二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 4章 動き出す ( No.7 )
日時: 2020/06/23 15:57
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

「お爺ちゃん凄い!あんなに居たミルホッグ達を全部倒しちゃうなんて!」
「これこれ、落ち着きなさいリオ」
「俺と居る時は冷静で堅っ苦しいのにな。何だ、ギャップ萌えでも狙ってんのか〜?」

けらけら笑うアキラを持っていたモモンの実を口の中に突っ込む事で黙らせる。
ここで鞄の中にあったマトマの実を突っ込まなかったのはリオの良心だろう。
ヒトモシはミルホッグが気絶した事により安心したのか、今はキュウコンの尻尾を弄って遊んでいる。

「それに全部は倒してはおらんわい。厄介な者に逃げられた」

悔し気に髭を撫でるムトーにアキラは首を傾げる。

「厄介な者ってどんな奴っすか?」
「リオが忠告してくれたじゃろう、電気技を使うミルホッグが居ると。遠距離持ちは厄介じゃから
 戦いながらその者を捜したが、見付からなかった。恐らく他のミルホッグに攻撃を任せ自分は
 安全な場所から指示しとったんじゃろう。そういう狡賢い者ほど野放しにしておいたら後々
 面倒なんじゃ。またいつ悪さを仕出かすか……」

唸るムトーだったが、すぐに諦めたように息を吐いた。

「しかし逃げられてしまったものは仕方ない。今度会った時に悪さをしとったら、
 再びお灸を据えてやるとしよう。のう、キュウコン?」

キュウコンにウインクするその姿は、先程まで戦っていた人物とは思えないほど茶目っ気たっぷりだ。

「コホン……さて、と。ミルホッグについては一件落着したっつー事で、続きやんないとな」
「続き?何の?」

リオはこの際肩を抱いているのは無視して、アキラの顔を見る。

「だーかーら!さっきの続きだよ。チビ助の返事、聞いてねぇだろ?」
「あ、そうだった。ヒトモシ」

リオが呼ぶとヒトモシは遊ぶのをやめ、よちよちと覚束ない足取りでリオの足元まで来る。

「さっき言おうとしてた事の続きなんだけどね」

ヒトモシはリオの目を見つめる。


「あなたさえよければ、私と友達に……きゃっ!」

言い終わるより先に、ヒトモシはリオに抱き着いた。
その小さな目から大粒の涙を零して。

「返事は聞くまでもなかったみたいじゃな」
「よっぽど嬉しかったんっすね。俺、ヒトモシが泣くとこ初めて見ましたよ。仲間が周りに居て、
 いつも笑ってるヒトモシが泣くなんて……」

泣き止まないヒトモシをあやす様に、背中を優しく撫でるリオを見ながらアキラは笑う。

(出会って3時間程度しか経ってないのが嘘みたいだな。リオが相手だから、かな)


「回復したら一緒に家に帰ろう。これからはずっと一緒だからね」
『モシ!』
「リマ達も待っておる。遅くならぬうちにポケモンセンターへ急ぐとしよう」
「はい」

ムトーはキュウコンをボールに戻してリオ達を促す。
最初にアキラが動き出し、リオもヒトモシを抱き直して歩き出す。

「!」

2、3歩歩いた所で突然リオが振り返った。
後ろに居たムトーは衝突しない様に足を止め、目を瞬かせる。

「どうしたんじゃリオ」
「え、あ、ううん。何でもないの」

(今、誰かに見られていた様な……)

しかし自分の後ろに居るのは祖父だけで他には誰も居ない。

「リオー!ムトーさーん!」

(気のせい、よね)


「今行くー!」

リオは前を向くと手を振るアキラの近くまで走って行く。
じゃれ合う2人の姿に和んでから、ムトーは後ろに聳え立つ塔を見上げる。


「また来年来るからの、モンメン」

笑顔で手を振ると、ムトーは先を行く2人の後を追いかけた。



「……チッ」


その時リオ達の後姿を見ている者が居た事など、リオ達は知る由も無い。


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帰り道は割りと楽で、ヒトモシの回復を済ませたリオ達はあっという間に家に着いた。
そしてリオがドアを開けた瞬間、オボンの実が顔面目掛けて飛んで来た。

(こんな事をするのは1人しか居ない)

飛んで来た実を手で受け止め、後ろに居たアキラに手渡す。
その際「俺にどうしろと……食えってか?食って良いのか?」という、困惑したアキラの呟きが
聞こえた気がするが、今は気のせいにしておこう。


「いきなりは酷いんじゃない?お姉ちゃん」
「そうよマオ〜当たったら痛いじゃない」

母にまで軽く注意され、胸の位置まで伸びた緩くウェーブがかった金髪を指先でくるくると
弄っていたリオの姉であるマオは、挑発的な笑みを浮かべたまま妹を見た。
赤い瞳がギラり、と光る。

「私は悪くないわ。お爺ちゃんは兎も角、妹のアンタが姉である私を待たせるのが悪いの。
 よって、悪いのはアンタよ」
「あー、うん……何かもうそれで良いや」

長い足を組み直して開き直る姉にリオは諦めて椅子に座る。
そこでふと、アキラが家の中に入らないのに気付き、声を掛ける。

「どうしたのアキラ。入らないの?」
「いや……俺、今日はもう家に帰るわ」
「残念ね〜でもまたいらっしゃい。アキラ君ならいつでも大歓迎よ〜」
「ありがとうございます。では、俺はこれで」
「なっ、ちょっと待ってよ!ごめんお母さん!私、途中まで一緒に行って来る!」

頭を下げて背を向けたアキラの後をリオは追った。



「俺さ、今日の事で思い知らされた。知識だけじゃ何も出来ねぇんだって」

アキラは【ホドモエの跳ね橋】を歩いている途中で立ち止まり、空を見上げて呟いた。
いつもより声のトーンも低く、落ち込んでいるのが分かった。
しかし、それはリオも同じだった。

「私だってそうよ。ヒトモシが恐がってたのに何も出来なかった」

握り拳を作るリオを一瞥して、アキラは持っていたオボンの実をリオに投げ渡す。

「俺、いつかポケモントレーナーとして旅に出る!もっとこの世界を知りてぇんだ」
「私も。ヒトモシと一緒に色んな所に行きたい……冒険したい!」
「あ!旅に出る時は俺にも連絡しろよ?俺もすぐ準備して旅に出っから」

ビシィッと指を突き立てるアキラに溜息を吐く。

「別に待ってなくて良いのに」
「バーカ、それじゃあフェアじゃねぇし面白くねぇだろ?スタートは同じじゃねぇと」
「な、何でよ」
「俺達は幼馴染で親友で……ライバルなんだからな」

暫く沈黙が続いたが、少し経ってからお互いに噴出す。
気付けば、空はオレンジ色に染まっていた。



同刻——

「成る程、失敗したんだねぇ」
「も、申し訳ありません!ミルホッグを忍ばせ、野生のミルホッグ達を誘導するまでは
 順調に行っていたのですが邪魔が入りましてっ、折角ミルホッグまで貸して頂いたのに……!」
「無傷でミルホッグを連れ帰ってくれただけでも充分だよ。深追いしても良い事なんて
 な〜んにも無いからねぇ」

白衣の男は首を垂れる男からモンスターボールを受け取り机の上に置く。
そして傍にあった写真を手に取ると薄気味悪い笑みを浮かべた。

「それで……いかがいたしましょうか?」
「その件については保留で良いよ。それより僕らはこっちを優先しようね」
「はっ!」

首を垂れていた男が出て行ったのを確認して、白衣の男は写真に写った人物を撫でる。


「そのうち、向こうから来てくれるだろうしねぇ」

写真を机の引き出しに入れ、白衣を翻し男は部屋を出た。


今回、遂にリオとヒトモシは友達となり、一緒になる事になりました!
そしてアキラとリオはポケモントレーナーとして、いつか旅に出る決意をしました。
……なんだかここに至るまでかなり長くなりました。
長くしたのは自分なんですがね。
前回に引き続き長くなりましたが、次回もお楽しみに。