二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 14章 残された物 ( No.30 )
- 日時: 2020/06/25 15:10
- 名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)
「俺達のポケモンはまだ残っている。大人しくポケモンを返して捕まりな」
アキラの言葉にリオがリュックからロープを取り出す。
それを見て、プラズマ団の1人が嫌らしい笑みを浮かべた。
「《穴を掘る》!」
「「!?」」
動けないと思っていたドッコラーが突然飛び上がって地面の中に潜ると、あっという間に
人が通れる程の穴を掘り起こした。
驚愕するリオ達に、男は得意気に口を動かす。
「ふははは!油断大敵とは正にこの事!地面に叩き付けられる際、角材を盾にしてダメージを軽減したのだ!
ドッコラーは動かなかったのではない、気絶したフリをしていただけなのだっ!!」
「なっ……!?」
リオはプラズマ団の言葉に目を見開く。
バトルは正々堂々行うものだと思ってきたからこそ、「気絶したフリ」などという手を使われるとは
思わなかったからだ。
「見事な戦いぶりだった。しかし、まだまだ詰めが甘いな。戦闘不能が確認されるまで
ドッコラーを攻撃していれば、我等に逃げる機会を与える事は無かった」
「……気絶したフリをする狡賢い連中に詰めが甘ぇとか言われる筋合い無ぇよ」
「正論だな」
プラズマ団の1人は静かに笑うと、バトル中リオとアキラからは確認出来ない場所に移動されていた
檻を持って来た。
檻の中のチラーミィに怪我が無いのを確認して安心していると、プラズマ団は檻を中央に置いた後
小さな鍵をアキラに投げ渡した。
予想だにしなかった行動に片方のプラズマ団は勿論、リオ達も驚く。
「檻の鍵だ。ポケモンも今回は返すとしよう」
「何やってんだよ!?折角ここまで頑張ったのに!」
「我等は勝負に勝った。しかし試合には負けた。バトルに負けたらポケモンを返す
約束だったからな。我等のバトルの申し出を無視して力づくで檻を奪還せずに、正々堂々バトルで
取り戻そうとした相手には、敵であっても敬意を払い最低限の約束を守るのは当然だ」
噛み付く仲間を宥めているプラズマ団を呆然と見つめるリオ。
一方アキラは掌にある小さな鍵をじっくり観察して、口を開いた。
「……これが偽物の鍵の可能性は?」
「疑うのは自由だが、ヒトモシとイーブイなら時間を掛ければ檻は壊せるだろう。
困難なら大人の力を借りれば問題は無い」
淡々と答えるプラズマ団にアキラは言葉を失う。
代わりに溜め息を吐いて口を開いたのは片方のプラズマ団だった。
「……もう良い。次会った時はバトルも我々が勝つ!我はサパス!覚えておけ!」
「我はマアト。成長したお前達と再び戦う日を楽しみにしている。さらばだ」
「!待ちやが 「アキラ」 何だよリオ!止めるなよ!」
穴に入って逃げた2人の跡を追おうとするアキラの腕を掴む。
それに苛ついたアキラはリオの手を振り払って怒鳴るが、リオは諭す様に口を開く。
「盗まれたポケモンを取り返す。それが私達の最大の目的だったはずよ。腹が立つのは分かるけど、
深追いは禁物よ」
「……っ、そう、だな。チラーミィは返って来たんだ、じっちゃん家に戻ろう」
アキラはチラーミィを檻から出してリオに笑いかける。
その笑顔は強張っていて、リオはそんなアキラの手を取ってハジ達の家へ歩きだした。
「ありがとうよ2人共、チラーミィを取り返してくれてっ……」
「でも、肝心の悪党には逃げられちまった……」
ハジは俯くアキラの肩を叩く。
「良いんじゃ。わしはチラーミィと、アキラとリオちゃんが無事に帰って来てくれただけで嬉しいのだから」
「じっちゃん……」
優しく微笑むハジに、リオもアキラも目頭が熱くなる。
そんな2人を見た後、ハツが徐に奥の部屋から籠を持って来た。
「これはわし等からのお礼じゃ、受け取っておくれ」
中にはタマゴが2つ入っていて、リオが覗き込むとカタリ、と脈打つように動いた。
「ポケモンのタマゴ!良いんですか?私まで貰っちゃって……」
「勿論じゃ。リオちゃんとアキラが貰ってくれるなら、わし等もタマゴも本望じゃよ」
「……サンキュー、じっちゃん、ばっちゃん」
「私、この子の事、大切に育てます!」
嬉しそうにタマゴを抱き寄せるリオと照れ笑いをするアキラに、ハジ達は今日1番の笑顔を見せた。
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日が暮れ辺りも暗くなったので、リオ達はハジの家に泊まる事となった。
育て屋のポケモン達と一緒にお風呂に入ったり、ハジ達から昔話を聞いたり……
楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
「ふぁ〜あ……」
アキラが歯磨きを済ませ、いざ寝ようと廊下を歩いていると、窓の外を見ているリオが居た。
傍らにはヒトモシとシビシラスの姿もある。
「どうした?」
「……ん。月が綺麗だなーって思って。ちょっと夜風に当たって来ても良い?」
「別に構わねぇけど……あまり遅くまで出てんなよ?体冷やすからな」
「ありがと。じゃあ行ってくる」
肩から掛けていた毛布でタマゴを優しく包んで抱えると、リオ達は夜の道路へと飛び出して行った。
「──って、タマゴもかよ!?……まぁ、毛布に包んでっから大丈夫か」
静かに突っ込みを入れてアキラは自分の寝室へと向かった。
風で草むらが波の様に揺れ、雲一つ無い夜空を月が明るく照らしている。
湖の水面には月が逆様に映り、水辺のポケモンが動く度に月が形を変える。
そんな幻想的な風景に、リオもヒトモシ達も魅入っていた。
「自分の家から見る景色も好きだけど、アキラの家から見る景色も新鮮で綺麗ね……」
『モシ……』
『♪』
美しい情景に魅せられたのはリオだけではないようで、野生のポケモン達がリオの近くに集まり、
同じ様に月や湖を見つめていた。
しかしリオは特に気にせず、持って来た毛布でヒトモシとシビシラスを包む。
ピチャン……
湖に影が落ちた。
不思議に思いながらヒトモシ達から視線を外し、湖を見る。
「貴方は……」
そこでリオは目を見開く。
水面に立っていたのは、旅立ちの日に出会ったあのポケモンだった。
『……』
ポケモンは1歩、また1歩とリオへと近付く。
それに呼応する様に、首から下げている水色の毛が強く光りだす。
歩き続け、リオとの距離が3メートル程になった所で歩みを止める。
ポケモンは毛布に包まれたヒトモシとシビシラス、タマゴを交互に見つめ──最後にリオを見る。
「あ……」
ポケモンは嬉しそうに目を細めた。
その優し気な瞳に、リオはそのポケモンから目を離せないでいた。
そんなリオの掌にポケモンは何かを落とすと、その場から去って行った。
「あの子は一体……」
リオは残された赤い毛を手に取る。
「……これは驚いた」
リオが驚いて後ろを振り返ると、ブラシを手に持ったハジが立っていた。
ポケモン達のブラッシングをしていたのかと思いつつ、リオはハジに近寄る。
「ハジさん、あの子の事知ってるんですか?」
「うむ。1度だけ遠目で見た事があるが、まさか生きているうちに、また姿を拝めるとは……
リオちゃんは会うのは初めてかの?」
「いえ……私、あの子に会うの今日が初めてじゃないんです」
リオは先程のポケモンと最初に出会った時の事を話した。
ハジはリオが首から下げている水色の毛と、手に持っている赤い毛を見て目を閉じる。
「ハジさん?」
「……リオちゃんになら話しても良いじゃろうな。わしの知っておる限りの、ケルディオの事を──」
一陣の風が2人の間を駆け抜けた。
久々のあとがきです。
リオ達はバトルには勝ちましたが勝負には負けてしまいました。
でもチラーミィは無事だしタマゴも貰えたので、まぁ問題ないでしょう。
そして、謎のポケモンの名前が明らかになりました。気付いてた方も居らっしゃるかと思いますが^^
それでは次回もお楽しみに!