二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 55章 真実は、すぐ近くに ( No.102 )
日時: 2018/02/13 20:39
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


時を遡る事、20分前…


「2人共、犯人の仲間と接触。現在アキラが相手と戦闘中です」

アヤネは話していた相手──リオとの通信を切り、視線を後ろに立つ2人に向ける。


「列車を勝手に動かす。みんなのポケモンを盗む。ぼく、犯人許せない」

区切ってそう話すのは、白を基調とした服装をした無表情な男性。
しかし表情は変わらないものの、声が不機嫌なので怒っている事は明白だ。


「同感です。私達の目を盗み、この様な犯罪を起こす等……言語道断です」

眉間に皺を寄せて頷いたのは、白の彼と同じ顔の…しかし彼よりは表情豊かな黒を基調とした服装の男性。


彼等こそライモンシティの地下鉄の車掌であり、名物施設…
【バトルサブウェイ】のサブウェイマスターを務める双子、ノボリとクダリである。

地下鉄大好きで、普段は籠っている(戦っている)2人だが、今回この様な事件が起こったため
地上に出て来た。


「しかし…話を聞いた限り、想像以上に厄介な方の様ですね。飄々としていて掴み所が無い」

ノボリは小さく唸り、クダリは静かに首を振る。


「…助けに行きたい。だけど、子供達が乗ってる列車には、駅員も車掌も居ない」

列車に車掌が残っていればルートを変更して、ライモンシティに戻って来る様に指示を出す事が出来る。
しかし列車の中に居るのは犯人の仲間と思われる人物と、小さな子供2人。
そのうちの1人はバトルを行っているため、動けるのは実質1人だけになるが…


(列車の知識を持たない方に運転させるのは危険です。
…そもそも、1番危険地帯に居る方をこれ以上危険に晒す訳にはいきません。ならば──)


「行きましょうクダリ。お客様の安全確保と事件解決、並びに他のお客様の危険回避のため
 本日の列車の運行をストップする様に、全ての駅員と車掌に連絡するのです!」
「うんっ」

隣に並んだ弟を確認し、ノボリは歩き出す。


(…それにしても)


ノボリは耳に聞こえた、アヤネとリオの会話を思い出す。



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「列車に居たのは犯人じゃなかった…?」

〔はい。…でも、何かの情報を持ってる事は間違いないと思います。
 どうにかして、この人を逃がさない方法を、……あ!〕

「リオちゃん?」

〔アヤネさん。知り合いに列車に詳しい人は居ますか?〕

「え、ええ。今、私と一緒に居ます」

〔良かった!あの、ブレーキの動かし方を教えて下さい。相手が逃げようとしたら、
 急ブレーキで動きを止めて捕まえますから〕

「なっ…!そんな危険な事しないで、救助が来るまでじっとしてなさい!」

〔ごめんなさい。でも…アキラが頑張ってるのに、私だけが何もしないでじっとしてるなんて出来ません〕

「リオちゃん……」


〔…大丈夫です。無茶はしません。救助が来るまで、私が何とかして時間を稼ぎます〕



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(10歳にして、あの覚悟と意志の強さ……不謹慎ですが、いつか彼女とお手合わせ願いたいものです)

ノボリは緩みそうになった口許を引き締め、クダリと共に地下へと続く階段を下りて行った。



一方、ノボリとクダリを見送ったアヤネは遊園地に向かい、ベンチに座る人々に飲み物を手渡してた。


「おれのポケモン無事かな……」
「大丈夫!必ず戻って来ます。だから元気を出して、アレックスさん」
「そう、だよな…ありがとう」

体格の良い男性においしい水を手渡し、また別のベンチに座る女性に歩む。


「レディであるアタクシのポケモンを盗むなんて…ぐすん、許せないですわ!」
「エレナさん…」

涙ぐむ金髪の女性は声を掛けても心此処にあらず、という感じで、
アヤネはそっと彼女の隣にサイコソーダを置いた。


「……?」

一通り飲み物を配り終えた、と思った時、少し離れた所でピカチュウバルーンを見上げている
1人の青年が居た。


「大丈夫ですか?」

アヤネが声を掛けると青年はビクリ、と肩を動かした後、ゆっくりとアヤネを見た。


「貴方は…ライモンシティに住んでいる方ですか?」
「は、はい。この街に住み始めて…えと、もう4年になります」

そう答える青年は、観覧車とピカチュウバルーンがプリントされた服を着ている。


「その服を着てるという事は、スタッフさんなんですね」
「はい。…今回の事件は、完全に私達のミスです。彼女がスタッフでは無いと早く気付くべきでした。
 あの時、彼女を捕らえていれば皆さんを危険な目に遭わす事も無かったのに……!!」

悔し気に拳を握り俯く青年を見て、アヤネは空を見上げ──目を細めた。


「……私、サンヨウシティ付近にある保育園で働いているんです」
「?」

突拍子も無い事を突然語りだしたアヤネに、青年は首を傾げる。


「教える立場に居ると、自然と個人を見る目に長けて来るんです。…なんて偉そうな事を言っても、
 肝心の自分の子供の事は理解出来てませんでしたが」

そう言って、アヤネは青年を見た。



「嘘つきさんはいけないと思いませんか?ねぇ、






 ──泥棒さん?」



綺麗な笑顔を浮かべたまま、アヤネは青年の肩を掴んだ。