二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 76章 蛇のように ( No.149 )
日時: 2018/06/09 12:41
名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)

最後にボスがスクリーンを背にする形で一際大きな椅子に腰掛ける。


「さて。突然の召集にも関わらず、今日はこうして来てくれて有り難う」
「それは構わねーが…良いのか?全員揃ってねーけど」

ビッシュの言葉にボスは空いた席を見渡して苦笑する。


「此処に居ないメンバーは手足。切り落と「しちゃ駄目だよ、メール。仲間は大切にしなきゃ」……了解。」

ボールを握り締めて危ない発言をしようとしたメールを止め、ボスは続ける。


「仕方ないよ。忙しくて来れない場合もあるだろうしねぇ」
「えー!拒否権あったの!?アリスさん達だって忙しかったけど、体を引き摺って来たのにっ!」
「来たのにねっ」

「「ぶーぶー」」と声を合わせてむくれる双子にボスは両手を合わせる。


「ごめんごめん。ここはひとつ、季節限定デザートで手を打たないかい?」
「むむむっ…女の子が限定という言葉に弱いと知っての取引か!?」
「でも折角の厚意を無下にするのも悪いもんね…」

アリスとセシルは顔を見合わせ、頷いた。


「「その提案、乗った!」」
「有り難う。じゃあ約束のデザートは話が終わってからね」
「「はーい!」」
「よしよし。良い子だねぇ」

手を挙げて元気良く返事をした双子にボスは微笑む。


(簡単に丸め込まれやがって…)
(おこちゃまだなー)


ころっと機嫌が直ったアリスとセシルにビッシュとフェイクは呆れずにはいられなかった。




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「さて。今日集まってもらったのは他でもない…標的についてだよ」
「標的って事は…射的?」
「射的って事は…お祭り?」
「「今日ここに集まったのはお祭りの計画を立てるため?」」

目を輝かせる双子にビッシュは深い溜め息を吐く。


「どう考えても違うだろ。この意味の標的っつーのはアレだ、攻撃する対象者の事を指してんだろ」
「なぁんだ。アリスさん、着て行く浴衣の色と柄まで考えたのに」
「残念。セシル、お金いくら持って行くか考えてたのに」

がっくりと肩を落とす双子に笑ってから、ボスは目の前に置いてあったリモコンを手に取り、
スクリーンへと向ける。


ピッ


小さな機械音の後、スクリーンに映像が映し出される。
パソコンを操作する人やエスカレーターに乗って下に降りる人、椅子に座り談笑する人──多くの人物が
スクリーンで動いていた。


「ポケモンセンターのえいぞうですね。来るのはユニフォームを着た人が多いから…ライモンシティですか」
「流石シャルロット、凄い観察眼だ。正解だよ」


嬉しそうに笑って、ボスは再びリモコンのボタンを押す。
見ていた映像が消えて、代わりに1人の人物が映し出された。


そこに映っていた人物は、正直汚かった。
服のあちこちに煤や埃が付いているし、明るい髪は走ったのか乱れている。
頬からは血が出ていて痛そうなのに、その人物はボールを片手に嬉しそうに1匹のポケモンと
笑い合っていた。


「…っ、この人が、ひょうてきさん…ですか?」
「そうとも言えるし、そうとも言えないねぇ」
「もー、何その曖昧な言い方ー?ハッキリしなよボスー」
「お前が言うな」

ビッシュの突っ込みを合図に、ボスはリモコンのボタンを押して映像を消した。


「標的は今、タッグバトルを終えてポケモンを回復させようと近くの街…ライモンシティの
 ポケモンセンターで回復の順番待ちをしてる真っ最中なんだよねぇ。因みに戦った相手は
 1度家に帰ったみたいだよ」


楽しそうに喋るボスに相槌を打ちつつ、ビッシュは疑問を感じていた。


(随分と標的と、その周りの行動を細かく把握してるな…今居ない奴等に尾行でもさせてんのか?…だが、
会話をしてる気配は無い。一体どうやって、)


「…止めとくか」

知らない方が幸せな事だってあるし、これ以上深く追究するのも良くない。
そう自分に言い聞かせて、ビッシュは考えを振り払った。


「そうそう。標的とは言ったけど、命を危険に晒すのは禁止だよ?」
「「しつもーん」」

手を挙げたアリスとセシルにボスは「どうぞ?」と笑いかける。


「ちょっかい出すのは良いの?」
「バトルは挑んでも良いの?」
「それくらいなら良いよ。でも素性がバレないようにね。他に質問はあるかい?」


暫しの沈黙の後、ビッシュが口を開いた。


「……標的にする程、こいつは脅威なのか?俺様にはポケモンが好き過ぎて周りが見えなくなる、
 只のポケモン馬鹿にしか見えねーけど」

「うん、言い方を変えようか。この子は脅威になるから標的にしたんじゃなくて、全く別の理由で
 標的にしたんだよ」


ボスの意味深な言葉に各々が首を傾げたり怪訝な顔をした。




「この子は僕にとって…とても大切な  なんだよ」


ボスの呟きは小さすぎて誰にも聞こえる事は無かった。

しかし、唯一全てを知る者は静かに…どこか悲し気にボスを見つめていた。