二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 85章 世界は赤色に ( No.163 )
- 日時: 2013/12/07 17:30
- 名前: 霧火 (ID: 2fwD78Po)
抉れた地面。
無数に落ちた葉。
枯れた木と焦げた草花。
地面に僅かに残った種火。
自分達が管理していると言っても過言では無い岩場の惨状に、ムトーは震える声で静かに問いた。
「何じゃ、これは」
「何って…軽〜くバトルしただけよ〜?」
「軽くしただけでこんな有様になるか!草花を植え直せと言ったのに逆に滅茶苦茶にしてどうする!!」
「仕方ないわ〜バトルに多少の犠牲は付き物よ〜」
「どこが多少じゃ!少しは反省せんか、この馬鹿娘!!!」
「お父さんったら血圧上がるわよ〜」
「誰の所為じゃ、誰の!!」
「……」
リオはヒトモシをボールに戻し、家の中に入って扉を閉める。
2人の言い争いが長引くのは小さい頃から知っている。
このままいつ終わるか分からない言い争いを外で待つより、ヒトモシ達の回復に時間を割いた方が良い。
因みにカビゴンはリマが小さな欠片を飲ませると戦闘不能から回復し、そのまま深い眠りに入ってしまった。
2人の言い争いを子守唄に寝息を立てているカビゴンは凄いと思った。
冗談ではなく本気で。
「電源を入れて、と…」
リオは奥の台に置かれた回復装置の電源を入れる。
透明なカプセルが開き、6つある窪みにモンスターボールをセットする。
STARTと書かれたボタンを押して、カプセルが閉じた事を確認して本棚から最新号であろう雑誌を取り出す。
すぐに回復が出来るポケモンセンターの装置と違い、今使っている装置は回復に時間が掛かるため、終わるまでの時間潰しだ。
「冒険気分、道具を探して…は命取り!?洞窟の闇に潜むトレーナーの恐さを教えます!…ねぇ」
雑誌の見出しに内心大袈裟だと思いながらページを捲っていく。
そして偶然開いたページの文章に手を止めた。
リオはそこに書かれた文章を音読する。
「…何故、野生のポケモンより育てたポケモンの方が強いのか?それは、ポケモンの力を最大限に引き出せるのが
人間だけだからです。しかしポケモンが人を信じなければ、野生のポケモンと同じ力しか出せません。
人も、ポケモンの事を理解し、同様に信じないといけません。互いが信頼して、初めてポケモンは
真の力を出せるのです…」
〔ヒトモシが全力を出さない本当の理由は何なのかしら?〕
リマの言葉が頭を過る。
雑誌を置き、モンスターボールを見る。
(私は、皆の事を全部分かった気でいた。でも、そうじゃなかった。私は知らない事ばかりだわ……特に、
ヒトモシの事は)
突き付けられた事実に力無く笑う。
暇潰しで手に取った雑誌の文章を読んで、漸く母の言葉の意味を理解するなんて。
「…パートナーなのに1番知らないなんてね」
世界には僅かだが、ポケモンの言葉が分かる人が居るらしい。
リオは昔からその人達が羨ましいと思っていた…今、この時だけは特にその想いが強まっていた。
(もし私にポケモンの言葉が分かったら…ヒトモシ達の事をもっと知れたし、悩みだって聞いて、本当の意味で
支えてあげられるのに。
あんな事だって──起こらなかったのに)
腕を抱き、リオは目を閉じた。
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目の前には赤色が広がっていた。
嗚呼、これは過去だ。
ずっと昔の忘れたい──でも決して忘れられない過去。
白い部屋の中、横になっている自分に近付く1つの影。
「 」
大嫌いなソイツは部屋に入ると、開口一番に名前を読んで来る。
名前を呼ばれるのも、言葉を聞くのも嫌で、毎日首を横に振る。
ここは嫌い。早く、速く、ここから……!
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「……」
リオは重い瞼をゆっくりと持ち上げた。
(目覚め、最悪…)
覚醒しきっていない頭でリオは窓に近寄る。
窓を開けると涼し気な風が入って来た。
空はすっかりオレンジ色で、思った以上に長く眠っていたらしい。
そんな事を考えていると、隣の窓辺にヒトモシの姿を見付けた。
「ヒトモシ…もう傷は大丈夫なの?」
リオの問い掛けにヒトモシは空を見上げたまま頷く。
ヒトモシの隣に移動して、リオも同じ様に空を見上げる。
お互い会話は無く、沈黙が続く。
しかしその沈黙は心地良い物だった。
「…言葉が分かったら、なんて。ただ逃げてるだけよね」
ぽつりと呟く。
ヒトモシは夕日に向かって飛んで行くマメパトを見つめている。
(言葉が分からなくてもポケモンの事を理解する…それが私の目指すべき、真のトレーナーの姿。言葉なんて、
分かるべきじゃないんだわ)
夕日はオレンジ色から、赤色へと変わっていた──
今回はリオの意味深な言葉と、赤と白に染まった過去が出て来ました。
この2つについては、少しずつ内容を明かして行くつもりです。
設定に「たくましい」とか「周囲の人間を振り回す」と書かれている割に度々ネガティブ思考になるのは
リオはまだ10歳の女の子で、駆け出しのトレーナーだからです。怒られれば凹むし、悩みもします。
そんな彼女ですが、暖かく見守って下さると幸いです。
それでは次回もお楽しみに!
※更新ペースは、また少し遅くなります。