二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 3章 戦い ( No.6 )
日時: 2020/06/23 15:27
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

突如現れたミルホッグの群れに、リオ達は為す術も無くあっという間に取り囲まれてしまった。

「ど、どうするリオ」
「じっとしてよう。ミルホッグ達も、戦う気は無いみたいだし」

ミルホッグ達はリオとアキラをジロジロ見ているだけで(それでも目付きの所為でかなり恐いが)、
一切攻撃をしてこない。
きっとこの付近はミルホッグ達の縄張りで、ずっと滞在していた自分達を不審に思ったんだろう。
それなら自分達が無害だと証明する為にも大人しくしておいた方が良い。

それが、リオの出した答えだった。

ヒトモシはというと、目を瞑って小刻みに震えている。
ミルホッグ達が姿を現してからずっとこんな調子だ。

(突然攻撃して来ただけでも恐いのに、自分より大きい相手がこんなに沢山居るんだもん。
恐いのは当たり前よね……)

ヒトモシの為にも早くこの場から抜け出したいという気持ちと、焦ったらダメだという気持ちが
リオの中で交差する。

『……』

無害だと分かったのか、1匹のミルホッグが道を開けた。


——刹那。


リオの横を白い球状の物が飛んで行き、道を開けたミルホッグに当たった瞬間——爆発した。
突然の出来事にミルホッグ達は勿論リオとアキラも反応が遅れたが、黒焦げになって目を回している仲間を
見た瞬間、ミルホッグ達の敵意は一斉にリオ達に向けられた。

「違う!俺達がやったんじゃない!!」

アキラが誤解を解こうと前に出るが頭に血が上っているのか、ミルホッグの1匹が飛び上がり鋼鉄の尻尾を
アキラ目掛けて振り下ろそうとした。

「アキラ!!」
「《熱風》じゃ!」

尻尾がアキラに当たる直前に、リオでもアキラの物でもない低い声が辺り一面に響いた。
そして間髪入れず、尻尾を振り下ろそうとしていたミルホッグを熱を帯びた風が襲った。
突然の襲撃に防御が間に合わなかったミルホッグは吹き飛ばされ、そのまま戦闘不能となった。


「無防備な子供と恐がっておるポケモンに対し大勢で襲うとは……恥を知れ!」

声のする方を振り返ると、塔から1人の人物が出て来た。
茶色のシャツとくすんだ黒のズボンに使い古したサンダルを履き、鼻の下に生えた立派な髭と
太陽が無くともキラリと眩しく光り輝く頭。
その傍らには黄金色の美しい毛並みと長い9本の尾を持つポケモン——狐ポケモンのキュウコン。

「お、お爺ちゃん!」
「ムトーさん!?」

それは間違いなく、リオの祖父であるムトー本人だった。

「ん?何じゃリオか!てっきりアキラ君の男友達かと思ったわい!」
「確かにズボン履いてるけど……」

眩しい笑顔で言う祖父に(ついでに頭も眩しい)リオは肩を落とす。
自分でも女らしさが欠けている事は自覚していたが、流石に男と間違えられるのは凹む。
しかも毎日顔を見合わせている身内に。

「楽しんでるとこ悪ぃけど、ゆっくり話してる場合じゃなさそうっすよ」
「おお!そうじゃった」

アキラの言葉で思い出したかの様にミルホッグ達と対峙するムトー。
かなりのマイペースっぷりである。

「キュウコン、先程は挨拶代わりじゃったが今度は本気で《熱風》じゃ!」

キュウコンは口を開けるとミルホッグ目掛けて熱を帯びた息を吐きだす。
その息は先程の物より数倍も熱く、攻撃が当たったミルホッグは戦闘不能に、攻撃が掠っただけの
ミルホッグも体に軽い火傷を負った。
半分以上に削られた戦力に焦ったのか、ミルホッグ達は顔を見合わせると一斉に手を回し始めた。

「む?あの動きは《催眠術》か。キュウコン、目を閉じるんじゃ」

ムトーは指示と同時に目を閉じる。
それを確認したキュウコンもまた、ムトーと同じく目を閉じた。

「確かにミルホッグの動きを見なけりゃ大丈夫だとは思うが……」
「でもお爺ちゃん!それだと何も見えないわ!電気技を使うミルホッグも何処かに居るみたいだし、
 目は開けておいた方がっ」

多くの敵を前にして視界を絶つなど、攻撃をして下さいと言っている様な物だ。
見守る事しか出来ないリオは半ば叫ぶ様に言う。


「慌てるでない、リオ」

静かに制したムトーに、リオは口を閉じる。

「わしはお前達に比べれば遥かにトレーナー歴が長い。色々なポケモンと出会い、バトルもして来た。
 当然、ミルホッグともな」

リオとアキラはムトーの話に耳を傾ける。
少し前まで狼狽ていたのが嘘の様に、静かに。

「何度も同じポケモンと戦っていると、自然とそのポケモンの癖や行動パターンが見えて来る。
 それを逆手に取り、自分の流れへと変える……これほど愉快な物は無いじゃろう?」

目を閉じたまま笑みを浮かべるムトーとキュウコンに、リオ達は言葉では言い表せない、
圧倒的な力を感じた。

「例えばミルホッグの癖は、」

《催眠術》が効かないと分かるや否や半数のミルホッグが歯を剥き出して、残りのミルホッグは
各々尻尾を硬化させ、黒い塊を生成してキュウコンとムトーに襲い掛かる。

「成程。ならば《エナジーボール》」

しかしムトーは目を閉じたまま3匹のミルホッグの攻撃を躱すとキュウコンに指示を出す。
キュウコンもまた同じ状態で口から緑色の球体を数個出現させ、全弾ミルホッグ達に命中させる。

「ど、どうして?2人共目を瞑ってるのに、まるで居場所が分かってるみたい……!」
「そうか、音だ!」
「音?」
「ああ。ミルホッグは戦う時、尻尾を上下に動かして背中に打ち付ける癖があるんだ。
 自分を奮い立たせる様にな。ムトーさんはきっと、その時に鳴る音を頼りに
 ミルホッグの居場所を特定してるんだ」

ミルホッグを見ると、確かにアキラの言う通り大半が尻尾で体を叩いている。

「でもバトル中だと色んな音がしてそんな小さな音、聞こえ辛いのに……」
「俺達には聞こえないけどムトーさんには聞こえてんだろ。経験の差ってヤツだな」

そう呟いたアキラは尊敬の眼差しをムトーに向ける。
しかし言葉とその眼差しとは裏腹に、リオにはどこか悔しがってる様に見えた。

気が付くとムトー達の周りには気絶したミルホッグ達が転がっていて、起き上がっているのは
1匹だけとなっていた。

「お前さんで最後じゃぞ。どうする、降参するか?」

ミルホッグが怒りの形相で歯を伸ばして飛び掛る。
ミルホッグの《怒りの前歯》だ。


「そうか。ならばキュウコン!《神通力》で終いじゃ!!」

キュウコンの体が紫色に光り、飛び掛ろうとしたミルホッグを天高く吹き飛ばす。
宙を舞ったミルホッグは地面に叩き付けられて暫く身じろいだが、そのまま戦闘不能となった。


ミルホッグ50匹との戦いは、ムトーとキュウコンの勝利で幕を閉じたのだった。



リオとアキラ、ヒトモシのピンチを救ったのはまさかのリオのお爺ちゃんでした。
最初はリマを助けに行かせようかと思いましたが、ゲームのあるセリフを思い出し、
急遽ムトーさんに変更しました。
ヒトモシが活躍してませんが、恐がってるので仕方ありませんね。
では長話もこれくらいにして(本編がかなり長くなったので)
次回もお楽しみに。