二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 48章 完全密室と1匹の子猫 ( No.91 )
- 日時: 2018/02/13 18:37
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
「ぅ……」
誰かの駆ける音と何かを叩く音に、リオは重たい瞼を開いた。
「ここ、どこ…私、一体……?」
朦朧とする頭を押さえ、現在自分が居る場所を確認する。
まず目に入ったのは黄色。
四方八方どこを見ても黄色一色で、窓や入り口らしき物は見当たらない。
(何で?私、さっきまで遊園地に居たのに。アレを見てからの記憶が無い…というか、何であの女の人は──)
リオは考えるのを中断する。
自分の後ろから、聞き覚えのある声がしたからだ。
「待ち、やがれっ…!そいつぁ、俺の……」
「アキラ!起きて!」
手を伸ばして苦し気に呟くアキラの肩を揺らす。
暫くしてアキラが身動いだ。
瞼がゆっくりと持ち上がり、深緑色の瞳がリオを映した。
「お・そ・よ・う。随分魘されてたわね」
「リオ…?本当に、リオなのか?」
目をぱちくりさせるアキラに小さく笑う。
「こんな完成度が高い偽物が居るワケないでしょ」
「……そっか。そうだよな」
心底ほっとした様子のアキラにリオは笑みを無くす。
「……どうしたの?」
「…何でもねぇよ。それよりさ、他の人は無事なのか?」
触れられたくない内容なのか、アキラは話題を変えようと必死に口を動かす。
リオはそれ以上深く追求するのを止め、アキラの質問に頷く。
「多分ね。皆、眠ってるだけだと思う」
その場に倒れている人達は皆、規則正しい呼吸をしていて、命に別状は無さそうだ。
「それなら一安心だな。…あの姉ちゃんが犯人か」
「ここに居ない時点でまず間違いないわね」
「マイペースな眼鏡っ娘とばかり思って、すっかり油断してたぜ」
(アキラの場合女の人に対してはいっつも油断しまくり、頬緩みっぱなしじゃない)
喉から出掛けた言葉を飲み込んで、リオはライブキャスターを手に取る。
「女の人が来てから、15分しか経ってない…」
(…って事は、私達が今居る場所は遊園地からそんなに離れてない所なのかしら?)
どんな方法で自分達を移動させたのか分からないが、この大人数だ。
ポケモンの《テレポート》で移動させるという手もあるが《テレポート》は基本的に1人ずつしか
移動出来ないため時間が掛かる。なのでコレは無い。
次に飛行ポケモンに運ばせる、巨大な水ポケモンの背に全員乗せて海を渡る手がある。
まず飛行ポケモンに運ばせるのは、往復する時間が掛かるから無いだろう。
巨大な水ポケモンの背に…という方法については否定は出来ないが、そもそも【ライモンシティ】に
巨大な水タイプのポケモンを出せる様な海は無い。
(方法がどうであれ、観光客も多い【ライモンシティ】…誰かに見られる可能性は高いし、
遠出は出来ないハズだわ)
むむむ、と人差し指で米神を押さえて自分達が居る場所を絞り込むリオ。
しかしそんなリオの頑張りは、アキラの次の一言で見事に壊される。
「分かったのは眼鏡の姉ちゃんが犯人だって事、俺達が遊園地のピカチュウバルーンの中に
居るって事だけだな」
「…………はい?」
手を下ろし、アキラを見るリオ。
その顔は若干引き攣っている。
「…何で分かるの?」
「何でって…俺は11年この街に住んでんだぞ?周りから聞こえる声や音で、今自分がどこに居るかくらい、
簡単に分かるさ」
ふふん、と得意そうに笑って自分を見るアキラに、リオも笑顔で反撃に出る。
「凄いわね!じゃあ、当然ここから脱出する方法も知ってるのよね?」
「まさか。地元の人間とはいえ遊園地の関係者じゃない、一般人の俺が知ってると思うか?」
そう言って、アキラは大袈裟に肩を竦める。
「従業員なら知ってるかもしれねぇけど、その従業員が犯人なんだもんな」
「結局、出口は自分達で探すしかないって事ね」
溜め息を吐き、上を見るリオ。
つられる様にアキラも上を見る。
「あと調べてないのは天井だけ、か」
「…全っ然先が見えないな」
光が差し込んでいる所為か、それとも天井がそれ程高い位置にあるのか上の方がどうなっているのか
目視出来ない。
「仕方ない。ここはバルチャイに見に行ってもら────」
腰のベルトに伸ばした手が止まる。
口を震わせるリオに徒〈ただ〉ならぬ何かを感じ、アキラはリオの前に屈み顔を覗き込む。
「…どうした?」
「無いっ…!バルチャイの、皆のボールが無いの!!」
「!?」
アキラはカッ、と目を見開くと近くに落ちていた自分のバッグを引き寄せ、外ポケットに手を突っ込んだ。
しかしその手は何も掴まずに静かに下ろされる。
「……チッ。ご丁寧に空のボールまで無くなってやがる」
「イベントっていうのは私達を一カ所に集める口実で、最初からポケモンを盗むのが狙いで…?」
「監禁だけならまだ許せるけど、よりによってポケモン泥棒かよ」
「いや、許さないでよ」
どこかズレた幼馴染の発言に突っ込む。
「…というか、どうするの!?皆の事は勿論心配だけど、私達、完全に脱出する方法を見失ったわよ!
このままじゃ、中の空気が無くなって……」
リオはそれ以上言うのを止めた。アキラもまた、リオが言いたい事は分かっていた。
バルーンは気体を入れて膨らませる物だが、中の気体がずっと残るワケでは無い。
日にちが経つと中の気体が減るし、バルーンは段々しぼんで行く。
もし、その中に人が入っていたら──
「……遊園地にある物はシンボル的要素があるし、決められた時間に気体を入れているとは思うけどな」
「アキラはその時間って、」
言い終わる前に首を横に振られ、リオは俯く。
(色んな事が起こりすぎたせいかな。頭が痛い…息も、なんだか苦しい……)
目を開けているのも怠くなって、リオは目を閉じた──
その時。
「辻斬り!!」
凛とした声と何かを切り裂く音が鼓膜を貫き、リオは閉じた目を開いた。
音のした方向を見ると自分の真横の壁に、ぽっかり穴が空いていた。
「2人共無事!?」
そしてその穴から顔を覗かせたのは、数分前まで一緒だったアヤネだった。
「は、はい…」
「なんとか無事だよ、母さん」
アヤネの顔を見て、一気に不安だった気持ちが吹き飛んだ2人はぎこちなく笑った。
そんな2人をアヤネは力一杯抱き締める。
「良かった…本当に、良かった!」
「アヤネさん…」
「…お前も、助けてくれてサンキューな」
アキラは紫色の体毛と切れ長で大きな緑色の瞳を持つ、子猫の姿をしたポケモンを撫でる。
性悪ポケモンのチョロネコは喉を鳴らし、お返しにアキラの頬を舐める。
入り込む光と風、そして自分達を包む温もりに、リオとアキラは顔を見合わせ微笑んだ。