二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 16章 シッポウシティ 母、登場! ( No.34 )
日時: 2020/07/07 23:57
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

シッポウシティ。

シッポウの語源は7つの宝物から来ている。
100年前の倉庫は今や家やアトリエなどに再利用されていて、エコで芸術の街としても有名である。

「このシッポウシティには女性に人気のお洒落なカフェがあるんだ。その名も【カフェ・ソーコ】!」
「随分詳しいわね」
「女の子が好きなスポットは大方調査済みさ」

髪を掻き揚げて得意気に片手でパンフレットを広げて見せるアキラ。
右肩に乗っている相棒のイーブイに呆れた眼差しを向けられているという事に、
果たして彼は気付いているのだろうか。

「因みに1番人気は涼し気で可愛らしい丸いガラスの容器に入ったメロンソーダと、小さくひし形に
 カットしたウタンの実と生クリーム入りのメロンゼリーが入った、ユニランソーダらしいぜ」
「ユニランソーダ……」

(まさか本当にユニランが……なんて事は無いわよね?)

そんな会話をしながら歩いていると、丁度カフェの前に着いた。

「なっ、喉も渇いた事だし入ってみようぜ」
「そうね」

(ポケモンセンターでタマゴを入れる専用のケースを貰えたけど、ずっとケースに入れたまま
リュックの中…っていうのもタマゴが可哀想だし、休憩がてらタマゴを拭きたいわね。
温かいおしぼりを幾つか貰えたら最高なんだけど)

「ん?」

そんな事を考えながらリオが何気なくテラスを見ると、アコーディオンを演奏する男の人の横で
優雅に紅茶を飲む1人の女性に目が行った。
白い帽子を被り、背中まである金色の柔らかい髪、レース付きの白いワンピースを着た姿は上品で、
宛ら貴婦人のようだ。

リオは同性ながらその美しさに(後ろ姿だが)見惚れていたのだが……

女性が紅茶を置いて振り返る。
そして、リオ達の姿を見て嬉しそうに立ち上がった。

「リオ〜!アキラ君〜!」

手をブンブンと横に振ってリオ達の名前を呼んだのは、

「お母さん!?」

リオ達のよく知る、リオの母親・リマだった。

「うふふ、まさかこんなに早く2人に会えるなんてね〜お母さん、嬉しいわ」

(家を出て、まだ1日ちょっとしか経ってないんだけど……)

思わず突っ込みそうになるリオだが、本当に嬉しそうなリマを見て口を閉ざした。

「俺もリマさんに会えて嬉しいです。ところで、リマさんはどうしてここに?」
「ここのお茶もお菓子も凄く美味しいから、時々こうしてお茶しに来るの♪お爺ちゃんには
 ナイショよ?」

口に人差し指を当ててウインクするリマに悶えるアキラを小突き、リオはリマの隣に座ろうとした。


──その時、テラスに大きな影が落ちた。

「あら?」

逸早くその影に気付いたリマが空を見上げる。
空には羽を広げたポケモンが居て、その背には人が乗っている。

「やっと見つけたわ!」

ポケモンの背から軽やかに降り立ったのは、派手な赤いドレスを着飾ったリオの実姉──マオだ。

「お姉ちゃん!?」
「ゲッ、マオさん」

後ずさったアキラをリマは眉間に皺を寄せて睨む。

「才色兼備で、完璧なこの私に向かってその態度とは良い度胸ねアキラ。本来なら今すぐに
 そのダッサイ眼鏡をかち割ってやる所だけど、私は忙しい身だから貴方の言動に、いちいち
 構ってられないの。だから特別に許してあげるわ。寛容な私に感謝する事ね」
「……それはどうも」

(お姉ちゃん、あの格好で旅してるのかしら?でも、旅に出た時はもっと動きやすいワンピースを
着ていったはず……じゃあ、あのドレスは?)

マオの言葉にアキラは顔を引き攣らせ、リオは姉の服装について疑問を抱く。
そんな2人を無視してマオは母親の前に立つ。

「久しぶりね〜旅に出て3年間全然連絡もくれないし、家に帰って来ないから寂しかったけど……
 元気そうでよかったわ〜」
「……母さんは相変わらずね」

リマと話すマオの表情は些か穏やかで、アキラは隣に居たリオに顔を近付けて耳打ちする。

「マオさん、俺達と話してた時と態度違くねぇか?」
「お姉ちゃんはお母さんを凄く尊敬してるからね。お母さんには素直というか…穏やかなの」

リオは姉に気付かれない様に(聞かれたら色々厄介なので)、そっとアキラに耳打ちする。

「……やっぱ俺苦手だわ、マオさん。綺麗な人だけどさ」
「アキラがそこまで嫌うのって珍しいよね」

(確かにお姉ちゃんは自分が認めた人以外に対して辛辣だけど、アキラはそんな人でも
女の人なら許しちゃうタイプだと思ってたのに……)

リオの心を読んだかの様に、アキラはイーブイを撫でながらマオの後ろ姿を見つめる。

「マオさんって完璧主義者でプライドが高いだろ?もし、自分の完璧な部分を壊す
 何らかの綻びが生まれたら……一体どうなるのかと思うと恐くてな」

「そんな、」
「お茶してるとこ悪いけど、母さんに頼みがあるの」

突然のマオの声に驚いたリオとアキラは会話を中断して2人の方を向く。

「うふふ、なぁに?」
「私、これからポケモンリーグに行くんだけど、その前に最後の調整をしておきたいと思ってね。
 だから母さん。私とバトルしてくれないかしら」

マオの提案にリオとアキラは驚愕する。
別にマオがポケモンリーグに挑戦しに行く事に驚いたわけではない。
対戦相手にリマを指名した事に驚いたのだ。

リマは特に驚きもせず、頬に手を当ててニコニコしているだけだが。

「バトルって……え、お爺ちゃんが相手じゃダメなの?」
「ふん……確かにお爺ちゃんも強いけど、成長した今の私には敵わないわよ。それ以前に、1匹しか
 ポケモンを持ってないんじゃ勝負にならないわ。アンタ達は──お話にならないし?」

リオの疑問に半分馬鹿にしながらも答えるマオ。
意外と律儀なんだろうか。

「そう……私と、バトル…………」

(!?)

リオは慌てて目を擦る。

(一瞬、お母さんの目付きが別人みたいに鋭くなった様な……)

「ん?どうした?」

顔を覗き込んできたアキラに考えるのを止め、笑顔を向ける。


「ううん!何でもない」
「マオとバトルなんて初めてね〜勿論良いわよ♪でも場所を変えて良いかしら?」
「ええ、母さんの好きな場所で構わないわ」
「じゃあ早速移動しましょうか。リオ達もいらっしゃ〜い」

こちらを振り返り手招きをするリマに、リオ達は目をぱちくりさせる。
リオもアキラも、バトルの邪魔になるからお茶を飲みながらカフェで休憩して、その後にジムに
挑戦しに行こうと思っていたからだ。

マオは不服なのか顔を歪めてリマの肩を叩く。

「ちょっと母さん」
「うふふ、良いじゃない。見られたって減る物じゃないんだから」
「う゛……母さんが言うなら妥協するわ」

笑顔で〝あの〟マオを黙らせたリマに、アキラは思った。


いつの時代も母は強し、だと。


久々……という程でもありませんが、リオの母・リマと、リオの姉・マオが出て来ました。
今回、最初の時点ではアキラとリオ達にジム戦をしてもらおうと思っていましたが、
リマとマオ、2人のポケモンが出て来てない事に気付き、
「それならいっそ2人を戦わせれば万事解決!」という考えに至り、急遽2人を登場させました。
次回、リマvsマオの親子対決です。お楽しみに!