二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 27章 踏み出す勇気 ( No.52 )
日時: 2020/08/07 22:39
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

「へぇ……」

観客席に座ってバトルを観戦していたアーティは口角を上げる。

(あんなに楽しそうなアロエ姐さん、久しぶりに見たな。それに、アロエ姐さんにあそこまで
言わせるなんて、本当にリオちゃんは面白いなぁ。虫ポケモンの次に好きかも)

アーティは興味深そうにリオを見つめる。

「やっぱり、リオは凄ぇな」
「?」

しかし席を1つ空けた左隣から聞こえて来た言葉に、アーティはリオから視線を外して声のした方向を見る。
そこにはヒトモシを膝に乗せてフィールドを見下ろしているアキラ。
こちらを見ているアーティに気付いてない辺り、今のは無意識に出た言葉の様だ。

(ポケモンに関する知識は俺の方が上だ、それは断言出来る。でも着眼点や戦術はリオの方が上)

勝てた事が嬉しいのかリオの全身を尻尾で撫でているチラーミィと、興奮気味のチラーミィを
抱き上げて笑顔で撫でているリオに、アキラはフッと笑う。

「俺も良い加減ケジメつけねぇとな……」

ぽつり、と呟かれた言葉の真意が分からず、アーティはただ首を傾げるしかなかった。

「まさか本当に痛い目を見る羽目になるとはね。だけど、次はこうは行かないよ!
 出て来な、ミルホッグ!」

アロエが最後に繰り出したのは、彼女のエースポケモン、ミルホッグだ。

「ミルホッグ……遂に出て来たわね」

腕を組んでチラーミィを見下ろす姿は威圧感に包まれていて、チラーミィは勿論、リオも汗を垂らす。

「お、おい。どうしたんだ?」

一方、観客席では急に震えだしたヒトモシの体を、アキラが慌てて揺すっていた。
その視線の先にはアロエが出したミルホッグの姿。

(もしかして、リオがアロエさんに負けたのは……)

アキラは目を瞑っているヒトモシを見た後、フィールドに居るリオを見つめた。

(凄い威圧感。それに、自信に満ち溢れている。でも、押し潰されちゃ駄目!)

リオは汗を腕で拭い、ミルホッグを正面から睨み返す。

「ミルホッグ!《噛み砕く》!」

先に動いたのはミルホッグ。
前歯を剥き出して、チラーミィに突進する。

「チラーミィ、躱して《くすぐる》よ!」

チラーミィは突進して来たミルホッグを上にジャンプして避ける。
攻撃を躱され、顎を地面に打ち付けたミルホッグの頭をクッション代わりにして踏み付けると、
チラーミィは背中に乗って尻尾を動かしミルホッグを2回くすぐる。

「ミルホッグ、振りほどきな!《火炎放射》!」
「やばっ!チラーミィ、離れて!」

ミルホッグは首を動かし、背中に乗っているチラーミィ目掛け炎を噴射する。
それを後ろに跳ぶ事で回避したチラーミィだが──

「尻尾で叩き落とすんだ!」

ミルホッグの長い尻尾が鞭の様に撓り、チラーミィは地面に叩き付けられた。

『ミィ〜……』
「今だよ!《噛み砕く》!」

額を抑えて痛みに悶えるチラーミィの尻尾に、ミルホッグの前歯がミシリ、と食い込む。

「頑張ってチラーミィ!《往復ビンタ》!」

痛みに顔を歪めながらも、チラーミィはミルホッグの頬に手を伸ばす。
しかし、又しても長い尻尾に攻撃を阻まれ上に弾き飛ばされる。

「これなら!《アクアテール》!」

チラーミィは落下のスピードを利用して、尻尾に大量の水を纏いミルホッグへ振り下ろす──

「《敵討ち》だ!」
「チラーミィ!躱して!」

しかしチラーミィが尻尾を振り下ろすより先に、ミルホッグが動いた。
ミルホッグは怒りの形相を浮かべ咆哮し《アクアテール》を後ろへ跳んで避けると、瞬時に間合いを詰めて
チラーミィに拳を振り上げる。
自分の攻撃を躱された事と、ミルホッグの切り替えの早さに反応が遅れたチラーミィは
顎に強烈な1撃を喰らう。
更にミルホッグは宙へ浮いたチラーミィの体を長い尻尾で弾き飛ばす。

「チラーミィ!!」
「ミルホッグ、追撃だ!」

ミルホッグの猛攻はこれだけに止まらず、弾き飛ばしたチラーミィの尻尾を掴み、
そのまま天井へ放り投げる。

「天井に《アクアテール》!」
『!ミィー!』

咄嗟に《アクアテール》の水を天井に放ちダメージを緩和する。
しかしフィールドに降り立ったチラーミィは酷く疲れていた。
最初の猛攻で、既に体力は限界だ。

「《敵討ち》って技は、事前に味方のポケモンがやられている場合、威力が倍増する技だ。
 最初に《くすぐる》でミルホッグの攻撃力を下げてなかったら、間違いなくチラーミィは
 戦闘不能になってたね」

そこまで言って、アロエの目は鋭く細められた。

「だけど、ここまでさ!もう1度《敵討ち》!」
「拳を《往復ビンタ》で叩き落として!」
「無駄だよ!」

時に振り上げ、時に振り下ろされるミルホッグの拳をフサフサの尻尾で次々に叩いて防ぎ、
地道にダメージを与えるチラーミィだったが奮闘はそこまでだった。
拳を防いでも頭突きと膝蹴りがチラーミィに襲い掛かり、最後に長い尻尾が鳩尾にヒットして
衝撃でチラーミィの体が宙に浮く。

「チラーミィ!!」

大声でリオがチラーミィを呼ぶ。
しかし、体を強く打ち付けたチラーミィは目を回して伸びていた。

「チラーミィ、戦闘不能。ミルホッグの勝ち!」
『!!』

キダチの声にヒトモシは目を開け、フィールドを見下ろす。

「……本当にありがとう、チラーミィ。ゆっくり休んでて」

連戦で乱れたチラーミィの頭の毛を撫でて整え、お礼を言ってチラーミィをボールに戻すリオと、
それを黙って見つめるアロエとミルホッグの姿が目に映る。

『モ、シ……』

ヒトモシは目を閉じ、去り際にケルディオが耳元で呟いた言葉を思い出す。



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“君の事情は分かった……けど、ずっと逃げていたら何時まで経っても強くなれないよ。”


ケルディオの言葉に、肩を震わせる。


“リオはどんどん強くなる。それなのに、君は何時までも立ち止まったままで良いの?”


良い訳が無い!でも、踏み出す勇気がない……!


“立ち止まったままじゃ、何時か──リオは遠くに行ってしまうよ?君を、置いて。”


!!


金縛りにあった様に動けなくなる。
何かを言うよりも先に、ケルディオは歩を進める。


“彼女と共に歩みたいのなら、一歩を踏み出すんだ。そうすれば、きっと、”


君は今よりもっと、強くなれるから。


そう告げて、彼は姿を消した。


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ヒトモシは再びフィールドを見る。
ケルディオの言葉と、先程アキラが呟いた言葉が自分の背中を押す。


気付いたら、体が動いていた。