二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 101章 見た目ほど甘くない ( No.185 )
- 日時: 2018/08/22 23:10
- 名前: 霧火 (ID: 0XgF3gtW)
「それじゃあ1対1のバトルを始めよう」
「…ええ、そうね……」
一通りリオを弄って満足したのかレイドはほくほく顔だ。
一方弄り倒されたリオはげっそりしていて疲労困憊といった様子だ。
しかし大きく深呼吸して気持ちを切り替えると、リオは鼻歌交じりに指先でボールを回しているレイドを
じっくり観察する。
(逮捕された大人達のポケモンは皆、氷漬けにされていた。
レイドが遺跡で出したのは氷タイプのポケモンか、氷技が使えるポケモンで間違いないわね)
しかしレイドが同じポケモンを出す可能性は低いので、氷に対抗出来るという理由で
ヒトモシを出すのは軽率だ。
なにより──
(木に囲まれた場所だと全力を出し辛い)
万が一1本にでも火が点けば、周りの木々にあっという間に燃え移ってしまうだろう。
そうなるとバトルどころの話ではないし、入口近くに川が流れているとはいえ消火に時間が掛かってしまう。
最悪ジュンサーさんを始めとした沢山の人に迷惑を掛け、1日で2度…それかもっと怒られる羽目になる。
(い、色んな意味でヒトモシは避けた方が良いわね。なら…)
ここは身軽さを活かした戦いが出来るチラーミィか、飛行戦を得意とするバルチャイを出すのが無難──
「決めた!貴方に任せるわ!」
考えた末にリオは腰のベルトにセットされたモンスターボールを1つ手に取り、宙に投げる。
開閉音の後に現れたポケモンにレイドは数秒固まり、そして苦笑した。
「君のポケモンを把握してるわけじゃないけど、まさか……
シビシラスを出すとは思わなかったよ」
そう、リオが出したのはチラーミィでもバルチャイでもなく、シビシラスだった。
「てっきりヒトモシで来ると思ったんだけど、シビシラス…ね」
「何を考えてるか大体想像つくけど、甘く見ちゃダメ。この子、可愛いだけじゃなくって凄いんだから」
表情を変えないシビシラスの代わりにリオが怒って文句を言うと、レイドは小さく笑った。
「…確かに猪突猛進な君のポケモンだから、普通のシビシラスより厄介そうだ」
「ちょっと聞き捨てならない単語があったんだけど」
「そこは聞き流しなよ。バトル時間が短くなっても良いの?」
ぐっと押し黙ったリオを鼻で笑い、レイドは未だに回っているボールを見遣る。
「君がシビシラスなら…うん、このままで良いか」
レイドは頷きボールを下から指で押し上げた。
ボールが開くと、氷が混じった冷たい風がリオの頬を撫でた。
『プッチ!』
現れたのは美味しそうな真っ白なソフトクリーム……否、それに似た外見のポケモン──
新雪ポケモンのバニプッチだ。
「じゃあ始めようか。バニプッチ、凍える風」
「急降下!」
浮いているシビシラス目掛けて広範囲に吐き出された冷気は、シビシラスが地面スレスレまで急降下する事で回避する。
シビシラスの方がバニプッチより素早いみたいだ。
「スパーク!」
シビシラスは電気を纏うとUの字を描く様に急上昇してバニプッチに突進、下から突き上げられた
バニプッチは数m上空へ吹っ飛ばされる。
しかし、それはシビシラスも同じだった。
攻撃を受けた時にバニプッチは小さな手でシビシラスを掴んでいたのだ。
「この距離なら外さない。凍える風」
「…電磁波!」
互いの技が命中し、冷気と電気が辺りに広がる。
リオがそっと目を開けると、身体に霜が付いたシビシラスと動きが鈍くなったバニプッチが居た。
(攻撃しないで正解だったわね…)
《凍える風》は確実に素早さを下げる技だ。
それならば密着時は攻撃のチャンスだが、こちらも相手の素早さを下げた方が効率的だと思った。
(麻痺で動きが鈍れば攻撃も防御もしやすいし)
「でも可愛いからって甘く見ちゃダメ、よね」
リオは冷気で頬に張り付いた毛先を退けて、両手で頬を叩いて気合いを入れる。
「チャージビーム!」
シビシラスの口から電気の帯が放たれた時に、バニプッチの手の中にヒメリの実くらいの小さな物から、
大きい物だと拳サイズの氷塊が幾つか生成されているのが見えた。
(先にシビシラスの攻撃が当たる。良い具合に麻痺が効いて…)
「氷の礫」
…る、とリオが思った時には既に。
バニプッチの手の中にあった全ての氷塊がシビシラスに命中していた。
「………は?」
状況が理解出来ずに呆然とするリオだったが、シビシラスが川に落ち、水柱が立った事で我に返る。
氷塊は衝撃で粉々に砕けて、一部を地面に残してあとはシビシラスと一緒に川に落ちた。
「シビシラス!大丈夫っ!?」
焦ったリオの声に川から勢い良くシビシラスが飛び出した──全身びしょ濡れだ。
地面を濡らしながらリオの顔の横に移動すると、シビシラスは全身を振るわせて水飛沫を飛ばした。
当然リオの服にも顔にも飛沫は飛ぶわけで…シビシラス程では無いにしろ、リオも多少濡れてしまった。
「慢心するな、集中しろって事よね?ごめん、シビシラス。ありがとう」
リオの言葉に、すり、と頬擦りしてシビシラスはバニプッチの居る所へ向かう。
濡れて重くなり、少し色を変えたリオのパーカーにレイドは気の毒そうに目を細める。
「……服を取りに行く時間くらいあげるけど?」
「大丈夫!」
にっと笑って、リオはパーカーを脱いで腰に結びつけた。
ぎょっとするレイドとは対照的に、リオはキャミソール姿になった事で涼しさを肌で感じて頬を緩める。
「さてと!シビシラスに喝を入れて貰ったし、絶対に負けないわよ!」
「君って……ま、良いや。バニプッチの冷気で風邪ひかないでよ?」
「ご心配なく!熱いバトルで寒さなんて吹き飛ばしちゃうんだから!」
笑い合って、2人と2匹は動いた。