二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 12章 事件発生 ( No.26 )
日時: 2020/06/24 15:43
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

デント達と雑談を交えながら御茶会を楽しみ(すっかり仲良くなった)、2人がサンヨウジムを
出る頃には、空はオレンジ色に染まっていた。
ポケモンセンターでポケモン達を回復させて広場の方へ行き、大きな噴水を見上げたり
鳥ポケモンとピカチュウの形をしたトピアリーに感嘆しながら歩いていると、
ライブキャスターが鳴り響いた。

「あ、悪ぃ。俺のだわ」

アキラはリオに軽く謝り、ショルダーバッグの外ポケットから青色のライブキャスターを取り出す。

1度アキラに「折角腕時計の形をしているのにバッグのポケットに入れてるの?電話が来た時に
すぐ出られないし、取って戻す手間があって面倒にならない?」と、素朴な疑問を
ぶつけた事があった。
しかし本人に「手首に装着するよりマシだからワザとこうしてるんだ。見た目を少しでも
良く見せる為ならこの程度、面倒のうちに入らない」と、ドヤ顔で返答された後
「それよりお前はポケモンの事は全力で拘るのに自分の事は雑過ぎだ!ポケモンを大切に想って
色々やってるのは凄ぇし良い事だが、お洒落とか服に興味が無さ過ぎる!」と、何故か長いお説教に
突入する羽目になって以降、アキラのセンスに口を挟まない事にしている。

その分、当時の自分に対するお説教の文句は心の中で言っているが。

(トレーナーなら旅をするのに適した服装で短いスカートより動きやすいズボン類を選ぶのは
別に変じゃないわよね?見た目より機能性を重視しても良いわよね?……うん、私は変じゃない。
女の子らしい格好やお洒落をするのは、家族とアキラ以外の第三者に外見について言われた時。
今後アキラに小言を言われても、絶対に可愛い格好なんてしないんだから!)


リオが1人で熱く決意している間にアキラが慣れた手付きでライブキャスターを操作すると、
画面に映ったのは白髪頭で白い髭を生やした老人──アキラの祖父、ハジだった。

「じっちゃん?どうし 〔泥棒じゃ!〕 ……はぁっ?泥棒?」

突然の大声での泥棒発言にアキラは素っ頓狂な声をあげる。
後ろで握り拳を作っていたリオも、何事かと横からライブキャスターを覗き込む。

〔突然奇妙な格好をした連中がやって来て、庭に居たポケモンを盗んで行ったんじゃ!〕

ハジの言葉に、アキラは見開いていた目をスッと細める。

「分かった。丁度今、俺とリオはサンヨウに居る。すぐにそっち行くから待っててくれ」

〔おお!リオちゃんも一緒とは心強い!これ以上被害が出んように、わしは隣の保育園の
 保母さん達に注意を呼び掛けておく!〕

「ああ、そうしてくれ。じゃあな」

ライブキャスターの通信を切ったアキラは、申し訳無さそうな顔をしてこちらを振り返った。

「……すまねぇ、リオ。勝手にお前を強制的に巻き込んじまって」
「旅にトラブルは付き物だから気にしてないわよ。だからそんな顔しないの」

アキラの眉間の皺を人差し指で伸ばして、リオは笑う。

「寧ろポケモンのピンチに手を貸せるんだから良かったわ」
「リオ……」
「さぁ、善は急げ!ハジさん達の家に行くわよ!」

リオ達はサンヨウシティを後にし、ハジ達の家へと急いだ。



3番道路。
多くの草むらと池により、曲がりくねった長い道路だ。
そこにある柳葉色の屋根の建物はアキラの祖父母が経営する育て屋で、隣には滑り台と砂場が
目を引く保育園がある。
アキラは素早く育て屋の扉を開けると、中に居た2人の人間に駆け寄る。
リオは辺りを見回してから扉を静かに閉めた。

「じっちゃん!ばっちゃん!」
「おお、アキラ!」
「リオちゃんも来てくれたんだねぇ…ありがとう」
「ハジさん達の為ですから。……盗まれたポケモンの数は?」
「庭に居たポケモン1匹じゃ。他のポケモン達は、ばあさんが保育園の園児達と遊ばせておったから
 無事じゃったんだが……」

ハジの顔は酷く青ざめていて、そんなハジにリオは胸が締め付けられて、服の袖を握る。
アキラはそんなリオを一瞥して、祖母──ハツの方へと振り返る。

「ばっちゃんはポケモンを盗んだ連中がどこ行ったか分かるか?」
「じいさんの怒鳴り声を聞いて保育園を出たら、この先にある【地下水脈の穴】へ一目散に
 逃げて行きおった」

(……どうしてあんな所に逃げたのかしら)

ハツの言葉に疑問を抱きながら、リオはドアノブを握る。

「逃げた場所も分かった事だし、早速取り返しに行きましょ」
「ああ。じっちゃん達はここに居ろよ!」

ハジ達が頷いたのを確認し、アキラは扉を閉めた。


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【地下水脈の穴】。
染み込んだ雨水が沸き上がり地下に水溜まりを作り出したと言われている。
そんな場所でリオとアキラは奇妙な格好をした2人の男と対峙していた。

「くっ!まさか、こんなに早く追っ手が来るとは!」
「我等の仕事の速さは完璧だったはず。なのに何故」
「呑気に胡座かいて喋ってるからよ」

リオは頭を抱えて狼狽える男と淡々と疑問を口にする男に冷静に返す。
正直リオは泥棒はとっくに逃げてしまっているのではないかと、最悪の状況を頭に入れていた。
しかしリオ達が目にしたのは、盗んだポケモン──ふさふさした尻尾が特徴のチンチラポケモンの
チラーミィが入っている檻を囲んで嬉しそうに話している泥棒。

その緊張感の無さから余程腕に自信があるのかと思っていたが、先程の会話を聞く限り
その可能性はゼロのようだ。

「じっちゃん家のポケモンを盗むたぁ、いい度胸じゃねぇか……」

(……あ)

男達は気付いてないようだが、リオはアキラが本気で怒っている事に気付いていた。
普段の口の悪さとは裏腹に、アキラはポケモンを大切にする人だ。
祖父母の家が育て屋を営んでいて小さい頃からポケモンと触れ合っていたからか、ポケモンを
大切にしない人を嫌う。それが例え、綺麗な女の人でも。

ポケモンを盗む様な輩は完全にアウトだ。

「アンタ等、一体何なんだよ。悪党には違いねぇが」
「悪党ではない!我々はプラ 「アンタ等の名前になんざ興味は無ぇ!」 酷い!!」

バッサリと切り捨てたアキラにリオは狼狽えていた方の男に同情するが、敵だという事を思い出して
身を引き締める。

「素直に盗んだポケモンを返したら?何を思ってここに逃げ込んだのか知らないけど、
 この先……行き止まりだから」
「何ぃ!?」
「道理でな」

(やっぱりお馬鹿な人達だ……)

この【地下水脈の穴】の造りは至ってシンプル、単純明快でどんな方向音痴でも迷う事が無い。
何故なら行き止まりなのだから。
リオがハツの言葉を聞いた時に感じた疑問は、この事からだった。

出口のない洞窟に逃げ込むなんて、馬鹿にも程がある。
現に今、入り口の前にはリオとアキラが立っていて、男達はリオ達を退けない限り逃げられない。

正に、袋のネズミである。

「成る程、お前達を倒さないと逃げられないという訳だな!」
「其れならば、やる事はただ1つ」

男達は変なポーズを決めると、モンスターボールを取り出す。

「我々は今までポケモンバトルで負けた事は無い!」
「そんな強い我等とバトルせよ」

つまりリオとアキラのコンビ、怪しい2人組で戦うという事になるが…

「マルチバトルか。俺、初めてなんだよな」
「あ、そういえば私も」

2人はトレーナーとして旅に出たばかり。
当然、マルチバトルをするのも今日が初めてだった。

「……でも俺達なら!」
「ええ!負ける気がしないわね!」

リオとアキラは笑ってお互いの拳を突き付ける。

「生意気な!我々の強さ、思い知らせてくれる!」
「我等が勝った暁には、大人しく其所を通して貰うぞ」

その言葉を合図に、リオとアキラもモンスターボールを手に取る。


リオ&アキラvs怪しい2人組の戦いが今、始まる。