃までは、私よりも身長が低かったのに。
たった一年、違うクラスだっただけで、いつのまにか、こんなにも身長に差ができていたなんて。
やっぱり男の子だな、と、改めて思った。
弟のように思っていただけに、その成長が嬉しくもあり、寂しくもある。



「うん。伸びたんだ」



そう、軽く微笑んだ。
その笑顔に、心の奥が暖かくなる。
同時に、いずれこの笑顔も見れなくなると、切なさを覚えた胸の傷が痛んだ。



【END】



This moment should continue forever.
(この瞬間が、永遠に続けばいいのに。)