二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 21章 リオvsアロエ ( No.46 )
日時: 2020/07/26 17:11
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

「それでは、バトル開始!」
「まずはこっちから行くよ。ハーデリア!《突進》!」

ハーデリアは後ろ足で勢い良く地面を蹴ると、猛スピードで駆け出し突っ込んで来た。

「迎撃よシビシラス!《チャージビーム》!」

シビシラスは体内に電気を蓄電し、突っ込んで来るハーデリアに向かって束状の電気を発射する。
突っ込んで来たハーデリアは正面からまともに攻撃を喰らって吹っ飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。

「全体重を乗せた捨て身の《突進》を止めてハーデリアを吹っ飛ばすなんて、そのシビシラス、
 見かけによらず中々のパワーじゃないか」
「ありがとうございます!……きゃっ」

褒められた事が嬉しかったのか、シビシラスは踵を返してリオに擦り寄る。

(今、バトル中なんだけどなぁ……)

そう思いつつも、自分に擦り寄って来るシビシラスを無下に出来ず、リオは苦笑しながら頭を撫でる。
それに満足したのか、シビシラスは張り切ってバトルフィールドに戻って行った。

「すみませんアロエさん、バトル中なのに」
「良いって事さ!表情が変わり難いシビシラスが、そこまで表情をコロコロ変えるなんてね。
 とても良い物を見せて貰ったよ」

頭を下げるリオにアロエは楽しそうに笑う。
しかしすぐに笑みを止め、リオとシビシラスを鋭い目で見つめる。

「でもバトルはバトルだ、遠慮なく行かせて貰うよ!ハーデリア!《噛み付く》!」
「シビシラス!《電磁波》!」

牙を剥いて飛び掛かって来たハーデリアに対し、シビシラスは上に飛んで攻撃を回避すると、
先程の《チャージビーム》とは比べ物にならない程の微弱な電気を飛ばし、ハーデリアを麻痺状態にする。

「《電磁波》とは厄介だね。ハーデリア、もう1度《噛み付く》だ!」

ハーデリアは再び牙を剥きシビシラスに襲い掛かる──しかし突如体が痺れ、動きが止まった。

「今よ!後ろに回り込んで、ハーデリアの背中に《スパーク》!」

シビシラスは後ろへと回り込むと、全身に電気を纏って背中に体当たりした。
無防備なハーデリアは、背中を襲った痛みに顔を歪める…


──事は無かった。


(そんな……効いてない!?)

「《突進》だよ!」

瞬時に危険を察知し上へ飛んで攻撃を躱そうとしたシビシラスだったが、ハーデリアの方が速く
《突進》がクリーンヒットし、吹っ飛ばされた。

「どうして?攻撃は確かに当たったのに……」
「《電磁波》でハーデリアを麻痺させて、動きが鈍った所を攻撃する。わざわざ後ろに回り込んで背中に
 攻撃したのは、正面からだと《噛み付く》で反撃されて捕まる恐れがあったからだね。確かに良い判断だ。
 ……けど、攻撃した場所が悪かったね」

シビシラスはハーデリアを睨み付ける。
咄嗟に尻尾をバネの様にしてダメージを軽減したが、シビシラスの体は傷だらけだった。

「ハーデリアの背中のマントはとても頑丈でね、ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしないんだ。
 それにあたしのハーデリアの特性は相手の攻撃力を下げる《威嚇》──攻撃力が下がった
 シビシラスの《スパーク》は殆ど効いてないって訳さ」
「それなら特殊技で攻めるまでです!《チャージビーム》!」

シビシラスは蓄電した電気を束状へと変えて発射する。
最初の時に比べてその電撃は大きくて鋭く、槍で貫くようにハーデリアを襲った。

何とか耐え抜いたハーデリアだったが、強い電撃を浴びて一部の毛が焦げていた。

「この威力……最初の攻撃で特攻が上がったんだね。本当にアンタは運が良いよ、リオ!」
「もう1度《チャージビーム》!」

シビシラスが覚える技は4つしか無く、そのうち特殊技は《チャージビーム》の1つだけ。
なので、リオはこの技を指示するしか術が無い。

「一か八かだ。ハーデリア、最大パワーで《突進》だよ!!」

ハーデリアは迫り来る電撃に突っ込むと、力任せに突破してシビシラスに体当たりする。

「よし、これで──……!」

アロエの声が消え失せる。
渾身の力を振り絞ったハーデリアの《突進》を受けても尚、シビシラスが戦闘不能に
なっていなかったからだ。

「シビシラスに攻撃が当たる直後に麻痺の症状が出たみたいです……お蔭で、何とか攻撃に
 耐えられました」

そこで言葉を止め、リオは深呼吸する。


「《体当たり》!!」

シビシラスはハーデリアの体を押し続け、そのまま壁に叩き付けた。
《突進》による自分へのダメージもあり、ハーデリアはそのまま崩れ落ちた。

「良くやったねハーデリア、ゆっくり休みな」
「ありがとうシビシラス。良く頑張ってくれたわ」

アロエは戦闘不能になったハーデリアをボールに戻す。
リオも《体当たり》をした後に力尽きたシビシラスをボールに戻し、次のボールを手に取る。

「最後は貴女よ。お願い、ヒトモシ!」

リオは最後に己のエースポケモンであるヒトモシを繰り出した。

「やるじゃないかリオ。けれど次はあたしのエースポケモン。簡単には勝てないよ!
 ……出て来な、ミルホッグ!」

アロエが繰り出したのは細長い胴体と尻尾、腕を組んだ姿が特徴的のミネズミの進化系──
警戒ポケモンのミルホッグだ。

「ミルホッグ……強敵ね。さっきのハーデリアみたいに、ミルホッグも十中八九ゴーストタイプの
 対策をしていると思うけど、私達も昔と違って強くなったから勝ち目は充分──ヒトモシ?」

言いかけて、リオはヒトモシの異変に気付いた。
ミルホッグの姿を目にした瞬間、目を瞑って小刻みに震え始めたのだ。

(ヒトモシのこの反応、4年前にも……)

それは、初めてリオがヒトモシと出会った日。
ミルホッグの群れに囲まれた時も、ヒトモシは今と同じ様に自分の後ろで震えていた。
その時リオは、ヒトモシが自分より大きい相手が沢山居るから恐がっているのだと思っていた。

しかし、今ヒトモシの前に居るミルホッグは1匹だけ。
それでも震え続けているヒトモシに、リオは1つの考えに至る。

(ヒトモシは、ミルホッグ自体が恐いの……?)

自分と出会う前にミルホッグに酷い目に遭わされた。
それなら、ヒトモシのこの尋常では無い怯え方も理解出来る。
ヒトモシに出会ってから今日まで、特訓でミルホッグを相手にバトルをした事が無かったから
気付けなかった——いや、それは言い訳だ。

(昔と違って強くなったなんて、私が勝手に思い込んでいただけ。ミルホッグが恐い事だって、
もっと早く知る事が出来た。全部、私がヒトモシを知ろうと今日まで頑張らなかった結果が
今、目の前で苦しんでいるヒトモシなんだわ…………)

「……どうする?バトルを続行するかい?」

アロエの言葉にリオは俯く。
自分が指示を出せば、ヒトモシは震えながらも戦ってくれるだろう。

(……でも、)

恐怖でヒトモシの目から涙が溢れる。
友達になったあの日から見なかった、ヒトモシの涙。
トレーナーである自分が未熟だったから、苦しませてしまった。

リオは意を決して顔を上げる。

「いいえ。このバトル、棄権します」

(無理矢理戦わせるなんて、友達がやる事じゃないわよね)


「私の、負けです」


リオの小さな声はアロエに、そしてヒトモシに響いた。