二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re:44章 涙<笑顔 ( No.83 )
- 日時: 2018/02/13 16:43
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
2人の間に沈黙が続き、気まずくなったリオは地面を見つめる。
どのくらい時間が経っただろうか──否、もしかしたら1分も経っていないかもしれないが。
アキラは黙ったままのリオの頭に手を置く。
リオの肩が小さく跳ねる。
「…んな顔すんなって。まだ望みはあるし、そんな悲観的に考えるなよ」
「え……?」
ゆっくりと顔を上げると、先程とは違う、柔らかい笑みを浮かべたアキラが居た。
「おふたりさぁ〜ん。話は終わった?」
「Σうぉわっ!?」
アキラの言う望みとは何かリオが聞き返すより先に、楽し気な声が耳に入る。
咄嗟にアキラはリオの頭に置いていた手を離し、後ろを向く。
そこには案の定、ニヤニヤと口許を緩めているアヤネが居た。
「…コホン。待たせて悪かった、もう大丈夫だ」
「そう?じゃあ時間も限られてるし入りましょうか」
笑顔のアヤネを筆頭に、アキラとリオはドーム状の建物の中へと入った。
【ビッグスタジアム】──普段サッカーやアメフト、野球の試合や練習が行われる施設だが、
試合の時以外は一般人もコートに入る事が出来る。
そして、試合に支障を来さない端のスペースでなら、ポケモンバトルを行う事が可能である。
…と言ってもこの事が発表されたのはつい最近で、利用者は片手で数えるぐらいしか居ないのが現状だ。
「ここなら思う存分動けるでしょ?」
「確かにこの広さなら充分だな」
コートに足を踏み入れると、2人は距離を取って向かい合う。
(一体何が始まるんだろう)
芝生を指で弄りながらリオは交互に2人を見る。
「じゃあ、始めましょうか」
アヤネはモンスターボールを手に取る。
母の言葉に応えるようにアキラもまた、モンスターボールに手を伸ばす。
「私が勝ったら旅を止めて、大人しく家に帰って来なさいね!」
「ああ。だけど俺が勝ったら好きにさせてもらう」
(アキラが言ってた望みって、これの事…?)
これから始まるであろう2人のバトルを見るのが急に恐くなり、リオは下を向く。
ドキドキと心臓が煩い。
手は無意識に芝生を握り締める──手の平と指先に芝生の痕が付く。
「…しっかし母さんも大袈裟だよな!旅を止めろ──ただその一言を言うために、
ヒウンのポケモンセンターから出て来た俺を空から拉致るんだからな。
てっきり一刻を争う話かと思ってたから、あまりの馬鹿げた内容にほんっとーに拍子抜けしたぜ」
「ば、馬鹿げた内容!?」
呆れるように肩を竦めたアキラにアヤネは憤慨する。
眉間にこれでもか、というぐらいに皺が寄る。
折角の美人が台無しだ。
「旅はリオちゃんが一緒だって言うから許したんです!彼女はしっかりしてるし、頼りになるから。
それなのに、今は1人で旅をしてるらしいじゃないですか」
(誰だよ、母さんに告げ口したのは)
こういった最悪の事態を予測していたからこそ、母親が仕事でライモンシティを離れている隙に
バッジをゲットして速やかに次の街へ行こうと思っていたのに、これでは折角立てた計画が水の泡だ。
アキラは名前も顔も分からない相手を恨む。
「俺は間違った選択をしたつもりはない。それを今から証明してみせるさ」
「そう。なら、貴方の力を私に見せてちょうだい!」
言い終えるとアヤネはモンスターボールの開閉ボタンを押す。
光と共に姿を現したのは、赤いだるまのような姿をしたポケモン──だるまポケモンのダルマッカ。
「相手はダルマッカ…だったら、ここはお前に任せる!」
アキラはボールを上へと投げる。
出て来たポケモンは回転しながら綺麗にコートに着地する。
体操選手顔負けの見事な着地を見せたのは、大きな爪を持つモグラの姿をしたポケモン──もぐらポケモンの
モグリューだ。
「母さんが先攻でいいぞ。レディーファーストだ」
「女の人に優しいアキラのそんな所、母さんは好きですよ」
「はは、サンキュー」
「さて…それじゃあ遠慮なく行かせてもらいます。ダルマッカちゃん、頭突き!」
短い手足を体に納め、本物のだるまのように左右に揺れていたダルマッカ。
目を閉じているから居眠りでもしているのかと思ったアキラだが、アヤネの声に素早く手足を出した
ダルマッカは、モグリューに強烈な頭突きを喰らわせた。
吹き飛ばされそうになりながらも、モグリューは既の所で踏み止まる。
「小せぇのに、なんつーパワーだよ…こりゃ、相性がどうとか言ってられねぇな…!」
「もう一発、頭突き!」
「そう何度も喰らってたまるか!泥かけだ!」
再び頭から突っ込んで来たダルマッカに、モグリューは地面を掘り起こし、泥をダルマッカの目にかける。
『!?』
突然悪くなった視界に驚いたダルマッカは反射的に手を顔に伸ばす。
集中力が途切れたため《頭突き》は不発に終わった。
「こらっ!泥を目に向かって投げるなんて駄目でしょ!!」
「た、確かにそうだけど仕方ねぇだろ!?」
指を突き付ける母の、あまりの剣幕に圧され気味のアキラ。
そうこうしている間に、ダルマッカは顔についた泥を芝生に擦りつける事で落とし終えていた。
「悪い子には、お仕置きの拳骨です!炎のパンチ!」
「拳骨ってレベルじゃねぇだろソレ!?メタルクロー!」
拳と爪は交差し、相手の体に傷をつける。
目の前で激しい攻防が繰り広げられているのに、リオは未だに顔を挙げられないでいた。
(前、お母さんが言ってた。アヤネさんは私のライバルだって。そんなアヤネさんに、アキラが勝てるの?)
リオは心の中で自問自答する。
答えは……否だった。
(アキラの旅がこんな所で終わるなんて、絶対いや!……そうだ。私が、あの時アキラを止めてれば、)
「リオ!!」
「!」
自己嫌悪に陥りかけたリオを止めたのはアキラの声だった。
バトルに夢中で自分の事なんか気にも留めていないと思っていたからこそ、自分を呼んだアキラに驚いた。
リオはゆっくりと顔を挙げる。
「目の前で俺のバトルが繰り広げられてるんだぞ?もっと嬉しそうな顔しろって!」
「なっ…!そ、そんな事言ってる場合じゃ「応援」…え」
「そうやって怒れる元気があるなら俺の応援してくれよ。母さんは強い。だから応援の1つでも無きゃ
勝てねぇんだよ」
アキラの顔が不機嫌な物から笑顔へと変わる。
(あの時も、アキラはこうやって笑って…安心させてくれた)
リオは立ち上がり、声を張り上げる。
「……馬鹿アキラッ!勝たないと一生口利かないから!!」
「ちょ…!待てソレ応援じゃなくて脅迫じゃねぇか!」
アキラは溜め息を吐く。
しかしその表情は、どこか嬉しそうだ。
「…決めましょうダルマッカちゃん!一発逆転、フレアドライブ!!」
炎を纏い、全身全霊の力を込めてダルマッカが突進して来る。
芝生は消し炭と化し、空気中に漂い視界を悪くする。
だあぁんっ!!
そして、何かが壁に叩き付けられる大きな音が鳴り響いた──