二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 53章 ─フェイク─ ( No.100 )
日時: 2018/02/13 19:10
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)

「アキラ…?」

震える声で視線の先に居る幼馴染の名前を呼ぶ。
しかし、本人からの返事は無い。


「…っ!」

リオの全身から血の気が引く。
考えるより先に、体が動いた。


「アキラ!しっかりしてよ!!アキラッ!!!」

フェイクを押し退けアキラに駆け寄り、倒れた体を抱き起こす。
胸が上下しているので息はしているようだが、目は閉じられたままで、その表情は硬い。

動こうとするシンボラーを制止し、フェイクはリオに近付く。
迫る足音に気付いたリオは、庇う様にアキラを抱き締める。


「来ないで!!」
「心配しなくてもその男の子なら大丈夫だよ〜、シンボラーの《催眠術》で眠ってるだけだから、
 直に目を覚ますよ」

その言葉を聞き、ギラギラとフェイクを睨みつけていた黒い瞳が僅かに和らぐ。
そこでフェイクは思っていた事を口に出す。


「…さっきから思ってたんだけどさー、君等ってどんな関係?」

リオは大きく目を見開く。
しかし問い掛けに答えず、リオはフェイクから目を逸らしてアキラを見る。
未だにアキラは目覚めない。


「幼馴染ってのは分かるよー、でも…只の幼馴染にしてはお互い相手の事を大切にしすぎじゃなーい?」

言い終えると、回答を待っているのだろうか…フェイクはリオをじっと見つめる。
リオはフェイクを横目で見て、直ぐにまたアキラに視線を戻す。


(これは答える気がないって事なのかなー)


そうフェイクが思い始めた時、リオがゆっくりと口を開いた。


「…アキラは、私の……」

そこで、列車が急カーブして大きな音が立つ。


「  」


肝心な部分が列車の音に掻き消され、フェイクは頭を掻く。


「ごめんねー、聞こえなかった。もう1回言って」

続きを促すが聞こえていないのか、リオはこちらを見ない。


「……仕方ないなー」

カーブした時に下がった眼鏡を持ち上げ、フェイクは1歩前に──


「念力!」

…出ようとした時。微弱な念がフェイク目掛けて放たれた。
しかしフェイクは慌てる事無く待機していたシンボラーに合図を送る。


「シンボラー、サイコキネシス」

シンボラーは《念力》の何倍も強力な念を放ち、向かって来た《念力》を打ち消す。


「…やはり穏便には行かないか」
「少年に手を出すとは、もう我慢ならん!」

リオはアキラから視線を外し、後ろを見て驚いた。


「あ、貴方達は…」

そこに立っていたのはカナワタウン行きの列車の中で出会った2人だった。
面識の無いフェイクは首を傾げる。


「だぁれ?君達」
「私はナツキ。将来エリートトレーナーになる人間だ」
「貴様の様な小娘に教える名前は無い」

律儀に答える青髪の少年──ナツキとは対照的に、山男は腕を組み傲慢な態度で言い放つ。


「カッチーン。今、すっっごく頭に来たよー」
「ふん、沸点の低い小娘だな」

フェイクと山男が火花を散らす中、ナツキがリオの肩に手を置いた。
彼の傍らには薄い水色の体毛と黒い翼、そしてピンク色のハートをした鼻を持つ小さなコウモリ型のポケモン──蝙蝠ポケモンのコロモリが飛んでいる。


「大丈夫か?…彼は一体どうしたんだ?」
「シンボラーの《催眠術》を受けたみたいで…イーブイも多分ソレで…」

リオは言葉を切る。
寝転んでいたイーブイが身じろいだからだ。


『ブヤ…?』
「イーブイ!目を覚ましたのね!」

その様子を見たフェイクは頭の後ろで手を組む。


「あーあ。興味の対象外の人間は乱入するわ、ムサいオヤジには小娘呼ばわりされるわ…
 一気につまんなくなっちゃった」

口を尖らせるフェイク。
しかし目は何故か笑っていた。


「……あ、そうそう。さっきはああ言ったんだけどさー」

目を閉じているアキラを見て、フェイクの笑みは深くなる。
そして──


「やっぱり一生目を覚まさないかも。その子」

残酷な言葉が告げられた。

そこだけ空間が切り取られた様な錯覚に陥る。
固まるリオ達に、フェイクは肩を震わせて笑う。

その笑い声に頭に血が上ったリオはフェイクを壁に押し付ける。


「なん、で…何で笑ってるの!?貴女、さっきは確かに!!」
「ほんとーに甘ちゃんだね、キミは」

笑みを崩さずフェイクは睨んでいるリオを見る。


「ボク等は敵同士だよー?敵にそんなお情けをかけると思う?」
「…っ!」
「それにボクの名前が意味する事分かる?フェイク──〈嘘〉って意味だよ。
 ボクが今まで言った事はぁ……ぜーんぶ、ウ・ソ Vv」

フェイクの言葉にリオは絶句する。


(じゃあ盗んだボールが無い、というのは嘘?真犯人が居るっていうのも、自分が囮役って事も、
アキラが、目を覚ますっていう事も、全部……)


リオは頭を抱えてその場に座り込む。


「おい!」
「あははっ!何でそんな顔してるの?今の言葉自体が嘘かもしれないよ?」

ケタケタ笑うフェイク。
その笑顔が、今のリオにはとても恐ろしい物に見えた。


(分からない。この人の言葉が嘘なのか本当なのか…)


自分には相手の心を除く事も、未来を見る事も出来ない。
何の能力も無い人間だと突き付けられて──リオは唇を噛んだ。


(そんなの…分かってる。ずっと昔にソレを思い知った)


「…キミは本当に素直だね。ムカつく程に」

フェイクは笑うのを止め、眼鏡を押さえながらリオの腕を掴む。
すると次の瞬間、リオの背中に激痛が走った。


「かはっ…!」

突き飛ばされたのだ、運転席に向かって。
固く出っ張ったスイッチやレバーが背中の肉に食い込む。
想像以上の痛さに涙が出る。


「な…女性に何て事をするんだ!!」
「しっかりしろ、小娘!」

外野の声を無視し、フェイクは苦し気に息を吐くリオの前に立つ。


「ボクの言葉1つで表情をコロコロ変えてさ。さっきも言ったけどボクは敵だよ?
 何でボクの言葉を信じるのさ」
「……」

無言のリオにフェイクは溜め息を吐くが、再び笑顔になる。


「もう少し人を疑う事を覚えた方が良いと思うよー?…その方が裏切られた時に傷付かなくてすむからさ」

リオはフェイクの言い方に、違和感を感じた。


(今の言い方だと、まるで……)


しかしリオは自分の傍にある物を見て考えるのを止める。


「さーてと。そろそろこの列車の旅にも飽きたしボクは帰るよ」

くるり、とリオに背を向けて歩き出すフェイク。


「…逃がさないっ、貴女だけは!!」

リオはそう叫ぶとレバーを思い切り押した。
途端、急ブレーキが列車に掛かった。


「うわっ!!」

突然のブレーキにリオを除く全員が驚くが、直ぐに各自近くにある物に掴まりブレーキに耐える。
唯一、何にも掴まってなかったフェイクは後ろに倒れた。
僅かに出来た隙をリオは見逃さなかった。

リュックから縄を取り出すと、フェイクの上に乗り手首と体を縄で縛る。
そのあまりの早業に感嘆の声をあげるフェイクに、リオは静かに口を開く。


「フェイクさん。貴女には本当の事を話してもらうわ。勿論、アキラを起こす方法もね」


力強い瞳に、フェイクは縛られたままの手で〈降参〉を表した。