二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 23章 絶体絶命 ( No.48 )
- 日時: 2020/07/28 16:15
- 名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)
ヒトモシとケルディオが話している、丁度その頃──
「シビシラス、スパーク!」
電気を纏い、シビシラスはジクザグに動きながら相手との距離を縮める。
不規則なシビシラスの動きに翻弄され《スパーク》を喰らったマメパトは、ぽとり、と地面に落ちる。
「うん!今の攻め方良かったよ、シビシラス!」
リオは胸に飛び込んで来たシビシラスを褒める。
基本的にじっとしているのが苦手なリオは、ジム戦に向けてシビシラスを鍛えていた。
そして鍛える以外にもう1つ、目的があった。
「うーん……」
シビシラスを撫でながら、リオは空のモンスターボール片手に唸る。
こうして森のポケモン達と戦っているのはシビシラスを鍛える目的もあるが、新たな仲間を
探す目的もあった。
今回のジム戦はヒトモシには見学して貰うつもりだが、シビシラスだけに負担を掛けるのは
出来る限り避けたい。
だからこうして野生のポケモン達と戦い、鍛えながら新たな仲間を探しているのだが、仲間探しは
難航していた。
「マメパトにモンメン、チュリネにクルミル。皆個性があって良いんだけど……」
リオは今まで戦ったポケモン達の能力と行動パターンを思い出す。
どのポケモンを仲間に選んだとしても、時間を掛けて鍛えればアロエのミルホッグ達とも互角に
渡り合ってくれるだろう。
しかし、新たな仲間を迎え入れてまずすべき事は特訓ではなく、周りの物……建造物と車等の
今まで居た自然豊かな環境とは真逆の、鉄とコンクリートに覆われた硬い環境に慣れて貰い、
お互いに信頼関係を築いてポケモン達とも打ち解けられる様にトレーナーが尽力する事だ。
慣れない環境下で緊張するポケモンを戦わせるのは残酷な事だし、それに加えてトレーナーとの
信頼関係が無ければ本来の力を充分に発揮出来ない。
他のポケモンと打ち解けられず肩身の狭い思いをさせてしまうと、ストレスを溜めさせてしまう。
元居た環境からポケモンを連れ出すのはトレーナーの身勝手だとリオは思っている。
実家が自然豊かな場所にあり、そこでのびのびと過ごすポケモン達をずっと見て来た故に、
強くそう思う。
だからこそ、仲間になってくれたポケモンには不自由無く楽しく過ごして欲しいし、その為には
いくらでも時間とお金を使う覚悟がリオにはあったのだが——
「この森の子は人に対して妙に攻撃的で、ゲットも許してくれないのよね」
こちらが特訓相手を探さなくても向こうが攻撃を仕掛けてくるので、特訓は捗っている。
しかし能力が他の子よりも高く、色も違うチュリネに遭遇して弱らせた所でモンスターボールを
投げようとしたら死角から攻撃が飛んで来て、それを避けてたらチュリネに逃げられたり、腰に
セットされた空のモンスターボール1個を、クルミルが糸を噴射して遠くに放り投げたりと、
ゲットに関しては全く進展が無かった。
(移動すれば状況が変わるかもしれないし、もっと奥に進もうかしら……)
そう思った矢先、
くぅ〜〜
力の抜ける情けない音が静寂を破った。
「そ、そういえば、まだお昼食べてなかったんだっけ」
お腹を抑えて顔を赤らめるリオ。
「周りに人が居なくて本当に良かった……!腹が減っては戦は出来ぬって言うし、休憩しよっか」
シビシラスが頷いたのを確認したリオはリュックから取り出した虫除けスプレーを体に吹き掛け、
レジャーシートを広げた後にポケモンフーズの封を開ける。
各自の皿にポケモンフーズを入れ、その上に細かく刻んだ木の実を乗せ終えた頃、草を掻き分けて
ヒトモシが出て来た。
その後ろから、辺りを警戒しながらケルディオも歩いて来た。
『モシ〜』
「あ、2人共おかえり!お腹空いたでしょ?お昼食べましょ♪」
笑顔で自分の隣を叩くリオに、ケルディオは首を横に振る。
“折角のお誘いだけど、僕は遠慮しておくよ。人間が増える前に移動したいからね。”
「そっか……あ、怪我してるわよ、そこ」
リオが指差したのはケルディオの後ろ足。
白い肌には目立つ、赤い傷跡がうっすらと残っていた。
“本当だ。多分森の中を移動してる時に出来たんだ。大丈夫だよ、只の擦り傷だから……。”
「駄目よっ!掠り傷だからって油断してちゃ悪化するわ」
リオはリュックから傷薬(消毒・殺菌効果あり)を取り出すと、ケルディオの足に吹き付ける。
そして移動するのに邪魔にならない程度に包帯を綺麗に巻き付けていく。
“……。”
目にも止まらぬ早業に、呆然とするケルディオ。
「ん!消毒はしたし、後は自然に治るのを待つだけね」
“……有り難う。じゃあ、そろそろ僕は行くね。ジム戦、頑張ってね。”
ケルディオは微笑むと、背を向けて森から去って行った。
完全に姿が見えなくなるまで見送っていたリオだったが、ふと疑問が浮かんだ。
(あれ?私、ジム戦の事ケルディオに話したっけ?)
目を瞑って記憶の糸を辿るが、お腹の虫が鳴ったので考えを中断する。
「……まぁ良いか。さてと、じゃあお昼食べよっか。いただきます」
リオとヒトモシが手を合わせて、シビシラスが手を合わせる代わりにお辞儀をする。
リオが自作のおにぎりを、ヒトモシとシビシラスがポケモンフーズを口にしようとした、その時。
ヒトモシとシビシラスが地面に伏した。
「ヒトモシ!?シビシラ、……っ!」
伸ばしかけた手を、咄嗟に鼻と口に持って行く。
視線の先には苗木のような姿をしたポケモン──根っこポケモンのチュリネが居た。
そして頭頂部の葉から出ている黄緑色の粉。
(あれは……チュリネの《眠り粉》だわ。だからヒトモシ達は眠っちゃったのね)
粉を吸い込まない様に細心の注意を払いながら、冷静に状況を分析する。
(虫除けスプレーを使ったからって安心しないで、シッポウシティでお昼を食べていれば……!
いや、後悔も反省もヒトモシとシビシラスに謝るのも後で沢山すれば良い。2人共、今は戦える
状態じゃない。これ以上相手を刺激しない様に、まずはこの場から逃げなくちゃ)
リオは荷物を静かに片付けてリュックに仕舞うと、ヒトモシ達をボールに戻してゆっくりと後退る。
前を見つめたまま後退を続け、時々柵と木に腕をぶつけながらも出口に向かって動く。
出口まで、あと10メートル。
(あと少しで、出口……!)
後ろから感じる光にリオが一瞬気を抜いた──刹那。
「!!」
粘着性のある糸が足に絡まり、後ろに進めなくなった。
糸を出しているのは葉っぱの服を着た、裁縫ポケモンのクルミルで、その小さな体からは想像もつかない程、
糸を引っ張る力が強い。
現に今、リオの体はズルズルと前に引っ張られている。
(自分で糸を切って逃げるしかない!)
背中のリュックから鋏を取り出そうと手を伸ばすが、その手も後ろの木に登っていたクルミルの糸に
捕らえられ、身動きが取れなくなる。
前と後ろには野生のポケモン、ヒトモシとシビシラスはボールの中で眠ったまま。
そして自分は手も足も動かせぬ状態……
(あれ?これって結構ピンチ、かも……?)
リオは絶体絶命の状況に、たらり、と冷や汗を垂らした。
久々のあとがきです。
リオがケルディオの手当てをする際、何であんなに手際が良かったのかというと、
自分が小さい頃よく怪我をして、何度も手当てを繰り返すうちに自然と身に付いたからです。
ポケモンの手当ても、野生のポケモンを相手によくしてましたので。
長くなりましたが、次回、絶体絶命のリオを救うのは……!?
それでは次回もお楽しみに!