二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 15章 救世主と幼き獣 ( No.31 )
日時: 2020/07/07 23:05
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

「ケルディオ……それがあの子の名前なんですか?」
「左様。わしの家系に伝わる昔話をしようか」


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 人間が始めた戦が元で、木々が焼けてしまった時、1匹の幼く、弱き獣が親と逸れてしまった。


 『親が居なければ、この獣は生きて行けない』


 そう思った救世主達は、その幼い獣の親となり師となり、生きる為に必要な物を伝えた。

 やがて幼き獣は救世主達をも凌ぐ程の力を身に付けた。


 しかし……ある時、獣は救世主達の前から姿を消した。


 何故獣は姿を消したのか、今何処に居るのか、私達に知る術は無い。

 だが、獣は綺麗な水辺や、綺麗で強く真っ直ぐな心を持つ者の前に、時折姿を現す事があるという。



 獣の名は【ケルディオ】──美しい水晶の尾と運命を切り開く角を持つ若き王。


 自然と仲間を愛し、強く真っ直ぐな心を持ち続ければ、ケルディオは姿を現してくれるだろう。


└─────────────────────────────────────────────┘


「──これが、わしが知るケルディオの全てじゃ」
「この救世主達って……」
「分からぬ。少なくともポケモンである事は間違いなかろう」
「綺麗な水辺に姿を現す、か。だから私の家の傍の川とアキラの家の前に現れたのね」

リオが今まで会った場所を思い出し納得していると、ハジが柔らかく微笑んだ。

「……確かにケルディオは美しい水辺に現れると言われておる。
 しかし、わしはリオちゃんと出会っているのが、偶然水辺だっただけの気がするのう」
「えっと、どういう事ですか?」
「言ったじゃろう。ケルディオは綺麗で、強く真っ直ぐな心を持つ者の前に現れる、と」

疑問符を浮かべていたリオだったが、ハジの言葉で思考が停止した。
「正にリオちゃんにピッタリじゃな」と、笑顔で言うハジに、リオは我に返る。

「わ、私、全っ然!そんな心の持ち主じゃないです!!」

怪我をすると、目に涙を溜めた母にもう少しお淑やかにする様に言われた。
自分の意見を言うと、冷ややかな目をした姉に我儘で生意気だと見下ろされた。
強がると、真剣な目をした幼馴染にもっと素直になって頼ってくれと強く手を握られた。

救いと温もりを求めた手を握って救い出してくれた人達の言葉に頷かず、口答えしておいて
簡単に心が揺らぐ臆病な子供が……


綺麗で強くて真っ直ぐな心を持っている筈が、無い。


「やっぱり心がどうとかじゃなくて、運良くケルディオに会えたんですよ。綺麗な心の持ち主は
 ハツさん、強くて真っ直ぐな心の持ち主はハジさんが頭に浮かびましたし」
「はは、世辞でも嬉しいもんじゃ。しかし……」

そこで言葉を切り、ハジはリオの掌にある赤い毛を見つめる。

「やはり、ケルディオはリオちゃんに会いに来たんじゃろう」
「えっ」

破顔するハジにリオは困惑する。

「人間の本質は自分では分からぬ物じゃよ。リオちゃんが自分を卑下しても、ケルディオはリオちゃんを
 認めておる」
「で、でもハジさんも認められているからケルディオに会えて、」
「わしは偶然に2度、遠目でケルディオの姿を確認しただけにすぎんよ。そもそも、幻のポケモンと
 伝説のポケモンは基本的に自分の痕跡を残さないんじゃ。しかしケルディオは何度もリオちゃんの
 前に現れて、こうして自分の毛を残しておる。自分の住処を壊し、親と離れ離れにさせた……
 最も恐れ、憎んでいるやもしれん人間に、じゃ」

ハジはそこで話を止めてリオの手を優しく包み込む。
リオの手は夜風に吹かれていた所為で、氷の様に冷たかった。

「自分に自信を持ちなさい、リオちゃんや。君はケルディオに好かれ認められた、唯一の人間なのだから」
「……はい」


水色の毛と赤色の毛を見つめ、リオは静かにはにかんだ。


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「じゃあ、そろそろ俺達行くな!」
「泊めてくれて、ありがとうございました!」

日が昇り、朝食を済ませたリオ達はタマゴを抱えてハジ達に向き直る。
そんな2人にハツは寂しそうに眉を下げる。

「おやまぁ……もう少しゆっくりしてっても良いんじゃぞ?」
「無茶を言うでないばあさんや。リオちゃんもアキラも忙しいんじゃから」
「そんな悲しい顔すんなよ、ばっちゃん。折角の美人が台無しだぜ?強くなって、もっともっと
 良い男になったらまた会いにくるからさ」

(流石……)

年齢問わず女の人に優しくする幼馴染に、最早脱帽の域である。
ハツの手を壊れ物を扱う様にふんわりと握り、顔を近付けてにっこりと満面の笑顔を見せるアキラを
口を開けてぽけーっと見るリオの足元には、同じ様な目でアキラを見つめるイーブイが居た。


それから10分後。
ハジ達に別れを告げて次の街に向かって道路を歩いていると、不意にアキラが「そういえば」と呟いた。


「なぁ、昨夜じっちゃんと何話してたんだよ?」
「……ヒミツ」

リオはアキラの質問に顔を背ける。
昨夜の話の後、ハジにケルディオの事は無闇に話さない様に釘を刺されたからだ。
例え幼馴染で親友のアキラでも、ケルディオの事は教えられない。

「何だよ、勿体振らずに教えろって!」

しかし納得出来ないのか、アキラは頬を膨らませると肩を抱いてきた。
歩き辛い上に、先程のハツ以上にぐぐっと顔を近付けるアキラにリオは至極面倒臭くなり、
答えられる範囲で昨日の出来事を教える事にした。
リオが立ち止まると、アキラと、2人の前を歩いていたイーブイが止まった。

「綺麗な月の下、湖を見ていたらハジさんに出会って……とても情熱的な言葉を貰ったわ」
「ん?えっ?……はあぁっ!?」
「熱い言葉と手の温もりに心が温かくなったわ」

胸に手を当てて小さく息を吐くと、アキラがよろよろと後退った。
何故か顔色が少し悪い。

「どうしたの?」
「な、んでもねぇよ」
「分かった、身内を巻き込んだ悪趣味で下手糞な嘘だと思ってるんでしょう?言っておくけど
 嘘じゃないわよ」
「…………分かってる。ところで、ど、どんな事を言われたんだよ」

ハジから貰った言葉は多いが、ケルディオの事を抜きに選ぶとするなら——


「もっと自信を持ちなさい、だってさ」

自分を勇気づけてくれたハジの言葉を、アキラの目を見て伝える。
きょとんとするアキラに笑い、リオは自分達を見上げるイーブイに目配せすると、一緒に駆け出す。

数秒遅れて追い掛けて来るアキラから笑顔で逃げるリオのネックレスには、水色の毛の隣に
赤色の毛が付けられていた。



今回はいつもに比べると、本文が大分短くなりました。
でも自分が書きたかった事は書けたので、満足しています。終わりがイマイチなのがアレですが←
尚、ケルディオについては公式でまだ出てないので、捏造部分があったりします。
(心が綺麗な人の前に現れる、若き王など)
今回伝えたかったのは、リオがケルディオに会っていたのは偶然じゃなく、
ケルディオが自らリオの前に現れていた、という事と
リオの事、ケルディオは凄く気に入ってるんだよ!……という事です^^

ちなみに今まで書きませんでしたが、ハジはカントーのシオンタウンに居る
フジ老人とは兄弟関係だったりします。フジ老人もポケモンを引き取ったり、
育て屋(?)みたいな事をしていたので……なので名前も、フジに似たハジというややこしい名前です。

長くなりましたが次回、シッポウシティに到着、そしてあの人と再会します。
それでは次回もお楽しみに!