二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 58章 「おはよう」と「ありがとう」を君に ( No.116 )
日時: 2018/02/13 21:15
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


「まただ…」


(また、逃げられた)


リオはその場に立ち尽くす。
頭の中でフェイクの笑い声が木霊する。


(サパスの時といい、今回といい…気が緩むとすぐこれ。詰めが甘いから敵に逃げられる)


リオは遊園地で眠らされた事、バルーンの中に閉じ込められた事…ヒトモシ達を盗まれた事を振り返る。

振り返った事で分かったのは──全て、自分の隙の多さや判断の甘さが招いた出来事だったという事だ。


(皆をアキラの家に残していれば、私もフェイクさんと戦って──別の結末になってたかもしれない。
 ……アキラだけが、こんな目に遭う事も無かったのにっ…!)


普段は鬱陶しいくらい賑やかで、笑顔で絡んで来る幼馴染。
そんなアキラが今は驚く程に静かで──


「……っ」

命の心配は無い…それはリオにだって分かっていた。
しかし、それでも──声を聞くまでは、笑顔を見るまでは不安だった。


(…最近ネガティブ思考ね。こんなの、私らしくない!)


目を瞑り、己を叱責する様に両頬を思い切り叩く。
暗かった気持ちが少しだけ、晴れた気がした。


「よっ、と…!」

アキラの上半身を起こし、腰に腕を回して持ち上げたリオに、ナツキ達は目を丸くする。


「…席に寝かせようと思って。ずっと床で寝てたら起きた時に「体痛ぇ!」って騒ぐだろうから」

そう言ったリオの顔には、いつもの笑顔が戻っていた。
リオとアキラを交互に見て、ナツキは苦笑する。


「女性1人の力では大変だろう?私も手伝うよ」
「ありがとうございま 「……その必要は無ぇ」 え、」

掠れた声でナツキを止めたのは、目をうっすらと開けたアキラだった。
驚いたリオはアキラと一緒に床に座る。


「…アキラ?」
「おー、おそよう。誰かさんの髪の毛が擽ったくて、すっかり目ぇ覚めたわ」

背中を向けたまま意地悪く言ったアキラに、リオは安堵の表情を浮かべる──と同時に、腕の力を強めた。


「Σいでででで!?折れるっ!腰の骨折れっから!!(汗)」
「……私の力で折れるワケ無いでしょ。いくらアキラが貧弱でも」
「お前…泣いて「ない。こっち見ないで」……」

身動きが取れないアキラは、何故ここに居るのか分からないが──こちらを見ているナツキに
目で助けを求めるが(悔し気にハンカチを噛んでいる山男はスルーだ)、見事に肩を竦められてしまった。

視線を下ろし、アキラは腰に巻き付いている腕を見る。
少しだけ震えている手に自分の手を重ねると、震えが止まった。


「…想定外の事が起こると、時々お前は昔に戻るよな」

リオからの返事は無い。
アキラは構わずに続ける。


「それが悪いとは言わねぇ。けどな…俺のしぶとさはあの時から知ってるだろ?」
「…」
「俺は今、こうやってリオの傍に居る」

すっ…と、腰に回っていたリオの腕が下ろされた。
アキラは照れ臭そうに頬を掻く。


「…あー、まぁ今みたいにガッチリ腕を回されちゃ、離れるに離れられねぇけどな!」


そう言って、アキラは後ろを振り返る──



「……くぅ」
「……………は?」


振り返った先に居たのは、気持ち良さそうに寝息を立てている幼馴染だった……
固まっているアキラの横を通り、ナツキと山男はリオの顔を覗き込む。


「ふっ…張り詰めていた緊張の糸が漸く切れたらしい」
「少年が話しているのに寝るとは…失礼な小娘だな」

微笑まし気に寝顔を見つめるナツキと、呆れた目で見つめる山男。


『…ブイ』

慰めているのか、膝の上に前足を乗せたイーブイと腰から伝わる振動で我に返ったアキラは立ち上がり、
リオ達から離れる。

後ろの方で聞こえる会話を気にしつつ、腰のベルトからライブキャスターを取ってボタンを押す。


「…もしもし」

〔アキラ!盗まれたモンスターボール、全部無事に見つかったわ!〕

電波が悪いのか顔は見えないが、弾んだ声の持ち主は母であるアヤネだ。
アヤネの声の他に人々やポケモンの喜ぶ声が聞こえるので、本当なんだろう。
目尻を下げ、アキラは笑う。


「そっか。良かった」

〔今、ノボリさん達が遠隔操作で貴方達の乗っている列車をライモンシティに向かわせるみたいだから、
 そのまま乗って帰って来て下さいね〕

「ああ、分かった。…母さん。切る前に1つ頼んで良いか?」

〔勿論!どーんと来なさい!〕

アヤネの言葉に頷いて、アキラは後ろを振り返る。
視線の先には頭が揺れ始めて倒れそうになっているリオと、それをハラハラと見つめるナツキ達が居た。


「ふかふかの布団を一式、敷いといてほしいんだ」


(よく頑張ったな)


自分の知らない所で頑張っていた幼馴染に、感謝の気持ちを込めて──




前回が異様に長かったので、今回は短めにしてみました!
眠り始めて早、5話進み…お待たせしました!漸くアキラ姫のお目覚めです(笑)
そして目覚めたというのにカッコ良いんだか悪いんだか、微妙な扱いです。まぁいつもの事ですが(ぇ

今まで寝てた分、アキラを一杯喋らせていきたいと思います!
アキラファンの人も、そうでない人も次回、乞うご期待!