二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 99章 命長し悩めよ乙女 ( No.182 )
- 日時: 2018/05/01 21:14
- 名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)
「まさか自分のした事は間違ってたんじゃないか…なんて、馬鹿な事は考えてないよね?」
レイドのアイスブルーの目と目が合う。
深い溜め息の後の言葉だったから嘸、呆れ顔をしているだろうと言う予想は外れ、
レイドの表情は穏やかだった。
「君のした事は正しかった。赤の他人でも見捨てずに2人組と戦って人質を救出した君を批判する筈ない。
結果的に人質の殆どがワルモノだったとしてもね。情報を君と共有しなかった僕にも非があるし……と、
こんな風に言っても頑固な君は自分を責めるだろうから、別の形で伝えるよ。付いて来て」
リオが何かを言うより先にレイドはリオの腕を掴んで歩き出した。
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「ここなら広いし、騒音も無いし野次馬も居ないから丁度良い」
リマとジュンサーさんに断りを入れて2人が訪れたのは【迷いの森】──リオは知らないが、
以前ビッシュが逃げ込んだ森だ。
レイドが言う様に、木橋を渡り草むらを過ぎた先は拓けていて、白い花と大きな切り株があるだけで、
とても静かだった。
「…って。何の目的でこの森に来たのか知らないけど、奥の方にキャンピングカーがあるし、
その前に男の人が居るけど?」
リオが指差した先にはピンク色のキャンピングカーが停まっており、それを眺める青いリュックを背負った
男性が立っていた。
男性はリオ達をちらりと見た後にキャンピングカーを見遣る。
「世界には色々な価値観を持つ人が居るって事さ。自分は楽しくないって事を楽しいって思う人も居る…
世界中に色んな価値観があるから世界は豊かになるってボクは思うんだ」
一方的に話す男性。
しかし男性の話を聞いたリオは反論する。
「豊かに…?そうでしょうか。違う価値観を持つから意見が衝突して争いが起こる。
皆が同じ価値観を持っていたら争いは起こらないし、そっちの方が世界は平和で、
豊かになると思います」
「うん。それも1つの価値観だね」
「なっ…私は本気で、」
「でも、価値観が違うからこそ新しい見方が出来て見える世界が広がっていくとも思うんだ」
「…っ」
ここで自分が反論しても堂々巡りになると悟って押し黙ったリオの横を男性が通り過ぎる。
「世界中を回って色んな人と話をするのがボクは大好きだけど、この家に居る女の人は
1人で静かに暮らす事を大事に思っているんだろうね。…けど、何年かしたらまた来るかもしれない。
ボクはやっぱり、話をするのが大好きだから」
明るく笑って男性は今度こそ去って行った。
「君が初対面…しかも大人相手にムキになるなんてね」
「ごめん。今の人の方が正しいって分かってたんだけど…抑えが利かなかった」
「…思ってた以上に凹んでるね。面倒だ」
「(ムッ)あのさ…本当に何しにこの森に来たの?特に何も無いなら帰ってしたい事が山ほどあるんだけど。
修行とか」
「そう。なら好都合じゃない」
「何が?」
「ずっとお預けにしてたバトル。今、この場所でしてあげるよ」
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一方その頃──
「あー!負けたー!悔しーい!!」
「Aはいつもちゃんと調べてから移動する。だから近くに宝を埋めたのに、今日に限って調べずにリオを
追い掛けちゃうんだもん」
「もしかして負けたのはAの自業自得?」
「今回は勝てる勝負だったよ」
AとCは同じ速度で階段を下りていた。
「でも、楽しかった!」
「うん、面白かった」
笑い合いながら2人は一緒に重い扉を押し開ける。
「「ただいまー」」
「おう、おかえり…って、どうしたんだ?そんな汚して」
汚れて帰ってきた2人を見たビッシュは目を丸くする。
AとC改め、アリスとセシルはそんなビッシュに(汚れを付けてやれという嫌がらせ目的で)抱き着いた。
「広い砂漠にある、大きくて広い遺跡に行ってたの!」
「そこでトレジャーバトルしてたの」
「だからそんな砂と泥まみれなのか…手洗いうがいしたら風呂入って来い」
双子の頭の上にバスタオルを乗せたビッシュにセシルは素直に頷くが、アリスは頬をぷっくりと膨らませて
「不満です」アピールをする。
(2歳年上ってだけでアリスさん達を子供扱いするなんてヘタレのビッくんの癖に生意気!
自分の服に付いた汚れも、抱き着かれた事にも無反応だし、つまんない!!)
男心も複雑だが、乙女心も負けず劣らず複雑なのだ。
なので、アリスはセシルと真逆の反応をしてビッシュを困らせる事にした。
「えー!やだ、面倒くさい!」
「綺麗にしない奴にはおやつナシだからな」
「ちなみに、おやつは何?」
「俺様特製・ズリとブリーの実タルトとキャラメルチーズケーキ」
「アリスさん、綺麗にしてくる!」
「セシルも。だからビッちゃん…」
「「おやつ絶対にとっておいてね!」」
しかしそんな企みもスイーツという強敵には勝てなかった。アリスとセシルは綺麗に声を揃えて
ビッシュに指を突き付けた。
「あー、はいはい。分かったからさっさと行って来い」
しっしっと手を振るビッシュ。
セシルは走って脱衣所に向かったが、何故かアリスはこちらに背を向けて、その場に留まっていた。
「どうした?」
「待って。こっち来ないで、あっち向いて」
近付こうとしたらアリスに制され、疑問符を浮かべつつビッシュは素直に背を向ける。
「ビッくん…ごめん」
「汚れなら日にち経ってないし、今日中に洗濯機を回せば大丈夫だぞ」
「違う、違うの。今日さ、チルットを戦わせたんだ」
「あいつを?あいつは生まれたばかりで室内でのバトルは兎も角、まだ外でバトルさせた事はないぞ。
それに汚れるのも嫌いで…」
「仕方ないじゃん!アリスさんすっごく嬉しくて、仲間以外にも自慢したくなっちゃったんだから!!」
静かな声から一変、突然癇癪を起こして背中をポカポカと叩いてきたアリスにビッシュは目を瞬かせ、
そして吹き出した。
背中を叩いていた手がピタリ、と止まる。
「…何で笑ってるのかな」
「そりゃー俺様も嬉しいからな。そうか、嬉しかったのか」
くっくっく、と笑い声を漏らしているとアリスの手が背中から離れた。
今度はどんな癇癪を起こすのかとビッシュは体を硬くして身構えたが、アリスは何も言わない。
騒然の権化の様なアリスの普段とは違う様子に、流石にビッシュは心配になる。
(俺様が前を向いているのを良い事に悪戯なんかされたら困るからな。もう振り向いても良いだろ。
良いよな、よし)
自己完結したビッシュが振り向くとアリスは俯いていた。
小刻みに震える体にビッシュは息を呑み、屈んで目線を合わせる。
「おいっ!大丈夫か!?砂漠の暑さにやられたか!?」
慌てたビッシュがアリスの額に手を当てた──刹那。
突然白い毛並みをしたポケモンが現れ、ビッシュを跳ね飛ばした。
「いってぇ…!」
床に背中を打ち付け悶絶するビッシュをアリスが見下ろす。
「ふっふっふ。油断大敵!ビッくんがこのアリスさんを笑うなんて、10年早いよ!」
「おま、体調悪いんじゃ…」
「アリスさんは生まれた時から強い子!病気には無縁なのだ!」
「あー、そうかよちくしょー。じゃあさっさと風呂入れ」
得意気に大きく胸を張るアリスからビッシュは目を逸らした。
アリスの太股の丈まであるキャミソールが上に引っ張られて、際どい所まで見えそうだったからだ。
「その前にビッくんにしつもーん」
「何ですか」
「アリスさんとセシル、双子に見えるかな?」
急に沈んだアリスの声にビッシュは立ち上がり、アリスを見下ろす。
理由は分からないが、案の定落ち込んでいたアリスに頭を掻く。
「…仲良いし顔が似てるからお前等をモノクロシスターズって呼んでるが、双子かどうか深く考えた事は
ねーな。実際どうなんだ?」
「双子じゃないし血だって繋がってないよ。あの子はアリスさんの真似をしてるだけ。
……こんな汚い血、あの子に流れてないよ」
光の無い目で自分の心臓に手を当てたアリスの鼻をビッシュが摘む。
「ふぎっ」と変な声を出して目を瞬かせるアリスにビッシュは笑い、手を離した。
「お前が何を深刻に考えてんのか知らねーけど、血なんて大した問題じゃないだろ。
一緒に居て、楽しくて温かい気持ちになるんなら、血が繋がってなくても家族って言えんじゃねーの?
そもそも俺様含めて、ここの奴等はそんな細けー事気にしない」
ビッシュの言葉にアリスの目に光が戻る。
「そう、だよね…アリスさん達、血が繋がってなくても家族だよね?」
「おー、家族家族。因みに長男は俺様な」
「ビッくんは長男より、長男と三男の間に挟まれる苦労人の次男ポジションでしょ?」
「おいこら事実を言うな」
ジト目で突っ込んだビッシュにアリスは小さく吹き出す。
涙は、完全に引っ込んでいた。
「…あのね。アリスさん、ビッくんのそういう考え無しで単純で馬鹿正直な所、嫌いじゃないよっ!」
「おい、それって貶して…もう居ねーし」
ポケモンと一緒に猛ダッシュで脱衣所に入ったアリスにビッシュは苦笑する。
「家族と色々あったんだな……あいつも」
(あいつ等の分だけ、特別に木の実多めにしてやるか)
キッチンに向かったビッシュは袖を捲り、おやつ作りに取りかかった。
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「はぁー」
『…』
脱衣所に入ったアリスはドアを背にその場に座り込んだ。
心配した様子で顔を覗き込んだ白いポケモン──アブソルの毛並みに顔を埋める。
〔災いポケモン、アブソル。白い毛と赤い瞳…貴女とお揃いね〕
(誕生日。嬉しそうに言って、母様はアブソルをくれた。
何で母様が喜んでいるのか分からなくて、嬉しさより複雑な気持ちの方が強かった。
誕生日の次の日…綺麗な満月の夜に災いは起こった。それがアブソルが引き起こした物なのか、
お揃いだと言われたアリスさんが引き起こした物なのか──今でもよく分からない。
母様の真意だって、もう知る事は出来ない。
だから………)
〔お前白いポケモン好きだろ?俺様からの誕生日プレゼントだ〕
〔チルット?〕
〔孵化させたばっかでまだ弱っちいが、そいつ綺麗好きだから汚れて帰って来ても
すぐ綺麗にしてくれるからな。白くてふわふわしてて、お前の髪みたいだろ?お揃いだな〕
〔…白いと言うより青だけど、まぁビッくんにしては珍しく及第点かな〕
〔やっぱ返せ。俺様が育てる〕
(誕生日の時はああ言ったけど、ビッくんがくれたチルットは心から嬉しいと思えた
初めての誕生日プレゼントだったんだよ)
ーそうか、嬉しかったのか。ー
「……その通りだよ。ビッくんのばーか」
ビッシュのしたり顔を思い出して、アリスは真っ赤な顔で舌を出した。