二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 28章 覚悟の炎 ( No.55 )
日時: 2020/09/07 20:39
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

リオはシビシラスが入ったボールを手に取る。

「最後は貴方に任せるわ。シビシラ 「お、おい!」 ……?」

ボールを投げようとした、その時。
慌てているアキラの声が耳に入り、リオはボールを持つ手を止めた。
一体どうしたのかと観客席を振り返ると——

「ヒトモシ?」

ヒトモシが観客席から飛び降り、こちらに向かって走って来るではないか。
疑問符を浮かべてヒトモシの動きを目で追っていると、ヒトモシは自分の目の前に広がる
バトルフィールドに立った。
予想外のヒトモシの行動にリオは暫し硬直するが、ゆっくりと口を開く。

「何、してるの?ヒトモシ……」

口を震わせて問うリオにヒトモシは何も答えず、ミルホッグと対峙している。

「相手はミルホッグなのよ?観客席に戻って」
『……』
「お願いだから……戻って、ヒトモシ!」

キダチはまだ試合再開の合図を出していないが、このままだとヒトモシは再びミルホッグと戦う事になる。

(でも、まだ貴女は……!)

蘇るミルホッグを前にしたヒトモシの姿。
4年前、50匹のミルホッグに囲まれた時は祖父のムトー1人にバトルを押し付けておいて、自分は
震えるヒトモシを勇気付ける一言もかけずにバトルに釘付けだった。
4年もあったのに、友達で家族でもあるヒトモシがミルホッグを恐れている事さえ知らずに
バトルに出して、泣かせて……ヒトモシは何も悪くないのに責任を感じさせてしまった。


(もうこれ以上、私の甘えや勝手、過ちでヒトモシを傷付けたくないのに——!)

「リオ。察してやりな」

黙って成り行きを眺めていたアロエが口を開いた。

「この子は自らここに立ったんだ。つまり、あたしのミルホッグと戦う覚悟が出来たって事だろう?
 それなのに、トレーナーのアンタがその想いを汲み取ってやらないでどうするのさ。
 信じてるんだろう?ヒトモシを」
「勿論です!!」

間髪入れずに答えたリオに、アロエは満足気に口角を上げる。

「それなら見せておくれ。アンタと、その子の愛を」

リオはヒトモシに視線を下ろす。
震えて動けなくなる程に恐がっていたミルホッグを、ヒトモシは目を逸らさずに、真正面から
見つめていた。
その姿は4年前のあの日とも、初めてアロエのミルホッグを前にした時とも違っていた。

「克服なんか出来なくて良い。ゆっくり進んで行こう。恐いと思うけど、私達のバトルを
 最後まで見てて欲しい。……私はまた、無意識に貴女を傷付けてたのね。貴女は私よりずっと
 強かったのに」

ヒトモシが振り返り目と目が合い、リオはしゃがんでヒトモシの手をそっと握る。
この確認は今しか出来ない、何よりも優先すべきだ。
ドキドキと高鳴る心臓に、ヒトモシと出会った時に戻ったみたいだと思った。
だからこそ、リオはヒトモシに問う。

「不甲斐ない私だけど……友達として、家族として。これからもずっと一緒に居てくれる?」

言い終わったと同時にヒトモシがリオに抱き着いた。
リオの目が大きく見開かれ、大粒の涙が零れる。
涙の痕を拭う様に、ヒトモシは手を伸ばしてリオの頬を優しく撫でる。

「……ありがとう。ありがとう、ヒトモシ」

最後にヒトモシをぎゅっと抱き締める。
袖で涙を拭って立ち上がったリオの表情はサッパリしていて、晴れ晴れとしていた。


「お待たせしました、アロエさん。私の最後のポケモンは——ヒトモシです!」
『モシ!!』
「——そうこなくっちゃね。キダチ!」
「はい。それでは……試合再開!」
「ヒトモシ!《弾ける炎》!」

ヒトモシは一回転すると、火花を纏った紫色の炎をミルホッグへ飛ばす。
その炎は、サンヨウジムの時より遥かにパワーアップしていた。

「迎撃するよミルホッグ!《火炎放射》だ!」

しかしその炎も、ミルホッグの《火炎放射》に打ち消される。

「《鬼火》!」

ヒトモシは今度は頭の炎から火の玉を数個生み出し、一気に放つ。
不規則な動きをしながら、数個の火の玉がミルホッグへと向かう。

「そういう動きなら……もう1度《火炎放射》だよ!」

ミルホッグは後ろへ跳んで地面に頭を付けると、尻尾で勢いをつけてコマの様に回って火を吹く。
その事で炎は四方八方に漂っていた《鬼火》を全て掻き消し、ヒトモシにも命中した。

「ヒトモシ、大丈夫!?」

身体に付着した残り火を振り払い、笑顔で頷いたヒトモシにリオはほっと息を吐く。

(ヒトモシはゴーストタイプだから《敵討ち》が効かないのは有り難いけど《火炎放射》が
思った以上に厄介だわ。こっちの攻撃が通らない。ミルホッグがゴーストタイプ対策でハーデリアと
同じ技を覚えている可能性もあるのに……せめて、ミルホッグの動きを封じる事が出来れば、)

「どんどん行くよ!《噛み砕く》!」

リオが思案している間にも時間──バトルは流れる。
体を起こしたミルホッグの前歯が、音を立ててヒトモシの体に食い込む。
それでも大きなダメージになっていないのは、やはりチラーミィのお蔭だ。

(成功するか分からない……ううん、違う。ヒトモシなら成功する。誰が無理だと思っても、
私だけはヒトモシを最後まで信じるのよ!)

「ヒトモシ!《スモッグ》!」

ヒトモシは口から黒い煙を吐く。
驚いたミルホッグは、ヒトモシに食い込ませていた前歯を離して距離を取る。
煙はあっという間にフィールドを覆い、視界を悪くした。

「煙の中に姿を隠そうって魂胆かい?だけど甘いよ!ミルホッグ!」

ミルホッグはお腹の縞模様を光らせる。
すると《スモッグ》は晴れないものの、光に照らされてヒトモシのシルエットが浮かび上がった。

「そこだ!《火炎放射》!!」
「躱して《ーーー》!」

リオの後半の言葉は聞こえなかったが、攻撃を躱された事と火の玉の様なシルエットと
不規則な動きを見て、アロエは直感で《鬼火》と判断した。

「この数なら避けきれるね。ミルホッグ、動きを観察して躱すんだ。煙が消えたら仕掛けるよ!」

ミルホッグは身構え、回避する為に足に力を入れる。
その時、ミルホッグが足を滑らせて顎を派手に打ち付けた。

『!』

そこへ畳み掛ける様に、倒れたミルホッグの腕と足に残りの火の玉──否、冷気を帯びた
水色の球体が当たり、凍らせた。

「これは……!」
「ヒトモシの《目覚めるパワー》です」

充満していた煙が晴れ、リオとヒトモシ、そして氷漬けになったフィールドが姿を現す。

「《スモッグ》はヒトモシの姿を隠す為の物じゃなくて《目覚めるパワー》を《鬼火》だと
 勘違いさせる為に使いました。形が分かっても《スモッグ》がある程度の光を遮るから、
 正確な色までは分からないかなと思って」
「……先入観に囚われたあたしの判断ミスって訳だね」

リオの言葉にアロエは自嘲する様に微笑する。

(それにしても、リオ。アンタって子は本当に頭のキレる子だね!)

「今度は《鬼火》!」
「《火炎放射》で打ち消すんだよ!」

ヒトモシが頭の炎から飛ばした数個の火の玉に対し、ミルホッグは顔を上げて口から火を吹き出すが、
手足は凍らされて固定されている為、最初に《鬼火》を完封したあの動きは出来ない。
打ち消し損ねた《鬼火》はミルホッグに命中し、ミルホッグを火傷状態にした。

「くっ……!」
「一気に畳み掛けるわよ!《弾ける炎》!」

藻掻くミルホッグに、大きく火花を散らしながら紫色の炎が迫る。

「《敵討ち》!」

ミルホッグは苦痛に顔を歪ませながら咆哮すると、手足に力を込める。
間近に熱を帯びた炎が迫ってた事もあり、手足を捕らえていた氷は砕け、ギリギリの所で攻撃を回避する。

「《噛み砕く》!」
「《目覚めるパワー》!」

口を開けた所に冷気を帯びた水色の球体を叩き込む。
しかしそれに怯む事なく、ミルホッグもまた、前歯でヒトモシを噛み砕く。

『『——』』

互いに疲労困憊、次で勝負が決まる状態だった。

「ヒトモシ」

リオを振り返り、ヒトモシは静かに頷いた。

「そうね。……私達は、絶対に最後まで諦めない!《弾ける炎》ッ!!」

ヒトモシは一回転して、今までで1番大きな炎を飛ばす。
バチバチと火花を散らして、紫色の炎がミルホッグへと飛んで行く。

「迎え撃つよミルホッグ!《火炎放射》だ!!」

それに対抗して、ミルホッグは口から高音の炎を吹く。
そして──


「えっ……!?」

リオが大きく目を見開いた。
ヒトモシが放った紫色の炎が火花を激しくして突然、巨大な竜巻の様に大きく膨れ上がったのだ。
そして勢いを増した炎はミルホッグの《火炎放射》を飲み込み、ミルホッグを包み込む。

「これは──!?」


アロエの声は、激しく燃え上がる火柱の音で掻き消された。