二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 37章 リオvsアーティ③ ( No.72 )
- 日時: 2018/02/13 15:58
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
「さぁ、次は誰で来るのかな?」
挑発的な笑みを浮かべるアーティ。
(落ち着いて…私が焦ったら皆不安になっちゃうし、バトルに支障が出る)
リオは深呼吸すると濡れた前髪を掻き上げ、負けじと口角を上げる。
「…次はこの子で行きます。出て来て、ヒトモシ!」
リオが繰り出したのはパートナーのヒトモシだ。
「先手必勝!ヒトモシ鬼火!」
出て来て早々、ヒトモシは紫色の火の玉を5個、イシズマイに飛ばす。
(ヒトモシが苦手な岩タイプの技と、チラーミィを翻弄する程のスピードを持つイシズマイは強敵。
でも火傷状態にすれば攻撃力も半減するし、動きも鈍くなるかも…)
不規則な動きをした火の玉が、イシズマイへと飛んで行く。
「イシズマイ。ギリギリまで引き付けて躱すんだ」
『イーマイッ!』
話している間にも、火の玉は近付いて来る。
そして鬼火との距離が1メートルまで縮まった所で、イシズマイが動いた。
右、左、伏せて、ジャンプ。
イシズマイは踊るように、飛んで来る鬼火を次々と躱して行く。
重い岩を背負っているとは思えない軽やかな動きに、リオ達は呆然とする。
(やっぱり、あのスピードには敵わないの…?)
リオが開いていた口を結んだ、その時──想定外の事が起こった。
最後の鬼火がイシズマイに命中したのだ。
「!」
「え…?」
火傷状態になり、苦し気な表情を浮かべるイシズマイ。
今までイシズマイの素早い動きを見て来たリオは、目の前の光景が信じられないでいた。
『シモ!!』
「…っ!弾ける炎!」
そんなリオをヒトモシが呼び覚ます。
我に返ったリオは生まれ始めた疑問を一時的に頭の片隅に追いやり、指示を出す。
ヒトモシは準備が出来ていたのか、間髪入れず頭の炎から大きな炎を発射する。
花火のような音を立てながら、炎は項垂れているイシズマイに直撃した。
「…手応え、あり!」
リオは小さくガッツポーズする。
(防御に長けているイシズマイだけど、それに反して特防は低い──今の攻撃は、相当効いたはずよ!)
しかしそんなリオの目に映ったのは、緑色の光に包まれたイシズマイだった。
「!?これは…」
「イシズマイの《守る》さ。この技は、相手のどんな攻撃も受け付けない。正に強い根性ハートを持つ
イシズマイに相応しい技だろう?」
アーティの言うように、イシズマイは全く攻撃を受けていない。
「確かに厄介な技ですね…でも、それなら当たるまで攻撃あるのみです!」
「!」
アーティは驚く。
目の前の少女の瞳に闘志が戻って──否、更に強い闘志が宿っていたからだ。
少し前まで自分の言葉に反応しては絶望的な顔をしていたというのに。
(まったく…これだから子供は恐い。《諦め》という言葉を知らないんだから)
「もう1度、弾ける炎!」
「シザークロス!」
イシズマイはハサミを交差させ、炎の中に突っ込む。
《シザークロス》の勢いを利用してヒトモシを斬りつけるが火傷状態で威力は半減、
しかもゴースト・炎タイプのヒトモシに虫タイプの技は効果は今一つだ。
普段のアーティからは考えられないミスだ。
逆にリオは闘志を燃やしてはいるが、頭の中は驚くくらい冷静だった。
(チラーミィが降らせた雨が、色んな不安を洗い流してくれたのかな)
…ポツッ
「冷たっ!…雨?」
しかしこのジムは天井が開いた開放的なジムでは無いので、雨が降って来る事は無い。
不思議に思い上を見ると天井には水滴がたくさん付いていた。
(あれは多分チラーミィの《アクアテール》で飛んだ水ね…それが時間を掛けて落ちて来、)
リオはそこで考えを止める。何かが、引っ掛かる。
(イシズマイのスピードが落ち始めたのって…)
「撃ち落とす!」
「スモッグ!」
リオが考えるのを邪魔するようにイシズマイは大きな石を投げ付ける。
しかしバトルをしている時のリオは普段とは違い、切り替えが早い。
直ぐに指示を出すとヒトモシもまた、瞬時に口から黒い煙を吐いた。
『?イママイ…?』
「当たった、のか…?」
石を投げ付けたのと煙が発生したのはほぼ同時。
標的であるヒトモシに命中したのか外れたのか、アーティ達には分からない。
分かるのはヒトモシのトレーナーであるリオだけだ。
「目覚めるパワー!」
「!」
「やはり、避けられていたか…!イシズマイ、守る!」
イシズマイは攻撃に備え緑色の光で自分を包む──が、いつまで経っても攻撃は来ない。
やがて煙が晴れ、ヒトモシの姿が露になる。
「…どうやら煙で相手の居場所を特定出来なかったのは、ボク達だけじゃ無かったようだね」
「いいえ。ヒトモシは生命エネルギーを辿る事が出来るので、煙の中に居てもイシズマイの位置は
把握出来てました」
「そうなのかい?…なら、何で攻撃して来なかったんだい?」
「攻撃した所で躱されるのは目に見えてますから。だから、攻撃が当たる確率を上げる事にしました」
首を横に振った後に出た言葉に、ピクリ、と眉を上げるアーティ。
リオの言葉の真意が分からない。彼には判断を誤った事を誤魔化すための、
只の言い訳にしか聞こえなかった。
「…まぁいいや。キミの戦略は読めなかったけど、そろそろ決めさせてもらうよ」
「はい!ヒトモシ、弾ける炎!」
ヒトモシは走りながら火花を帯びた炎を発射する。
しかし狙いが定まらなかったのか、炎はイシズマイの頭上ギリギリを通る。
「残念、外れだ…回り込んで、撃ち落とす!」
アーティは勝利を確信し、指示を出した──
ポツ、ポツ、ポツ。
その時、音を立ててたくさんの水滴が天井から落ちて来た。
「何だ、この水は?…!イシズマイ!?」
『イ、マイマ…』
イシズマイはヒトモシに攻撃するどころか、後ろに回り込んでさえいなかった。
(火傷である程度ダメージを受けているとはいえ、このスピードの落ち方は……)
そこでアーティは天井を見上げる。
「!まさか…」
「砂が水を吸って重くなるように、イシズマイの岩が軽くても、水を吸い取ればその分重くなる…
チラーミィが教えてくれた突破口です!ヒトモシ、目覚めるパワー!」
ヒトモシは水色の冷気を帯びた球体を自分の周りに浮かび上がらせ、一斉にイシズマイへと放つ。
水で濡れた箇所が《目覚めるパワー》の力で凍り、身動きが取れなくなったイシズマイはその後も
攻撃を受け続け、とうとう後ろへ倒れた。
「イ…イシズマイ、戦闘不能!ヒトモシの勝ち!」
審判の判定が下る頃には雨は止み、代わりに暖かい日差しが差し込んでいた。