二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 51章 暴走列車 ( No.98 )
日時: 2018/02/13 19:02
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


「頑張れー、疲れたら休んでいいかr「見つけた!」ありゃりゃ?」

後ろから聞こえた第三者の声に振り返る。
するとそこには、遊園地で見掛けた2人の子供が立っていた。
新緑を思わせる綺麗な瞳と黒真珠の様な光を持った瞳が、自分に向けられる。


「ビックリしたー、誰かと思ったら遊園地に居た子かー」

とても驚いている様には見えない。笑っているせいか、むしろリオ達を待っていた様にも見える。
一言も喋らないリオとアキラに構わず犯人は続ける。


「こんな所まで着いて来ちゃったのー?君等は、今ポケモン持ってない。つまり丸腰でしょー?」
「生憎、俺達はしつこいんでね。…丸腰?関係ねぇよ」
「ヒトモシ達を、皆のポケモンを返して!!」

静かに相手を睨むアキラと、感情のままに声を張り上げるリオ。


「……」

そんな2人の姿に犯人は哀しそうな顔をした──しかしソレは一瞬で直ぐにへらり、とした笑顔になる。


「………うん。どんな相手にも自分を貫き通せる、勇気がある子は嫌いじゃないよー。むしろ大好き」
「その言葉、アンタが悪者じゃなかったら素直に喜べたんだがな」
「〝アンタ〟じゃないよ。ボクにはちゃーんとフェイク、って名前があるんだから」

自分を指差してニッコリ笑うフェイクに、リオは息を吐いて気持ちを落ち着かせる。


「フェイクさん、もう1度言うわ。皆のポケモンを返して」
「無理だよー。だって君等のモンスターボール、ボク持ってないし」

あまりにもアッサリ言われ、2人は反応に遅れた。
しかしリオよりも早く言葉の意味を理解したアキラがフェイクに詰め寄った。


「持ってないって…どういう事だ!?」
「そんな恐い顔しないでよー、嘘じゃないよ。証拠にほら、モンスターボールなんて
 どこにも無いでしょー?」

手をひらひらさせるフェイクに2人は押し黙る。
運転席に行くまで中を調べたが、この車両にはモンスターボールどころか埃1つすら見当たらなかった。
今フェイクが居る運転席にだって、モンスターボールを隠せる場所は存在しない。

フェイクの言葉に偽りは無かった。


「本命は今頃とおーい所かもねー」
「つまり…貴女は真犯人から私達の注意を逸らし、こうして追って来た私達をココに閉じ込める為の
 囮ってワケ?」
「ピンポーン。大正解〜☆」

茶化しているのか真面目なのか──嬉しそうにリオに拍手を送るフェイク。


「おい」

そこに、アキラが大きな声を出した。
拍手を止め、フェイクはニコニコとアキラを見る。


「何かなー?」
「こんな回りくどい事をする必要はあったのか?アンタなら何時でも俺達を眠らせるなり、撒くなり
 簡単に出来たハズだ。こんな密室にわざわざ俺達を閉じ込めて何になる?」

アキラの疑問にリオはハッとする。


(確かに囮だとしても、ここまで自分を危険に晒す必要は無いわ…)


「うーん。それはそうだけどさー、どんな仕事も成功率が高い方が良いでしょー?特に、そこの女の子」
「…私?」

「そう。君は子供だけど要注意人物にピックアップされてるから、こうして一時的でも
 動きを封じる必要があるのさー。たとえ自分が捕まるとしてもね」


(要注意人物?何それ…私はこの人と過去に会った事は無い……それなら誰が、いつ、
私をそういう人間として捉えたの?)


色々な事が起こりすぎて頭の中はショート寸前だというのに、目の前の人物は
自分を〈要注意人物〉等と言う。

訳が分からない。
真犯人は誰で、どこに居るのか。
皆は無事なのか。

様々な想いが駆け巡って、頭を掻き毟りたくなる。
でもソレをしてしまったら余裕が無いと思われそうで、戦う前から負けてしまう気がした。
リオは開きかけた手を握りしめる。

そんなリオを隠す様に前に立ったのはアキラだった。


「なるほど。それならフェイクさん…アンタ、大人しく捕まる気はあるんだよな?」
「アキラ…」

2人を見ていたフェイクの顔が、ふっと緩む。


「…悪いけど、抵抗はさせてもらうよー?だってボク、悪役ですもん」
「ああ、そっちの方がありがたい。無抵抗の女の人に攻撃すんのは趣味じゃねぇ」
「じゃあボクは良い方向に進む様に悪あがきしますかねー…ねぇ、大変だけど頑張ってくれるー?」

フェイクは先程から後ろで待機していたポケモンに声を掛ける。
そのポケモンは頷くとフェイクとアキラの間に移動する。


『……』

シルエットは鳥、古代の象形文字を沸騰させる奇妙な姿をしたポケモン──鳥擬きポケモンのシンボラーだ。
遊園地でリオ達を眠らせたのも、今この列車を動かしているのもこのポケモンだ。


「真犯人の情報を聞き出して、アンタも真犯人も捕まえる。そんで犯人の目的をぶっ潰す!
 頼んだ、イーブイ!!」

アキラのショルダーバッグから出て来たのは、相棒のイーブイだ。
その姿を見て、初めてフェイクが驚きの表情を見せた。


「あれー?君のモンスターボールは全部回収したつもりだったのに」
「こいつは家で留守番してて無事だったんだ。残念だったな」
「そっかー、それなら納得」

疑問が解決してスッキリしたのか、うーんと伸びをしてフェイクはアキラとイーブイを見る。


「この列車の終点が天国になるか、地獄になるか…すっごく楽しみだねー」

笑みを崩さず、フェイクはシンボラーを撫でる。


列車は【シリンダーブリッジ】に向かって加速する──