二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 40章 休息 ( No.78 )
日時: 2020/09/07 23:25
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

ジム戦を終えたリオとアーティは、傷付いたポケモン達をジョーイさんに預け、
今は回復待ちと渇いた喉を潤すため【噴水広場】のベンチに座って飲み物を飲んでいた。

「リオちゃんはこの後どうするんだい?」

缶コーヒー片手に尋ねたアーティに、リオは飲んでいたサイコソーダから口を離す。

「今日はもうポケモンセンターに戻って休みます。明日はこの街を観光して、出発するのは
 明後日にしようと思います」

(最近バトル続きで皆も疲れてるだろうし、ヒトモシ達を休ませてあげられる良い機会だわ)

立ち上がり、腰に手を当てて男らしく一気にサイコソーダを飲み干して(それにアーティが目を剥いたのを、リオは知らない)、ライブキャスターを取り出す。

「あ、もうこんな時間。私、そろそろヒトモシ達を迎えに行きます。アーティさんは?」
「ボクはもう少し──そうだ。待ってリオちゃん」

立ち上がったリオの手を掴む。
リオは疑問符を浮かべ、ベンチに座っているアーティを見下ろす。

「ボクのジムにある、あの蜜の壁。やっぱり改良した方が良いかな?」
「うーん。蜜の壁を突き破るなんて滅多に味わえない貴重な体験で面白いし、ハチミツから
 虫ポケモンを連想出来て、いかにも虫タイプのジムらしくて良いと思うので、個人的には改良は
 必要無いと思うんですけど、他の挑戦者──特に女の人がどう思うか……あ、全ての女性が
 嫌がるとは言いませんよ?魅力的なジムだし気に入る挑戦者も居ると思います!」
「そ、そっか」

自分の意見を語った後に力強くフォローしたリオからアーティはそっと目を逸らす。
キラキラと輝く満面の笑顔で嬉しくなる様な事を言ってくれたリオに悟られぬ様に、アーティは
喜びでだらしなく緩んだ口を缶コーヒーを飲むフリをして隠す。
リオはと言うとアーティの僅かな変化に気付かず、缶を缶用ゴミ箱に捨てていた。
それにホッと息を吐き、リオが戻って来たタイミングでアーティは口を開いた。

「うん、リオちゃんの言葉は嬉しいけど……そうだよねえ。挑戦者が減っても困るから、本物の
 蜜じゃなくて何か別の——例えば、ローヤルゼリーの壁にしようかな」
「あ、それ、良いと思います!」
「そう?じゃあ、帰ったら早速ジム内装のデザインを変えないとね」
「Σ決断すんの早っ!!」
「はははっ」

悩みが解決したのか、アーティはいつも通り爽やかに笑う。

「引き止めて悪かったね。ボクはもう少し休んでからポケモンセンターに向かうよ」
「そうですか?それじゃあ、お先に失礼します!」

ぺこり、と頭を下げてリオはにっこり笑うとポケモンセンターに向かって歩き始める。
そんなリオの背中を、アーティは目を細めながら見続ける。

(彼女は年齢にそぐわない洞察力を持っている。そしてボク達ジムリーダーにも思い付かない様な
戦略と、強運を持っている)

アーティはアロエ戦で見せた相手の先入観を利用したリオの戦略とヒトモシが出した《煉獄》、
そして今日の自分との戦いを振り返る。

(今はまだ子供で知らない事も多いけど、これから先バトルの知識と経験を重ねれば


──彼女は化けるぞ)


そう考えたら震えが止まらなかった。
恐怖ではなく、それは歓喜に似ていた。
未知なる虫ポケモンに出会った時の様な、そんな感覚だった。

「……キラキラしてるなあ」

いつの間にかリオの背中を見続けるアーティの視線は熱く、それこそ蜜が蕩ける様な甘い甘い物へと
変わっていた。
そんな視線の変化に、向ける方も向けられる方も最後まで気付く事は無かった。


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数分後……


「あの、ジョーイさん。今日も泊まって行って大丈夫ですか?」
「勿論良いですよ!じゃあ、部屋の鍵を渡しておきますね」

ポケモンセンターに戻って来たリオはヒトモシ達のボールと〈33〉と書かれた客室の鍵を受け取り、
部屋に向かって歩いていた。

「33号室は、と……あった、ここね」

指定された部屋に入って鍵を掛ける。
ボールを机の上に置き、リュックと脱いだパーカーを椅子の背凭れに掛けて、ベッドの上に寝転がる。

「おやすみ、皆……」

小さく欠伸をして、リオは深い眠りへと堕ちて行った。


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次の日。

リオは33号室でヒトモシ達をボールから出し、お互い街の人に迷惑を掛けない様に注意しようと
誓い合ってから、ヒトモシ達と共にヒウンシティを観光していた。
1日10食限定のヒウン名物・ヒウンアイスを皆で分け合って食べたり、マッサージを受けに行ったり、
カフェでミックスオレを貰ったり……

リオ達は、久々に羽を伸ばして観光を楽しんでいた。

「色んな絵があるのねー……」

そして今リオ達が居るのは、様々な絵が飾ってある【アトリエヒウン】という建物だ。

「オー!!」
「!?」

絵を見て歩いていると、ヒウンジムのヨウスケ達と同じ格好をした男が早足で近付いて来た。
そして目の前まで来たかと思えば、急にヒトモシを抱き上げた。

「なっ、何ですか!?」

驚きで硬直するヒトモシを男の手から救い出し、抱き締める。
チラーミィ達も、怪しさの塊の様な男に敵意を向ける──が、男は突き刺さる視線を物ともせず
ヒトモシを見つめる。

「んー、良いね!インスパイアされるよ!」
「飲……酸っぱいや?」

聞き慣れない単語に首を傾げていると、男が喋り始めた。

「あ、急にごめんねー!ミーはちょいと絵を嗜んでいるんだけど、今日は炎タイプのポケモンを描きたい!
 そう思っていた所にきみが来たから、つい興奮しちゃった!」
「は、はぁ」

早口で捲し立てる男にリオは相槌を打つ事しか出来ない。

「そこでお願い!絵を描くのに、きみのヒトモシをちょいと借りたいよ!」

ずいっと迫って来た男に、リオは目を泳がせる。
リオは誰に対しても動じなそうに見えて、実はこういう押しが強い相手には弱かったりする。
付き合いの長さからか、何故か幼馴染の押しには全く屈しないが。

暫く顔を背けていたリオだったが、遂に折れた。

「……分かりました。じゃあ、絵を描き終わるまでここで待ってます」
「うーん。それはちょっと無理よ!」

まさかの却下にリオは目を丸くする。

「静かにしてても無理ですか?」
「ミーと同じ芸術家に見られるなら兎も角、モデルのポケモンのトレーナーさんに近くで見られてたら、
 何だか落ち着かないね!1時間……いや、30分で完成させるから、それまで外で待っててほしいねー」
「で、でもヒトモシ1人を残して行くのは……」
「話は聞かせて貰ったよリオちゃん」
「Σアーティさん!?」

入り口の壁に寄り掛かり優し気な眼差しでリオを見ていたのは、ジムリーダーであると同時に
芸術家でもあるアーティだった。

「昨日ぶりだね。ヒウンシティを堪能しているかい?」
「あ、はい。とても広くて充実してるから皆と楽しんでます。アーティさんはいつからそこに?」
「リオちゃんがそこの彼の熱意に折れた辺り。ボクは気分転換で此処に来たんだけど、」

アーティがリオの前に立ち、リオの顔をじっと見つめる。
リオもじっとアーティの顔を見つめていたら、包み込む様にアーティに手を握られた。

「まさかリオちゃんが居るとは思わなかった。会えて嬉しいよ」
「ありがとうございます。私も会えて嬉しいです」

本当に嬉しそうに笑うアーティにリオも嬉しくなる。

(私みたいな子供にも優しくしてくれるし、本当にジムリーダーの人達は素敵な人ばかりだわ)

「あの、トレーナーさん。そろそろ外に出て貰っても?」
「ヒトモシの事は心配いらないよん。ボクが責任を持って見守っているからね」

笑顔で親指を突き出したアーティに、リオは安心して頷いた。



「今から30分か……」

じっとしているのは性に合わないので、絵が完成するまで外で過ごす事にしたリオ。
現在の時刻を確認する為にライブキャスターを手に取る。

「あれ?」

リオは目を瞬かせる。
昨日までは普通に機能していたライブキャスターの画面が灰色に染まり、壊れたテレビの様に
ノイズが入っていたからだ。

「電波が悪いのかしら?」

リオはキョロキョロと街を見渡す。
何人かトレーナーが通り過ぎたが彼等のライブキャスターは正常で、ポケモンセンターの上に
設置されている大型テレビの映像も乱れていない。

(故障?でもコレ、10歳の誕生日にお母さんに買ってもらった新品……)

どうしたものかとリオが溜め息を吐いた時、南側のゲートから叫び声が上がった。


「ヒトモシと、ライブキャスターの事が気掛かりだけど——行ってみよう!」

リオは声のした方に向かって走った。