二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 98章 善か悪か ( No.180 )
- 日時: 2018/03/29 16:12
- 名前: 霧火 (ID: Nh/fscfw)
「レイド!無事っ!?」
「見て分からない?」
駆け足で階段を上り段差を飛び越えたリオが見たのは、あと数センチで天井に届く程巨大な氷塊と、
それを眺めるレイドだった。
汗だくの自分とは対照的に涼しい顔のレイドに言葉を失うリオだったが、氷の中に人影──数分前まで
人質だった大人達と数匹のポケモンを見付けて、慌てて駆け寄る。
「レイドがやったの?それに…この人達がこうなってるって事は、やっぱりさっきの爆発は…」
「君の想像通り、彼等が攻撃してきたんだよ。無防備な子供にね…それで、反省も降伏もしなかったから
僕が全員倒した」
「全員……」
氷漬けになっているポケモン達は体つきがガッシリしていて、良く鍛えられているのが分かる。
それこそ、リオのポケモンの何倍もの経験を積んできたのだろう。
(そんなポケモン達を1人で倒すなんて、やっぱりレイドは強いんだ…!)
自分はまだ駆け出しのトレーナーだと自覚しているリオだが、それでも思った──レイドとバトルしたい、と。
ヒウンシティで御預けを食らったのもあり、余計そう思った。
そんなリオの熱視線に気付いているのかいないのか、レイドは冷たい目でリオを見る。
「何ボーッとしてるの?まさか僕が戦ってる間、今みたいにボーッとしてたとか、流砂に足を取られて
もたついてたとか言わないよね?」
「!…落ちてすぐにジュンサーさんに連絡しました!砂嵐が酷くて15分くらい掛かるみたいだけどねっ!」
「ふぅん。一応、必要最低限の事はしたんだ」
一々嫌味な物言いをするレイドに、高揚した感情がすっかり冷めたリオは腕を組んで外方を向く。
しかし怒るより先に、レイドに言う事があった。
「…その、助けてくれてありがとう」
腕組みを解き、背筋を伸ばして深々とレイドに頭を下げる。
少し硬くなってしまったけど、感謝の気持ちだけはしっかり込めて。
そして顔を挙げたリオにレイドは目を丸くする。
「…驚いた。君みたいな人でも感謝とか出来るんだね」
「……………」
そして安定の憎まれ口を叩いたレイドに、リオは思った。
(お礼言って損した!!)
その後、いくら悪党でも氷漬けは過剰防衛だし、彼等の命が危ないと判断したリオが氷を溶かそうとしているのがバレて、ジュンサーやリマが到着するまでレイドに罵られて、精神ダメージを喰らっていたのは
誰も知らない。
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「うふふ。リオがお世話になりました」
「いえ、自分はバトルをしただけです」
「あらあら。謙遜しなくて良いのよ〜?貴方が居なければリオは今頃……貴方はリオの恩人だわ〜」
「…お褒めいただき恐縮です」
(アキラといいレイドといい、どうしてこう、お母さんには態度が180度変わるのかしら)
少し前まで人を
「救いようの無い馬鹿」「頭の中お花畑」「初対面の時から聡明さに欠けた顔だと思ってた」
「馬鹿って言葉は君の為にあるんだね」
…等と散々罵っていたのに(反論してもカウンターの如く倍返しされた)、今は深々と母にお辞儀をしている。
(ジト目になるな、睨むなって方が無理な話よ)
最後の大人が連行されたのを横目で確認して、リオは唇を尖らせる。
逮捕された大人達は全員前科がある要注意人物だったらしく、リオが危惧していた過剰防衛扱いには
ならなかったものの、ジュンサーさんに物凄く怒られてしまった。
氷漬けにした張本人だけなら兎も角、氷を溶かそうとしていた自分まで連帯責任で怒られ、リオの気分は
ずっと下降中だ。
しかし命を救われたのは事実なので、不満諸々は心の中に留めておく。
「…それにしてもよくあの人達が悪者だって分かったわね」
リマとの話を終えてこちらへ歩いて来たレイドに、リオは疑問を口にする。
「この遺跡に限った事じゃないけど観光名所って状態を維持する為に頻繁に点検して中を確認するんだ。
マナーの悪い人が捨てたゴミを回収したりね。でも古代遺跡の場合、点検や状態保持以外に定期的に調査を
する。砂が多いから掘り進めば隠し部屋が現れて、そこから大昔の宝が見付かる可能性もあるからね」
(……また回りくどい)
簡潔に「○○が理由だ」と言ってくれれば良いのに。
しかし珍しく皮肉無しにレイドが語ってくれているので、愚痴は心の中で言っておく。
「そういった調査は人が来ない深夜か数日休みにしてする物だけど、いつやるかなんて関係者か情報通にしか
分からない。それで案内の女性に今日遺跡に入れるか聞いたら、清掃業の人しか来ていないから大丈夫…
そう言われた。でもこの砂漠に居るトレーナー達は、調査員に遺跡に入る事を断られたそうなんだ。
それで、案内した女性が日にちを勘違いしたと結論付けて引き返そうとしたら、君が遺跡を出入りしている
のを目撃してね。他の人は駄目なのに君はOKな理由が気になって覗いてみたんだ。
そうしたらあの大人達が縛られていたから、彼等は調査員の名を語った偽者なんだと思った」
「私が来た時には、もう縛られていたのよね…」
「そう。だから混乱したよ。ワルモノだと思っていた人達の縄を君が解こうとしてるんだから」
「…あの2人、あの人達が悪い人だって気付いたから縛ったのかしら」
(もしそうなら、私がした事って…)
「話を続けるよ。君の言う逃げた2人の目的は知らないけど、彼等の目的は大方【古代の城】が
ドラゴンポケモンを従えて建国した城の跡地と知って、金儲けの為に宝と未発見のポケモンの骨でも
探してたんでしょ。でも探すのに野生のポケモンが邪魔で蹴散らしていたら、立ち入り禁止を無視した
2人が現れた。宝を独占したかった連中は調査員を装い、説得して追い出そうとしたけど
言う事を聞かなくて、痺れを切らして捕まえようとしたら逆に捕まった…ってのが大体の流れでしょ」
肩を竦めたレイドにリオは口を閉ざす。
仮に黒だったとしても、今にも倒れそうな人を見捨てる事は出来ない…だから助ける。
確かに自分はそう言った。
しかし、その結果は…
(私はレイドが居なかったら大怪我を負っていた。レイドは、1人で危険な大人達と戦う羽目になった…
「仮に」と言っといって、心の中では大丈夫だって思っていた……!)
リオは自分の行動が善行か悪行か、分からなくなった。